バレンタイン
名前
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―私達には毎年恒例のイベントがある。2月14日と言えば分かるだろうか。バレンタインデーには毎年、幼馴染みの鬼龍紅郎にチョコを贈っていた。彼の見た目に恐がって女の子は近寄って来ない。彼に本命チョコを渡すのは私だけ…その筈だった。だが、今では彼は紅月というアイドルユニットで活躍している。
「まさか名前が来てるとは…」
「そんなに驚かなくてもいいでしょ」
最初に紅月のライブに訪れた時の彼との会話はこんなものだった。紅郎を好きなのは私だけだと思っていた。それなのに、知らない間に彼は遠い存在になっていた。それがとてつもなく切なくて胸が締めつけられた。
―「紅郎だって期待してないよね…」
彼が帰ってくる時間に合わせて家の前で待機している私の小さな独り言は白い息と共に消えていった。料理上手な彼に手作りのものを渡すなんて滑稽かもしれない。買ったものにすれば良かった…なんて今更後悔している。
―「こんな寒い所に居たら風邪引くぞ」
腕を引かれてそのまま彼の自宅に連れていかれた。「中で待ってればよかったのに」なんて怒られながら。
「紅郎はアイドルだもんね。私からのチョコなんて、もういらないよね」
帰宅した彼が持っていた鞄の中には明らかにプレゼントが入っているのが窺えた。途端に切なさが募って踵を返そうとしたが、それは不可能だった。
「俺は一言もいらないなんて言ってないだろ。帰ろうとすんな」
紅月は和風ユニットだから他のユニットよりもプレゼントの数は少ないらしいが、彼が私以外の女性からチョコを貰った事には変わりない。複雑な感情が胸の奥に広がっていく。
―「こんな夜更けに男の部屋に入るなんて、名前は相変わらず警戒心がないな」
彼の部屋に招かれて、ドアを閉めた途端に耳元で囁かれた言葉に身を固くした。腰には彼の腕が回されている。抵抗する気なんて微塵もない私に比べて、彼は戸惑っている様子だ。何だろう…この反応の差は。
「警戒心がないんじゃなくて、紅郎ならいいと思ってるだけだよ」
「名前のそういうところ、狡いよな」
「狡いって何が」と、ソファーに腰掛けた彼の隣に座って問うてみた。思ったよりも距離が近くて、彼の顔がすぐ傍にあった。
「紅郎ならいいとか、幼馴染みだからって油断しすぎなんだよ」
ほら、また私の頭を撫でる。妹と同等の扱いには困ったものだ。私ばかりドキドキしてるなんて馬鹿らしいじゃないか…。
「今年は名前から貰えないんじゃないかと思ってた」
「そんなわけないでしょ」と私が笑えば、彼は安心したように息をついた。彼の隣はドキドキするけれど安心する。この関係は心地良いけれど、もどかしい。
「私ね…今まで紅郎にしか手作りチョコ渡した事ないんだよ」
「紅郎が作った方が美味しいんだろうけど」という言葉は彼の唐突な口付けのお陰で告げられる事はなかった。
「名前が可愛すぎるのが悪い」
「紅郎が幼馴染みなのが悪いんだよ」
そのお陰で、貴方しか見えなかった―
END
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