InsteadLost~sub story~

ああ、家が燃えている。
今日はオレの十八歳の誕生日。
はしゃいでなんかいない。寧ろ驚くほど冷静だ。
両親は家に押し入った盗賊に目の前で殺された。
なんとか逃げてきたオレも、方々火傷している。

「おい、鼠一匹残してんぞ。」
「何か金目のモン持ってねぇか調べるか。」
放火した二人の盗賊に追いつかれた。

オレは甘かった。
此処はストリェロークの中でもスラム街。
悪さを悪さとも思っていない犯罪者や、全てを失った放浪者の掃き溜め。
オレは盗賊で、人から物を盗む。
だが他の盗賊や暗殺者が俺を標的としないなんて、断定なんてない。
つまりは、奪う側にいるということは常に奪われる側にいるのだ。

毎年この日は、父親が盗んできた材料で母親が小さなケーキを作ってくれていた。
俺の味覚に合わせて甘さは控えめだった。
幸せな、家族生活だったと思う。

せめて、両親の為にも一矢報いよう。
武具のブーメランに手を掛けた。
「何、抵抗しようとしてんだよ!」
盗賊の一人が、それに気づいたらしくオレを蹴り飛ばす。
そしてナイフでオレの頬を斬りつけた。
一瞬、何が起きたのか分からなかった。数秒後、痛みが無理矢理に現実に引き戻す。

頬の傷、全身の火傷、あちこちにある打撲。
反撃するには手負いが過ぎる。

「おー。やっと見つけたぜ。」
仲間が更にやって来たか、と思ったがどうやら違うようだ。
「あ?誰だ、邪魔すんな!!」
「誰だ、って…悲しいなぁ?俺のこと、覚えてないのかよ。十一年前、身包み剥いでくれたじゃねぇか。」
「うるせえ!!訳分かんねえこと吐かすなよ!!!」
激怒した盗賊が、男の方にナイフを振りかざしながら近づいていく。
男は動じることなく、鎖の鞭を盗賊の足に絡め転ばせる。
「これが俺の人道なんでな。ちょいと苦しんでもらうぜ。」
男は盗賊に向かって手をかざし、水の魔術を放つ。
それは激流で盗賊全員を飲み込み、窒息寸前まで追い詰めるように責め続けた。
魔術から解放された盗賊は未だ失神している。

「んで。お前。持ち上げるぞ。」
「え?」
男はオレをいきなりお姫様抱っこし、病院、といってもこの街にあるのは闇医者くらいだが、病院に連れて行くと言いだした。
男は道中、腕のいい闇医者だから安心しろとオレをなだめた。


オレは病院で何針か縫ってもらい、外で待っていた男…シニエリウスに礼を言ってから本題に入った。

「シニエリウスさん!貴方に惚れました!!これからは貴方の舎弟になります、アニキと呼ばせて下さい!!」

その言葉にシニエリウスは苦笑した。
「マジかよ…。つかまた兄貴になんのか…。」
「ん?また?」

「何でもねぇよ。俺の弟分になるからには、これからは悪人からしか盗まないこと。あと弱いからもっと強くなること。いいな。」
「はい!」


オレは十八歳の誕生日に最高のプレゼントを貰った。
『アニキ』に出逢うという奇跡を。
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