朱桜司
名前
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-私が「むぅ〜」と、むくれている理由なんて、誰にも話したくない。例えKnightsの瀬名泉さんでも無理。「ぶっさいく。何それ顔芸?」とか言われてイラッとしなかったわけじゃない。しかし、今の私のイライラの矛先は瀬名先輩というよりもあんずさん相手にデレデレしてる朱桜司くんなので。むしろ瀬名先輩と軽口を言い合うのは嫌いじゃないし。
「かさくんも隅に置けないねぇ。それにしても、アンタ趣味悪…」
瀬名先輩のゆうくん語りが始まった。遊木先輩がどんなに綺麗で可愛いとか、瀬名先輩の妄想も若干入ってる気はするけれど、好きな人のことでこんなに自信満々に語れるとは羨ましい。私が司くんに片想いしていることを推測されて、「趣味悪い」とか言われても反論できない。だって、私は御曹司の彼の横に並べるような身分じゃないし。そもそも、司くんは礼儀正しく見えるけど慇懃無礼なところもあるし瀬名先輩からすれば「かさくんのどこがいいっていうわけぇ?」となるのは仕方ない。私はべつに瀬名先輩を嫌ってるわけでもないし、後輩いびりはいつものことなので気にしていなかったのだけど、私達のやり取りを誤解して駆けつけた人物が…。
「瀬名先輩!名前さんをいじめるのはやめて下さい」
「勘違いなんだけどぉ。名前もなんで俺の背中に隠れてるわけぇ?」
瀬名先輩の少し強引なところが発揮され、私は首根っこ掴まれ背中を押されて司くんの胸に飛び込んだ。わざとじゃない。瀬名先輩のせいだけど。やっぱり好きな人に抱きとめられると、嬉しくて恥ずかしくてどうしていいのか分からなくなる。「司くん。ごめんなさい」と謝ったけれど彼の腕に抱かれた感触を忘れられなくて、ついつい余韻に浸ってしまう。「かさくんがあんずと仲良さそうにしてるの見てヤキモチ妬いてたらしいけど」と言い残して瀬名先輩が去っていく。そんなこと言われたら、私が司くんを好きなのが本人にバレてしまうじゃないか。と焦って逃げようとしたが、唐突に手を引かれて再び司くんの腕の中へ。
「名前さんの意中の相手は瀬名先輩なのではないのですか?」
「どう考えても名前の好きな相手かさくんでしょぉ?どんだけ鈍感なの」
「瀬名先輩!しーっ」
いつの間にか戻ってきた瀬名先輩に核心をつかれて、私はこの場から消えたくなった。抱きしめられてたとこも見られたし。「あの…さっきの瀬名先輩の言葉とか全部忘れて!」と必死に誤魔化したけれど、司くんは「嫌です」と即答。私の恋愛終わったとか勝手に玉砕モードに入っていたのに。人目につかない校舎裏に連れてこられて彼に追い詰められた。これは女子の憧れ、壁ドンというやつだ。「これが紳士のすることですか」なんてドキドキを沈めようと内心は悪態をついていたら、彼の口からとんでもない台詞が飛び出した。
「名前さん。私の許嫁になってはくれませんか?」
「無理だよ。私は庶民だし平民だし、朱桜の坊ちゃまのお相手には…っ」
私みたいな一般庶民が司くんの許嫁なんて相応しくないに決まってる。庶民の娘を嫁に選ぶなんて、お貴族界隈や朱桜家のご両親も反対を通り越して心配することだろう。下手したら私は「坊ちゃまを誑かして…」とか言われてしまいそうだし。だから、私の恋なんて成就しないでいい。司くんとはプロデューサーとアイドル。そしてクラスメイトという関係のままでいい。そう自己完結しているのに、司くんは意外と頑固だった。「頷いて下さるまで、この手を離しませんよ」と。何これ脅迫?
「伏見先輩も、うちの坊ちゃまのお相手に。なんて名前さんのことを狙っていましたし。私はあなたを誰にも盗られたくないのです」
「何それ初耳。あなた方は政略結婚ていうのが普通なのでは?」
そう…私は器量よしでもないし、ご令嬢のようなお淑やかさもないし。それなら司くん憧れのあんずお姉さまのほうがいいのでは?なんて穿った見方しかできない。「そもそも、司くんはあんずさんのことが好きなんでしょ?」と問いかけると胸が苦しくなった。 優しいから私の気持ちに応えようとしてくれているだけでしょ。と不貞腐れた子供みたいなことしか考えられない。私のこと好きでもなんでもないくせに…なんて。未だに彼は近すぎる距離を保ったまま、顔の横に置いた手も離してくれない。
「私は名前さんがいいんです。妻にするならあなたがいい」
END