InsteadLost~sub story~
パウジェを救いに来た勇司。
そんな光に、暗く深い闇を纏ったパウジェは重い口を開き語った。
「あれは、五年前のことだ───。」
五国大会議───五つの国王達が集まり行う非常事態への緊急措置がその日に開かれていた。
議題は"魔人の増加への対策"。
『ここはやはり根源を絶つべきだ。俺が出向き、魔王を討つ。』
強気な意見を出したのはブレイカ前王、ガリザウス=オーハディ。
『国王自ら戦線に出るというのはあまり得策とは言えませんが…現在世界で確認されている救世主は大半がまだ子供。国宝を扱える僕達が戦った方が可能性としては高いかもしれないですね。』
冷静な分析をしつつガリザウスを肯定したのはエアストウワン前王、ニュメロ=ゲシュペンスト。
そこでオーヴァースカイ前王、ビケイ=カルリークが提案をする。
『小型の飛行船なら用意出来るぞ。五人なら乗れるじゃろうて。』
パウジェもこれで安心だと、笑った。
ただ一人、表情を曇らせていたのはフェアリー前王女、ロイエ=アリス。
パウジェは真っ先に彼女の心情を察し、気遣う。
『あ、そうか…ロイエのところは、エルルンちゃんがまだ三歳だったね。ロイエは無理をしなくても…。』
傍に控えるピッドナイトも、自分が代わろうか、と案じる。
だがガリザウスが鼻で笑う。
『子供達がまだ未熟なのは皆同じこと。勝って帰れば何の問題も無かろう。お前らしくもない。』
『…そうだな。私情を挟むべきではないな。吾も出向こう。』
凜とした姿のその内心にはまだ迷いが残っていた。
翌々日。
オーヴァースカイに集まった、旅立つ国王と見送り人達。
まだ少年少女だった現代王達は涙を見せるわけでも、激励するわけでもなく、静かに旅立ちの様子を見守っていた。
───まだ三歳だったエルルンを除いては。
『嫌だ嫌だぁ!!ママ、何処行っちゃうの!?エルルンも一緒に行くー!!』
『泣かないの、エルルン。ちゃんと帰って来ますから。──ピッド、後は頼むぞ。』
仰せのままに、とエルルンをなだめながら下がるピッドナイト。
"ママ、行かないで"というエルルンの泣き声は飛行船の離陸音に掻き消された。
それからは順調な旅路だった。
ビケイが国宝"フェアラートの宝玉"をはめ込んだハンドルで操縦し、助手席のパウジェが空中の魔物を魔術で一掃する。
地・水・火・風の魔力を増大させる国宝"ヘルセネンの結晶"により、どんな魔物でも適応可能だった。
廃墟となったレスコロードで幽閉されている元女王、デドマ=ルーナーティクスからも興味本位で"パンドラの鍵"をすんなりと渡され、魔界にも無事入ることが出来た。
魔界の空はくすんだ紫に濁っていて、空気もどこか淀んでいる。
『出来れば、このまま魔王の住処である"魔宮殿"までひとっ飛び…と行きたいところですが…。』
ニュメロが出来すぎた望みを口にした瞬間だった。
『ばぁ!』
フロントガラスに突然、宙を舞う子供が張り付いた。
ハンドルを切ろうとするが、機械が反応しない。
飛行船は不時着し、五人は外に出る。
『あははっ、わざわざ出てくるの待つなんて、ボクってば優し~。』
悪魔のツノと羽を持つその子供は、余裕たっぷりに笑う。
『おいニュメロ!ヤツの弱点は!?』
『今見てる!…え、何だこれ?』
臨戦態勢をとった一同。
ニュメロが得たい情報を覗くことの出来る国宝"イアンの天眼鏡"で子供の弱点を調べる。
しかし、天眼鏡は何も映すことなく、灰色に染まる。
『え、なになに?それでボクの弱点探ろうって?あははっ、無謀~。でも、それ持ち帰ったらファーター褒めてくれるかなぁ?』
そうはさせまいと、剣を振るい、魔術を放ち、光線銃を打つ。
そのどれもが、子供にひらりと避けられてしまう。
『あとの有象無象にはキョーミないや。』
子供の目つきが冷たく鋭いものとなる。
『!!?』
瞬く間に子供はガリザウスの目前に近づき、剣を握る左手に触れる。
『とーまれ。』
ガリザウスの指先から腕へと、どんどん温度が失われ、動かなくなっていく。
やむを得ないと、ガリザウスは自らの左腕を斬り落とす。
子供はその流れで、ロイエの足に触れ、ニュメロの右腕に触れる。
ロイエは膝をつき、ニュメロの右腕は無様にも垂れ下がる。
ニュメロの手からするりと落ちた天眼鏡を子供は拾い上げる。
『いただき~。さてあと二人かぁ。』
後方にいたパウジェとビケイの元に飛んで行こうとする子供。
それを遮るようにガリザウスの投げた国宝"クローフィの霜剣"がパウジェの前に突き刺さる。
『パウジェ!ビケイ!逃げろ!!その剣は息子に託してくれ!!』
ニュメロも垂れた腕を押さえながら二人を逃がすことに注力する。
『そうですね、情報を持ち帰るだけでも無駄死にではない。』
五回の使用制限がある国宝"ウルティオーの錫杖"。
残りの二回を子供と二人の周囲にピンク色の濃霧を漂わせることに使う。
するとロイエは完全な兎となる。
『さぁ、この錫杖をあの子に…!!』
『皆…!!でもっ…!!』
戸惑うパウジェに、怒鳴ることのないビケイが喝を入れる。
『馬鹿者!!!あやつらの意を無駄にするな!!!わしらには、次の世代へ未来を託す義務がある!!!』
半ば強制的に、パウジェはビケイに飛行船へと押し込まれる。
猛スピードで飛び去る飛行船を、二体と一匹の亡骸を足元に子供は見上げる。
『んー、逃がしたかぁ…追えるけど。本来の目的は魔王の"様子見"だし、怒られることはないかっ♪』
────イルシオン大陸ジンリン地方近海。
『くっ…そろそろ暴走する時間かのう…。』
先程、子供に触られたとき、妙な能力により機械がおかしくなった。
それをビケイが無理矢理フェアラートに望み続け、強引に飛んできたのだ。
国宝は凄まじい能力を持つ代償に、各々呪いがかかっている。
"フェアラートの宝玉"の場合はその名を【流れ星】。
慢心を持つと、使用者周囲その一帯を滅ぼすものだ。
今のビケイに驕りこそないものの、此処まで来ればもう平気と、"未来を"過信してしまった。
それもまた、慢心だ。
『パウジェよ、今から出来る限り低空飛行する!合図で飛び降りるのじゃ!』
『ビケイは…!?』
返事は無く、孫を頼むと言って宝玉を取り出し、パウジェに手渡す。
『今じゃ!!』
パウジェが海に飛び降りた数秒後、飛行船は太陽に近い位置で爆発した。
数日後、新たな国王達により五国大会議は開かれた。
託された国宝を胸に、パウジェは虚無感を背負いながら赴く。
誰もが目を伏せ、それは会議というよりもまるで葬式のような空気だった。
当時まだ王位に就いてなかったエルルンだけは、パウジェに怒り、散々に貶した。
パウジェはただ取り憑かれたように、ごめんなさい、と終始呟いていた。
イルシオンに帰ると、兵士に穂先を向けられ連行されている妻を目の当たりにした。
地下牢に幽閉されるらしい。
止めようとしたところへ、大臣がやって来る。
城下町の中心でショーがある、と卑しい笑みでパウジェに告げた。
こんなときに催しなど正気じゃないと思いながら、狂気に蝕まれたパウジェがとぼとぼと向かう。
人混みの中、行われていたのは、息子の公開処刑だった。
手を伸ばそうとするも届かず、愛しかった顔は、涙と共に宙に舞った。
『あああああああっ!!!?』
パウジェ=ウミェールシフは、粉々に壊れた───。
そんな光に、暗く深い闇を纏ったパウジェは重い口を開き語った。
「あれは、五年前のことだ───。」
五国大会議───五つの国王達が集まり行う非常事態への緊急措置がその日に開かれていた。
議題は"魔人の増加への対策"。
『ここはやはり根源を絶つべきだ。俺が出向き、魔王を討つ。』
強気な意見を出したのはブレイカ前王、ガリザウス=オーハディ。
『国王自ら戦線に出るというのはあまり得策とは言えませんが…現在世界で確認されている救世主は大半がまだ子供。国宝を扱える僕達が戦った方が可能性としては高いかもしれないですね。』
冷静な分析をしつつガリザウスを肯定したのはエアストウワン前王、ニュメロ=ゲシュペンスト。
そこでオーヴァースカイ前王、ビケイ=カルリークが提案をする。
『小型の飛行船なら用意出来るぞ。五人なら乗れるじゃろうて。』
パウジェもこれで安心だと、笑った。
ただ一人、表情を曇らせていたのはフェアリー前王女、ロイエ=アリス。
パウジェは真っ先に彼女の心情を察し、気遣う。
『あ、そうか…ロイエのところは、エルルンちゃんがまだ三歳だったね。ロイエは無理をしなくても…。』
傍に控えるピッドナイトも、自分が代わろうか、と案じる。
だがガリザウスが鼻で笑う。
『子供達がまだ未熟なのは皆同じこと。勝って帰れば何の問題も無かろう。お前らしくもない。』
『…そうだな。私情を挟むべきではないな。吾も出向こう。』
凜とした姿のその内心にはまだ迷いが残っていた。
翌々日。
オーヴァースカイに集まった、旅立つ国王と見送り人達。
まだ少年少女だった現代王達は涙を見せるわけでも、激励するわけでもなく、静かに旅立ちの様子を見守っていた。
───まだ三歳だったエルルンを除いては。
『嫌だ嫌だぁ!!ママ、何処行っちゃうの!?エルルンも一緒に行くー!!』
『泣かないの、エルルン。ちゃんと帰って来ますから。──ピッド、後は頼むぞ。』
仰せのままに、とエルルンをなだめながら下がるピッドナイト。
"ママ、行かないで"というエルルンの泣き声は飛行船の離陸音に掻き消された。
それからは順調な旅路だった。
ビケイが国宝"フェアラートの宝玉"をはめ込んだハンドルで操縦し、助手席のパウジェが空中の魔物を魔術で一掃する。
地・水・火・風の魔力を増大させる国宝"ヘルセネンの結晶"により、どんな魔物でも適応可能だった。
廃墟となったレスコロードで幽閉されている元女王、デドマ=ルーナーティクスからも興味本位で"パンドラの鍵"をすんなりと渡され、魔界にも無事入ることが出来た。
魔界の空はくすんだ紫に濁っていて、空気もどこか淀んでいる。
『出来れば、このまま魔王の住処である"魔宮殿"までひとっ飛び…と行きたいところですが…。』
ニュメロが出来すぎた望みを口にした瞬間だった。
『ばぁ!』
フロントガラスに突然、宙を舞う子供が張り付いた。
ハンドルを切ろうとするが、機械が反応しない。
飛行船は不時着し、五人は外に出る。
『あははっ、わざわざ出てくるの待つなんて、ボクってば優し~。』
悪魔のツノと羽を持つその子供は、余裕たっぷりに笑う。
『おいニュメロ!ヤツの弱点は!?』
『今見てる!…え、何だこれ?』
臨戦態勢をとった一同。
ニュメロが得たい情報を覗くことの出来る国宝"イアンの天眼鏡"で子供の弱点を調べる。
しかし、天眼鏡は何も映すことなく、灰色に染まる。
『え、なになに?それでボクの弱点探ろうって?あははっ、無謀~。でも、それ持ち帰ったらファーター褒めてくれるかなぁ?』
そうはさせまいと、剣を振るい、魔術を放ち、光線銃を打つ。
そのどれもが、子供にひらりと避けられてしまう。
『あとの有象無象にはキョーミないや。』
子供の目つきが冷たく鋭いものとなる。
『!!?』
瞬く間に子供はガリザウスの目前に近づき、剣を握る左手に触れる。
『とーまれ。』
ガリザウスの指先から腕へと、どんどん温度が失われ、動かなくなっていく。
やむを得ないと、ガリザウスは自らの左腕を斬り落とす。
子供はその流れで、ロイエの足に触れ、ニュメロの右腕に触れる。
ロイエは膝をつき、ニュメロの右腕は無様にも垂れ下がる。
ニュメロの手からするりと落ちた天眼鏡を子供は拾い上げる。
『いただき~。さてあと二人かぁ。』
後方にいたパウジェとビケイの元に飛んで行こうとする子供。
それを遮るようにガリザウスの投げた国宝"クローフィの霜剣"がパウジェの前に突き刺さる。
『パウジェ!ビケイ!逃げろ!!その剣は息子に託してくれ!!』
ニュメロも垂れた腕を押さえながら二人を逃がすことに注力する。
『そうですね、情報を持ち帰るだけでも無駄死にではない。』
五回の使用制限がある国宝"ウルティオーの錫杖"。
残りの二回を子供と二人の周囲にピンク色の濃霧を漂わせることに使う。
するとロイエは完全な兎となる。
『さぁ、この錫杖をあの子に…!!』
『皆…!!でもっ…!!』
戸惑うパウジェに、怒鳴ることのないビケイが喝を入れる。
『馬鹿者!!!あやつらの意を無駄にするな!!!わしらには、次の世代へ未来を託す義務がある!!!』
半ば強制的に、パウジェはビケイに飛行船へと押し込まれる。
猛スピードで飛び去る飛行船を、二体と一匹の亡骸を足元に子供は見上げる。
『んー、逃がしたかぁ…追えるけど。本来の目的は魔王の"様子見"だし、怒られることはないかっ♪』
────イルシオン大陸ジンリン地方近海。
『くっ…そろそろ暴走する時間かのう…。』
先程、子供に触られたとき、妙な能力により機械がおかしくなった。
それをビケイが無理矢理フェアラートに望み続け、強引に飛んできたのだ。
国宝は凄まじい能力を持つ代償に、各々呪いがかかっている。
"フェアラートの宝玉"の場合はその名を【流れ星】。
慢心を持つと、使用者周囲その一帯を滅ぼすものだ。
今のビケイに驕りこそないものの、此処まで来ればもう平気と、"未来を"過信してしまった。
それもまた、慢心だ。
『パウジェよ、今から出来る限り低空飛行する!合図で飛び降りるのじゃ!』
『ビケイは…!?』
返事は無く、孫を頼むと言って宝玉を取り出し、パウジェに手渡す。
『今じゃ!!』
パウジェが海に飛び降りた数秒後、飛行船は太陽に近い位置で爆発した。
数日後、新たな国王達により五国大会議は開かれた。
託された国宝を胸に、パウジェは虚無感を背負いながら赴く。
誰もが目を伏せ、それは会議というよりもまるで葬式のような空気だった。
当時まだ王位に就いてなかったエルルンだけは、パウジェに怒り、散々に貶した。
パウジェはただ取り憑かれたように、ごめんなさい、と終始呟いていた。
イルシオンに帰ると、兵士に穂先を向けられ連行されている妻を目の当たりにした。
地下牢に幽閉されるらしい。
止めようとしたところへ、大臣がやって来る。
城下町の中心でショーがある、と卑しい笑みでパウジェに告げた。
こんなときに催しなど正気じゃないと思いながら、狂気に蝕まれたパウジェがとぼとぼと向かう。
人混みの中、行われていたのは、息子の公開処刑だった。
手を伸ばそうとするも届かず、愛しかった顔は、涙と共に宙に舞った。
『あああああああっ!!!?』
パウジェ=ウミェールシフは、粉々に壊れた───。
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