バレンタイン
名前
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※中学時代設定
―「そこは貴様の席じゃないだろう?」
まだ誰も来ていない朝の教室。名前は敬人の声にびくりと肩を震わせた。「おはよう」と挨拶の声も動揺して微かに震えていた。そして、背中で何かを隠しながら隣の自分の席に座った。訝しげな視線を彼女に向けつつ、敬人が隣の席に鞄を置いた。机の中には先程、彼女が入れた小さな箱が。御察しの通り、本日は2月14日である。この時間なら誰にも見つからずに彼の机にチョコを入れるのが可能だろうと判断したが、お目当ての人物の登校は予想外に早かった。びくびくとしながら彼の反応を窺っていれば、机の中に入っていたものに気付いたらしく、その箱が明るみになった。「なんだ。これは」と状況が呑み込めていない様子の彼に「なにそれ。プレゼントじゃないの?」と名前は私何も知りませんといった様子で声をかける。隣の席ということもあり、この後ギクシャクした空気になりたくない。と、彼女はしらを切ることに決めた。「敬人くん、今日何の日か知らないの?寺の息子にバレンタインなんて関係ないか…」と呟けば「確か、女性が男性にチョコを贈る日だったな」と興味無さそうな表情で敬人が名前の方へ振り向いた。
「それで、これは誰が俺の机に入れたものなんだ?名前は俺よりも先に来ていたんだから知ってるだろう?」
「その人にはきちんとお礼をしなければ」と彼は何とも律儀な性格だ。「知らないよ。貰っておけばいいじゃない。敬人くんモテるね〜」自分の気持ちがバレてしまったらと考えると顔から火が出そうだ。だが、その気持ちとは裏腹に、少しくらい疑ってくれてもいいんじゃないか。と矛盾した思考回路に陥ってしまう。無言で顔を俯かせてしまった彼女の反応に、敬人は困惑していた。何か気に触ることを言ってしまったのではないかと。しかし、それと同時に彼女の不審な行動を思い返していた。いつもなら、もっと遅く登校してくる名前が今日は自分よりも先に登校していた。それに加え、何故か自分の席に座り何かを隠しているような態度を見せていた。勝手な憶測かもしれない。それでも一かバチかの賭けに出ることにしたのである。「名前。ちょっと付いて来い」と手を引かれ、教室を連れ出された彼女はわけも分からず近くの空き教室に連れ込まれた。想いを寄せる彼と密室に二人きりというシチュエーションに、歓喜よりも逃げ出したい気持ちが勝ったが、目前には鋭い眼光で自分を見つめる敬人が。逃げ出せる筈もなく…何を言われるのだろうかと身構えた。その怯えた表情を見て、愉快げに口角を上げた彼は嗜虐的に微笑んで問いかける。
「あれは、貴様が入れたものだろう?その証拠に、今日はなんだか挙動不審じゃないか」
「挙動不審は余計だよ。知らないふりしてごめん」
バレてしまっては仕方ない。と、腹を括ったように真実を明かす彼女だが、どうしても素直になれない部分が露呈した。「敬人くんに勉強分からないとこ教えてもらったりしてるし、そのお礼でサプライズしたかったんだけど…」と、この言い方だとまるで義理チョコのようだが、正真正銘の本命チョコである。しかし、鈍感な敬人がそれに気付くわけもなく…。「嘘をついたことに関してはたっぷり説教してやろう」と彼は活き活きと瞳を輝かせている。だが、説教の長い彼が口を閉ざすくらい、唐突な名前の台詞は彼にとって予想外で胸を甘く締め付けられるものだったのだ。「まさか本命チョコあげて説教されるとは思わなかったよ」と苦笑して彼を見据えた彼女の髪に指を滑らせながら観念したように彼は笑う。
「説教はなしだ…って、なんだその不満そうな顔は」
「説教してくれたら、もっと一緒にいられるなぁ…なんて」
「貴様も大概度し難いな。兎に角、今日のお礼は必ずするから期待しておけ」
「お礼なら、敬人くんのチューがいい」
「気が変わった。説教してやろう」
END