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InsteadLost~sub story~

きっかけは、今から六年前───。
密かな趣味のお菓子作りに使う、ラズベリーを摘みに街外れにある森に人目を忍んで一人来ていた少年。
屋敷に戻ろうと立ち上がったとき、帰り道を塞ぐように魔物が低く唸っていた。
尻餅をつく少年。勉学しか習わされてない彼に打開策は無かった。

だがそこに、突風が吹く。
瞬きする間に魔物は倒れ、止んだ突風から一人の男性が現れる。

『びっくりさせてごめんなー?泣かないで偉かったな。』
そう言って少年の頭を雑に撫でた。きついアルコールの匂いがした。

少年───スピサ=イースクラはそのとき、突風に心を奪われた。

それからは勉学の合間に、こっそり執事から剣術を教わった。
男性と同じ世界に行く為に。
それを知った家族はスピサを諦めた。特に母親は、あの子は駄目だと弟ばかり見るようになった。
スピサは特に気にしなかった。
だって自分だってあの男性しか見ていないのだから。



───月日は流れ、貴族だったスピサは男性がブレイカ騎士団の所属だと噂で知り、屋敷を出て自らも入隊した。

入隊式までスピサは浮かれていた。
もうすぐ運命の再会があると。
あの人は成長した自分を見たらどんな反応をするだろうかと。

しかしスピサはその運命の日に二度、失望することになる。

ロンタゼルスからの挨拶も頭に入って来ず、目線で男性を探す。
やっと見つけたとき、スピサは幸せの絶頂にいた。
重ねて次の挨拶はその男性らしい。五月蠅いくらいに鼓動が高鳴る。

「は、初めまして…。陛下よりご紹介に与った、第三騎士団長、ラファガ…です。み、皆さん…頑張って下さい…。」

「は?」

自然と声が漏れた。
男性、ラファガの声は激励には弱々し過ぎで、他の団長からもそれだけかー?、なんて弄られている。

自分がこの六年間、想い描いてきたあの凜々しく優しい騎士様など、何処にも居なかった。

でも、自分のことは流石に覚えているだろうと、入隊式が終わった後、人混みを掻き分けてラファガに問う。
「あ、あの!オレのこと!覚えてますか!」

「えー…と、ごめん。ちょっと記憶に…無い、かな…。」


その夜、スピサは酒場のカウンターに居た。
ラファガの発言以降、自分がどうやって此処に至ったのかも覚えていない。

「あれじゃ、ただのよわよわじゃん…。」
飲んだことのない安い酒を流し込む。

「あれ?昼間の…スピサだよな、隣いーい?」
既に酔っているラファガが答えも待たずに腰掛ける。
「ごめんなー、覚えてなくて。でも今日からはスピサもおれの可愛い後輩だ。」
そう言いながら六年前と同じように頭を撫でた。

「~っ!?さ、先に失礼します!」

寮のベッドで、枕に顔を埋め、ごちゃごちゃの思考を巡らせる。
酒を飲んでいたラファガは確かに六年前と変わらないラファガだった。
酔っているからなのだろうか。
自分はラファガの酔ってる部分しか好きじゃないのだろうか。

酔いもあって上手く気持ちが整理出来ない。
いつのまにか眠りに落ちていたスピサに声が掛かる。

「起きて、スピサ。朝礼始まっちゃうよ?」
「!!?」

ラファガだと認識した瞬間、スピサは飛び起きる。
「ねねね、寝顔見たんですか!!?よわよわ先輩の癖に!!!」
スピサは真っ赤になり、ラファガに枕を投げる。
「よ、よわよわ先輩って…おれのこと…?ていうか、早くしないと遅刻しちゃうよ…?」
「オレのことなんて、放って先に行けばいいじゃないですか!」

「放ってなんて出来ないよ…おれの可愛い後輩だし。」
そう言ったラファガは頭を撫でてくれたときと同じ、優しい笑みを浮かべていて。

ああ、やっぱりオレはこの人の全てが好きなんだ。
地位も家族も捨てたオレには、もうこの人しか生きる意味が無い。


それからスピサはラファガを見かける度、突っかかる態度をとるようになった。
その方が、自分を少しでも長く見てもらえるから───。
他の騎士達の中で、スピサは浮いた存在になった。
本当はラファガ団長は強いのに、と。
そんなの自分が一番知ってる。世界中の誰よりも。

ラファガにとって所詮、自分はただの可愛い後輩のうちの一人だ。
この恋が叶うことなんてない。

だから、一生。突っかかり続けようと決めた。
ラファガの脳内から自分の存在が無くならないように。





「そういえばロンたんー。お宅のスピサ君とラファガ君、いつくっつくのさー?アレ完全に両想いだろう?」

ある夜の会食でヒィはロンタゼルスに問う。

「…あぁ見えて二人とも奥手だからな。二人共、互いの想いに気付いていないようだ。」
「えぇー。」

食事の手を止めてしまうヒィ。

「そういえば一度、ラファガにスピサをどう想っているのか、それとなく聞いたんだ。そうしたら、


『スピサですか…?勿論可愛い後輩ですよ。…でも、おれ酔うと気が大きくなっちゃうんで…いつかこの手で繊細なスピサを壊すんじゃないかって…それが怖い…です。』


…と苦笑しながら私にだけ打ち明けてくれたよ。」
ロンタゼルスは、私もお喋りになってしまったなと肩をすくめる。

「何だそれ?あー、焦れったい。」
そう言ってヒィは、不服そうにステーキにフォークを突き立てた。
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