バレンタイン
名前
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―赤色とピンク色の風船で飾り付けられたバレンタインムード一色の場には似つかわしくない溜め息が零れた。好きな異性が居るわけでもないのに、悩むのはおかしい。
「どうせ義理なんだし…」
自己暗示のような言葉を呟いて、商品を手に取った。後輩達のはこれでいいか。と、直ぐに決められたのに…。アイツのだけは、まだ決めかねている。本命でもないのに…なんて、苦笑を浮かべながら。薔薇型のパステルカラーのチョコレートを目にした途端に、ある人物の顔が脳裏を過ぎった。三奇人の一人である彼とよく三年間も同じ部活でやってこれたな。と感慨深い気持ちにさせられる。
バレンタイン当日―
「プレゼントは名前さん自身じゃないのですか?」
私が折角選んだチョコを渡した時の彼の第一声がこれだった。普通の人ならお礼を言うべき所で、あろう事か文句を付けられた。
「付き合ってもないのに、そんな事するわけないでしょ」
「交際しているか否かは関係ありませんよ。私が名前さんを愛しているのですから」
どうしてこんな状況に陥っているのだろう。背中は壁に当たっているし、私達の距離は僅か数センチ。変態仮面のくせに綺麗な顔してるなぁ…なんて悠長に考えている余裕はない筈だ。
「それ、義理チョコなんだけどな…」
―私が演劇部の後輩達にチョコを渡す場面を見ていたにも関わらず、この奇人は勘違いしている。私があげた義理チョコを本命チョコだと思って「アメージング」といつものテンションになっている。これは困ったものだ。
「隠していても、私には分かりますとも。ご安心を」
いや…恥ずかしいからとか、日々樹への恋心を隠しているとかそんな理由じゃないのだけど多分。入学当初からのクラスメイトであり部活仲間である彼の事を意識していた事がないわけではない。説明するのが億劫になってきた。もう、どうにでもなれ。
「じゃあ、それが本命チョコだとして、アンタはどうするつもりなの?」
「それは勿論…美味しく頂きますとも。このチョコを名前さんの素肌の上に飾ったら、さぞかし美しいでしょうから」
ビターな貴方は、甘いチョコと一緒に食べたら程よい甘さになるのでしょうね。なんて、余計な一言だ。そんな、密やかで妖しい雰囲気が漂う中で彼の温もりに包まれ耳元で囁かれた。
「今は私に惚れていなくてもいいのです。いずれは私なしでは生きていけないくらいに惚れさせてみせますから」
「凄い自信ね。アンタのそういう性格嫌いじゃないけど」
もうとっくに、好きになっていたのかも―
END