バレンタイン
名前
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―私が校内アルバイトをしている理由は内密にしている。お金を稼ぐのは大事だけれど、本来の目的はそれではない。
「名前は、毎回しののんのお手伝いしてるな」
校内アルバイト仲間である明星先輩が親しげに紫之くんの事を「しののん」とあだ名で呼んでいるのが少し羨ましかったりする。私と彼は未だに苗字で呼び合っているのだが、それが定着している為、今更何も言い出せない。
「私が勝手にお手伝いしてるだけですよ」
「僕の仕事なので、無理しないで下さいね」
「それはこっちの台詞だよ。紫之くん働き者だから」
自らが所属するユニットの活動資金を集める為とはいえ、健気に働く彼に心を打たれた。何というか…庇護欲を掻き立てられる。こういうのって普通、男性が可愛い女性相手に思うものなんだろうけれど。
「名前ちゃんが優しいから頼りすぎてしまいますね」
「すみません」と、申し訳なさそうなシュンとした表情をしなくてもいいのに…。清廉潔白な彼は思惑を隠している穢(きたな)い私とは対照的な存在だ。好きになってはいけなかった相手なのかもしれない。
「今日はお天気が良いですから洗濯日和ですね」
本日の校内アルバイトは洗濯。この寒い時期の水仕事は辛いものだ。全ての洗濯物を干し終えた彼の指先は赤くなっていた。そして、それは私の手も同様だった。空気が乾燥しているせいで手荒れが悪化してしまいそうだ。ふと思いついて、鞄の中からハンドクリームを取り出した。それを少し多めに出して両手に馴染ませてから彼の両手を握った。突如ハンドクリームを塗られ、驚いている様子で目を瞬かせている。
―「紫之くんはアイドルなんだから、手荒れは禁物だよ」
「このクリーム、お花のいい匂いがしますね」
お礼を言って微笑む彼の笑顔に癒される。私よりも明らかに可愛い。そんな彼に想いを募らせるのは間違っているだろうか。本日は2月14日。好きな人に想いを伝える日でもある。無論、彼へのチョコレートは用意してあるのだが…。
「名前ちゃん、渡したいものがあるのですが…」
予想外な事に、恥じらう彼から手渡されたのは綺麗にラッピングが施されたプレゼントだった。本来なら私が贈る立場なのに…。呆然と立ち尽くす私の鼓膜を震わせた言葉は幻聴なのかと感じた程だ。
「これが本命チョコだと言っても、名前ちゃんは貰ってくれますか?」
「断る理由なんてないよ。私達、両想いなんだから…」
貴方に先を越されちゃった―
END