InsteadLost~sub story~
気が付いた時には、独りだった。
母親は毎晩のように男を取っかえ引っ変え。
父親がどの男かなんて知りゃしねぇ。
五歳には紙くずをゴミ箱に投げ入れるように捨てられた。
何てことはねぇ。
もともとあの女に執着は無かったし、自分が"要らない子"だって自覚くらいはある。
それからは魔術の腕を磨きながら、人の弱みを売り買いしたりして掃き溜めで食い繋いだ。
九歳になった頃、小さな小屋に情報屋"スパイダーズウェブ"の看板を上げた。
死なねぇ為には、金が必要だ。
もっと。もっと。
だから情報の為ならどんな汚い事もするようになった。
丁度その頃、エアストウワン前王から諜報機関への誘いが来た。
だが俺は、
『そんな低賃金で働きたくありませーん。』
一蹴してやった。
ジヤヴォールとかいうエルフが転移石を実験的に作ったとかで売りつけに来た事もあった。
バカ高かったが俺が買い取った。
効果は本物だった。これで俺の情報網も広がる。
それからだ、ヴォルと取り引きをよくするようになったのは。
まぁ、情報網が広がった分、俺は世界的に要注意人物として扱われるようになったんだが。
笑えるな。いや、やっぱ笑えねぇ。
"要らない子"が次は"世界の邪魔者"だ。
十九歳になったある日の昼間。
扉から小さなノックが聞こえた。殺気は感じなかった。
『どーぞー?』
返事は無かった。
仕方なくわざわざ俺から開けてやった。
『あ、あの…。"お兄ちゃん"ですか…?』
『おに…!?』
瞬間、吐き気がした。
よくよく声の主を見る。
髪は俺と違ぇ水色のふわっとした髪。
『あ。』
目だ。俺と同じ、檸檬色の目。本当に俺の妹だとしたら…。
あの女、まだ男漁ってんのかよ。心底気持ち悪ぃ。
『スウェト、っていいます…。六歳です。お母さんが、お兄ちゃんのところに行けって…。』
お兄ちゃんってまた呼びやがった…。
俺は吐き気と八つ裂きにしてぇ衝動を抑えて、なかなか思うように成長しないこの身長でも見下ろせるクソガキに現実を突きつける。
『此処にテメーの居場所なんざねぇよ。エアストウワンにでも行け。あと、もう一度でもお兄ちゃんって言ってみろ、テメーが世界の何処に逃げようが殺す。』
妹だろうが知ったことじゃねぇ。こんなガキ、仕事の邪魔になるだけだ。
エアストウワンへの道中、魔物の餌にでもなりゃあいい。
そう思ってたのに。
『オラ、此処がエアストウワンだ。あとは人伝に施設へ行け。』
何故か俺はクソガキをおぶってエアストウワンまで届けていた。
背中に残った生温い体温が不快で堪らねぇ。
ああ、早く帰って風呂に入りてぇ…。
クソガキはその後、"生きる為"とか言って剣の修行したり図書館で知識をつけてるみてぇだ。
知りたくて知った訳じゃない。風の噂ってやつだ。
あー、バカみてぇ。
俺らは所詮、捨て子。この湯の中で空気を吐いては一瞬で消えちまう泡みてぇに意味のねぇ存在なのに。
なんて思いながら、死なねぇ為に集め出した、情報も金も、今となっては俺の"生き"甲斐になってる。
生きるって何だ?
死ぬって何だ?
頭ん中がぐるぐるしてきたのを逆上せた所為にして、俺は思考に蓋をした。
二十六歳になった現在。
ユウジ様という玩具を手に入れた俺は、面白ぇ存在を知ることになった。
司祭、それは不老不死にして総ての世界の総てを知る人ならざる者。
俺にも人並み…じゃねぇか、他人からすれば夢物語みてぇな野望が出来た。
それは───、
────二代目司祭を名乗ること。
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