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InsteadLost

「ホント、才能だよねぇ…。」
呆れながら言った誠也の視線の先には机に涎を垂らしながら突っ伏して寝ている勇司の姿があった。

勇司達は今、王立図書館に来ていた。

『情報収集か!!なら図書館だろ!!よし、誠也、行くぞ!!』
などと張り切っていた勇司の威勢は机について三分後には跡形も無かった。

「んー…知りたい情報が溢れててありがたいけど…まずは雨乃元に帰る方法かなぁ…なら低級の妖精について調べるしか…。異変についても気になるし…。」
すると独り言を呟いていた誠也に一人の少女が声を掛けてきた。

「あのー…出来れば机に涎を垂らすのは御遠慮して欲しいのですがー…。」
「ああ!!ごめんなさい!!すぐこのバカ起こしますんで!!」
そう言うと誠也は勇司の頭を容赦なくチョップした。
「いっで!!?何すん…」
「「しー!!!」」
漸く起きた勇司の大声を二人が制す。
それから少女はコホンと咳払いをしてから部屋の隅にある扉を指し、
「良ければ、あちらに私専用の休憩室がございますので少しお話しませんか?」
と言って誘ってきた。
誠也は取り敢えず勇司を此処に置いてはおけまいと、その少女について行く事にした。


「お付き合い、ありがとうございます。この図書館の司書官をしておりますスウェトと申します。」
少女は改まって自己紹介をする。
「あ、俺は万誠也です。」
「俺は真田勇司!」
「セイヤさんにユウジさんですね。どうぞお掛け下さい、今お茶を淹れますので。」

スウェトは二人分の紅茶を机に置くと気まずそうに話し始めた。
「実は、お二人にお話したいと思ったのは…その、セイヤさんがお読みになっていた本が…少し、気になったもので…。」
この世界の地理と世界構造の子供向けの本を読んでいた為、疑問を持ったらしい。
「もしかしたら、なのですが、お二人は人間界からの転移者なのでは?」

異世界とは知っていたが、此方の世界の人々は勇司達が住んでいた世界の事を『人間界』と呼ぶ事を初めて二人は知った。

「私で良ければ、基本的な知識はお教え出来ますよ。」
そう言ってスウェトは紙とペンを持って来て、五本の横戦を引いた。
「まず、この世界の構造です。
上から天界、精霊界、人間界、そして此処『万物界』、魔界と五つの層状にできています。あとこの線の、つまり世界の間を『世界の狭間』と呼んでいます。」
異世界へ転移した者は、大体が人間界から万物界への転移が多いらしい。
但し、転移する事自体がやはりレアケースらしいのだが。

「それで、万物界は大きく五つの大陸に分かれます。
各大陸は各々、武術帝国ブレイカ、魔術帝国イルシオン、知略大国エアストウワン、未来都市オーヴァースカイ、御伽之国フェアリーが統括しています。
そして大陸一つ一つも王国を中心にして、東西南北の区域に分かれ、各区域に大きな街が一つ現存しています。」
そこで誠也が尋ねる。
「えっ、こんな広い世界なのに国も入れて二十五の街しか存在しないの!?」
「大昔…国がまだ無かった時代は小さい街村が点在していたのですが、建国した初代王者達が魔物から市民を守る為に大きく堅固な街にまとめあげたんです。」
「成程…って、勇司、ついて来れてる?」
勇司の方を見るといっぱいいっぱいの様子で、眉間にしわを寄せながらゆっくりと頷いた。
「ごめんねスウェトちゃん?すごく分かりやすく説明してくれたのにこのバカがバカで…。」
「バカって二回言うなよ…。」

「へーぇ。転移者かー。なかなか興味深い。」


部屋の更に奥にある扉の方から声が聞こえたかと思うと、そこには白衣を着た女性が立っていた。
「ヒ、ヒィ様!?」
女性を見たスウェトが驚いた様子で椅子から立ち上がった。
「やぁ、スウェト君。お邪魔してるよ。ところで…、」
女性は視線をスウェトから勇司達に移す。

「ユウジ君とセイヤ君、だったかな?実は今夜、旧友と夕食を共にするんだ。君達も一緒にどうだい?勿論、君達の知りたい情報も話しながら、ね。」
窓から漏れる光を見て、もう夕方なのだと気が付いた。
宿もまだとっていなかったので、ありがたく承諾した。

勇司は、今日一日で大分情報を得られた事で、漠然とだが前に進めた気がして満足感を感じているのだった。
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