InsteadLost~sub story~

フェアリーの夕方。
今日も歌うのを終え、サインなんかを書いてあげたりしたらこんな時間だ。
今日は枕仕事もないし、早く宿で休みたい。
そんな時に限って面倒はやってくるものだ。

「おぉ〜!ベゼくん!」
声を掛けてきたのは孔雀のような羽と尾羽を持つ、人間の上半身をした魔物、ハルピュイア。
それも特殊な部類だ。
「今日も歌ったの?聴きたかったなぁ〜!」
「なんだ、アンタか。」
「むっ!久々のシショーに向かってなんという口の利き方っ!?シショー、泣いちゃう…。」
そう。この面倒臭いハルピュイアこそ、『俺様』の人生を変えることになった、歌の師匠。

そういえば、この人と出逢ったのもこんな夕焼けの中だったな。



「やめてよぉ…!」
「うるせー、女男!」
「黙って標的になってろ!」
幼少時代の『ぼく』は、その女々しい容姿からいつも虐められていた。
ある時は石を投げられ、ある時は水をかけられ…。
生傷が絶えない毎日だ。

虐めっ子達が怖かった。怖くて怖くて仕方がなかった。

ぼくなりに対策もした。
肩まである髪を自分で切ってみたり、男の子らしい恰好をしてみたり。


───何をしても、変わらなかった。

日が沈みそうな中、このまま何処かに逃げてしまおうか。そんな絶望に駆られる。

「キミ、大丈夫かい?」
ふと声を掛けられる。その声にさえびくびくと怯えていると優しく声の主は言った。
「ワタシで良ければ、話聞くよ。」

正気じゃなかったぼくは、それまでの辛さを全て無我夢中で吐き出した。
声を掛けてくれたハルピュイアは、ただただ黙って聞いてくれた。

「ふむふむ。あっ、そういえばキミにピッタリの楽譜があったな…。」
そう言ってハルピュイアは荷物を漁る。
「楽譜?ぼく、歌なんて歌えないです…。」
「まあいいから、持っててよ!」
半ば強引に楽譜を押し付け、そのままハルピュイアは帰ってしまった。

次の日も虐められ、その日は森に逃げて来ていた。
生傷が痛みながらも、ぼーっとしていると、茂みからぼくと同じくらいの背丈の男の子が出てきた。
「おやおや。虐められっ子ですか。こんなところでピーピー泣いてでもいましたか?」
嫌味を並べるその男の子はサングラスをかけて、ぶかぶかのローブを着て、フードを被っていた。
なんだか不気味さを感じながらも恐る恐る聞く。
「きみは、誰?」
すると男の子はさっきの嫌味とは違い、真っ直ぐな視線を向けながら言った。
「貴方に名乗る名なんてありませんよ?貴方、何故虐められているか分かりますか?」
ぼくが首をかしげると男の子は続ける。
「はぁ~…敬語遣うのも馬鹿らしくなるな。テメェが虐められんのは、テメェが自分を見てねぇからだよ。」
「いたぞ、あそこだ!」
「チッ。お喋りが過ぎたか。」
誰かから逃げるように、素早い動きで男の子は去って行った。


自分を見る、かぁ…。


家に帰り、楽譜を手に取る。
よく歌詞を見てみる。

「あ。」

そうか。自分を見るって。


「おい、今日も女男いるぜぇ~?」
「俺らのこと無視してんじゃねぇよ!」

その日、ぼくは、羽ばたいた。
とびきりの自分に合うお洒落をして。
「はぁ~?何かほざいた?」

やばい、声が震えそう。足もがくがくする。

「は?女男の癖に生意気なんだけど。」
「ちょっと、汚い手で触ろうとしないでよ。あ、もしかして『俺様』の美しさに嫉妬してるの、可哀想~。」
なんて大胆な態度をしてみる。
上手くいくかな…。

「う、うるせー!開き直ってんじゃねー!」
「き、きもいんだよ!」

虐めっ子達は逃げて行った。
「やった…んだよね。」
俺様はその場にへたり込んだ。

「やったね、少年!グッジョブだよ!」
何処から見ていたのか、ハルピュイアが笑顔で出てきた。

「あのっ、俺様に歌を教えてくれま…ないかっ!えっと…!」
「プファオ、だよ。シショーと呼びたまえっ!」
「ありがとう、プファオ。」
「だから…シショーだってばーーーーーーー!!!!」




「ホント、何処で育て方間違えたかなー…?」
プファオは一人でぶつぶつと呟いている。

でも、俺様が虐めに勝てたのは、プファオのお陰だ。あと、認めたくはないけどチートくん。

あの日渡された楽譜に書かれていた歌詞。
それは。

『自分を好きになることが強くなる一歩』。
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