鳴上嵐
名前
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―「やっばい!今日も鳴上先輩美しすぎる」
物陰に隠れてある人物を凝視している名前に「おはようございます」と声をかけた同じクラスの司だったが、彼女の視線は近くに居る自分ではなくその後ろに居る鳴上嵐に向いている事に気付いた。その発言を耳にして「相変わらず鳴上先輩に夢中なのですね」と苦笑した彼は少しでも協力してあげようと、ユニットの先輩である嵐に声をかける。「鳴上先輩おはようございます」と挨拶をしたことから、彼が近くに来て司の横に立っていた彼女にも話しかけた。「あらァ、一年生の可愛い子じゃないのォ~!」と。名前と初対面ではなかった嵐が彼女に「おはよう」と挨拶をする。だが、憧れの彼が自分なんかを覚えていてくれた事に、歓喜のあまりキャパオーバーした彼女は司の計らいも虚しく「おはようございます」と返すだけで精一杯だった。その後、教室に入った司は彼女に「折角のchanceだったのですから、もっとtalkすれば良かったのでは?」と言及する。確かに、司の言い分はごもっともだ。
「鳴上先輩と少しでも話せただけで十分なの。眺めてるだけで幸せなんだからいいの」
「はぁ。そういうものですか」と理解し難い気持ちの司だが、モデルでありアイドルとしても輝いている嵐を好む彼女の趣味は否定出来なかった。「鳴上先輩今日も美人だった」と恍惚とした表情で息をついた彼女に「嵐ちゃん先輩はとってもいい先輩なんだぜ~!」と嵐と同じ陸上部である光が賛同した。「私も足が速ければ、同じ部活に入れたのに…」と残念がる彼女に、何か閃いたように提案する光。「名前ちゃん、陸上部の見学に来ればいいんだぜ!今日は活動日なんだぜ~!」と。
「そっか!その手があったか。部活中の鳴上先輩かっこいいだろうなぁ~」
「ところで、どうして名前ちゃんは鳴上先輩に夢中になったの?」
誰もが疑問に思っていた事を名前の隣の席のゆうたが問いかける。今やA組では知らぬ者は居ないほどの鳴上厨の彼女だが、そのきっかけは誰も知らなかった。「よくぞ訊いてくれました!」と言わんばかりににっこりと微笑んだ名前は当時を思い出すように瞳を細めて語り始めた。「その日は学院の入学式でね…敷地内で迷子になって途方に暮れてたんだ。そんな時、サァッと風が吹いて桜の花びらが舞ったの。思わず視線を上げた私の目の前に現れたのが麗しの鳴上先輩だったって訳」
その後も優しく案内してくれてさ…と惚れ惚れとした様子で語る彼女だが、この感情は恋愛ではないと自ら断言していた。「名前ちゃんは先輩が好きな~」と宙が見透かしたように言うと「私なんぞが鳴上先輩に想いを寄せるなんて烏滸がましい。恋愛的な好きじゃなくて、あの美しさとか存在に対する憧れが強いだけなんだよ」と随分腰の低い事を告げる彼女の気持ちをこのクラスの誰一人理解出来ずにいた。
―「なに?なるくんのスクラップ本…?」
「あぁ~っ!それ私のです!」
「なにアンタ。なるくんのファンなわけ?」
この時、名前と瀬名泉は初対面だったが、互いに通じるものがあると感じていた。嵐が載っている雑誌を買ってはその写真を切り抜き、アルバムに貼って保存していた彼女だが、ある時アルバムを置き忘れ、探していた時に瀬名泉と出会った。「あ、あなたは…瀬名泉さん!」と既に彼のことを知っていた名前を、泉にしては珍しく受け入れていた。そんな経緯を経て、二人は意気投合していた。「訊いてよ名前。ゆうくんがさぁ、ホワイトデーにお返しくれたんだよ」とガーデンテラスにてノロケ話をする泉を疎ましく思う事もなく、彼女は素直に「いいなぁ。良かったですね」と相槌を打っている。
「そーゆうアンタはなるくんにバレンタインあげたわけぇ?」
「あげられるわけないです」そう返した彼女の台詞を遮ったのは鳴上嵐、その人だった。「あら。泉ちゃんったら、名前ちゃんを虐めるのはやめてちょうだいよォ?」と唐突に現れた彼の姿に動揺し、この場から逃げてしまいそうな彼女に牽制をかけたのは泉である。「こら。逃げないの」と。
「だって、鳴上先輩が素敵すぎて…私、昇華しそうなんですけど…」
「らしいよ。今の訊いた?なるくん」とくすくすと笑いながら嵐を一瞥した泉は「後は任せたから」と言い残してこの場から立ち去っていく。「二人っきりにしないでぇ…」と恨めしそうに泉を睨み腕を伸ばす名前だが、彼らに背を向けヒラヒラと手を振った彼は振り向きもしなかった。
「あら、何かしら?このアルバム…」
「あ!これは、だめです…っ」
彼が開いたその本こそ、嵐の写真しか載っていないものであり、本人にバレてしまった恥ずかしさと惨めさに消えてなくなりたいと思う彼女だったが、そんな彼女の心情を知る由もない彼は「嬉しいわァ。ありがとう名前ちゃん」と綺麗な笑みと共に彼女の頭を撫でるのだった…。
「いい人生だった…」
「何言ってんのアンタ。気を利かせてやったのに…もっと話す事あんでしょ?」
「泉さん…いつの間に戻ってきたんですか」
END