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InsteadLost~sub story~

神リュミエール様、すみません。
神聖なる貴方様に仕える者として、私は魔を除く全てを愛さなければならない。
ですがそれでも、私は夏が、

────大嫌いです。




『パパ、ママ!早く行きましょう!』
両親の手を引っ張り、軽やかな足取りで進む。
私達は毎週末、街外れの教会に通っていた。
そんな私を両親は笑いながら見守って下さった。

『今日もねー、皆と遊ぶんですっ!アレスくんとー、ムンちゃんとー…だっ!?』
両親が急に私の前で立ち止まった。
…………私を庇うように。
目の前には魔物がいた。

『母さん、パラドを。』
『えぇ。』

小走りで今度は私が母に手を引かれ、急いで街の方へと引き返す。
『ママ、パパは!?』
『大丈夫よ…聖水も持っているし、私達には神様がついていてらっしゃる…。』


『キィィイ…。』


その声を聞いた瞬間、全身に冷たい汗が伝うのを感じた。

先程の魔物が再び目の前に現れたのだ。
その手の爪を真っ赤に染めて。

魔物は笑い、今度は私に襲いかかって来た。
すると目の前が赤い液体でいっぱいになった。
それが誰の何なのか、理解するのに少し時間が掛かった。

『マ…マ?』
母は私に覆い被さって咄嗟にその命を投げ出した。

寒い。
太陽はこんなにも照っているのに、全身汗でびちょびちょで身体は冷え切っていた。

『パラド。神様を恨まないで、ね?』
青白い顔で最期に母はそう言って私に聖水を渡した。
その聖水を私は大泣きしながら、周囲に振りまいた。
それに怯えたのか、魔物は去って行った。

炎天下、血溜まりに死体が二つ。
そこまでで私の四歳の夏の記憶は途切れた───。




「っっ!!?はぁ…はぁ…!!」
十四歳となった私は今でもあの夏の悪夢を見る。
教会に引き取ってもらい、昼間はどんなに子供達の笑顔を見て幸せになったって、真夜中になるといつも母と父の血を見るのだ。
これが、夢の中だけだったらどんなに良かったか。

自室を出て、子供達を起こさないようひっそりと水飲み場へ行き水を一杯だけ飲む。
ふと鏡を見る。我ながら酷い目の下の隈に、なんて表情だと嗤ってしまう。

その時、外から硬いものを鈍器で殴るような音がした。
「!まさか…っ!」
教会の入口に立てかけていた棍を片手に外へ飛び出す。

予想通りだった。
敷地内にある墓地は滅茶苦茶に荒らされ、欠けた墓石すらあった。
犯人は、幽霊…いや、もっと力を持った…

「亡魔ですか…!」

「わたしの…おはか…どこ…?」
見たところ二十代で死んだ女性の亡魔だった。
「此処に貴方の墓石はありません、去りなさい。」
「いやだいやだ…。」

どうやら話は通じないようだ。
亡魔を殴ってみる。亡魔は幽霊と違って実体を持っているので多少は効く筈だ。
「!いたい…。なにするの…!?」
いきなり狂暴になった亡魔は私に襲いかかって来た。
私はあの時と同じように聖水を振りまいた。

「あついあついあついあついあつい…!!!!」

亡魔は苦しみながら消えていった。
母と父の墓石を急いで見に行ったが…。
「ごめんなさい、母さん、父さん。」
墓石は大きく欠けていた。


それから私は、どうせ眠れない夜を墓守として過ごすようになった。
シスターはそんな私の事を心配して下さったが、
「徹夜は慣れていますから。」
私は張り付けた笑顔で流した。


そんな年の夏のある日。
子供達の護衛でついて行った森で私は出逢った。
ふわりふわりと幻想的に漂う精神体。本で読んだことがある、これは低級の妖精だ。
『ねぇねぇ、きみ。きみは何が欲しい?』
「その前に。貴方達は神リュミエール様の遣いですか?」
『うーん。そうだなぁ。ぼくたちはただの中立。言ってみれば興味本位だよ、くすくす。』
「そうですか…。なら、」
私は賭けに出た。この信用のおけない者達相手に。

「私は力を所望します。皆を護れる、力を。」
『せいかい。それがきみだよ、くすくす。』

持っていた棍が"私だけの"棍へと変化し、森が鎮まる。

「助けて!!パラドお兄ちゃんー!!」
「あの子達がっ…!!」
咄嗟に響いた声の方へと向かう。低級の妖精のことなど忘れていた。
『もう、ひどいなー。でも、その調子だと使い方も間違わないかな?くすくす。』

子供達が魔物に襲われようとしていた。
無我夢中で魔物を殴っていた。あの夏の仇をとるように。

「パラドお兄ちゃん…?もう魔物さん、死んじゃってるよ…?」

その子の一言で我に返った。
「皆さん、無事で何よりです…!」
そう言って私は子供達を抱き締めた。

その夜。
「パラドにーちゃん、かっこよかったんだぜー!!ひゅうっ!からのぼかんぼかん!!」
「ありがとね、パラドお兄ちゃん!」
「なんか救世主さまみたいだったよね!!」

そんな子供達の笑顔を横目に、幸せを噛み締める。

ああ、神リュミエール様───。
私は漸く、夏を克服出来そうです。
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