InsteadLost

「誠也、終わったぞ。」
勇司はこれまでに起きた事を兵士長に報告し、兵団から抜ける旨を伝えた。
「兵士長さん、異変について何か知ってた?」
「うーん…魔物もそう凶暴化してる訳じゃねぇみたいだし、心当たりは無いって。」
肩を落とす二人。
やはりあの不気味な声の主の元へ行かなければならないのか。
それは余りにも気が進まなかった。
「取り敢えず、エアストウワンへ寄ってから此処を目指そうか。」
食料の問題もあり、情報収集にも丁度いいという事で勇司もその意見に賛成した。

エアストウワンまで五日間。

その間に誠也が話してくれた。
「俺って武術も魔術も使うじゃん?そういう人の事、両術者っていうんだけど、差別的用語で"才を持つ愚者"ってのがあるんだよね。おかしくない?両術者はそれだけ戦術が広がるし、それを愚者だなんて。」
そう言った誠也の背中は寂しそうでもあり、怒っているようにも見えた。
「だからさ、俺はこの言葉を無くして両術者の認識を払拭をしたいんだ。」
くるりと振り返って笑顔で誠也は言った。

実際、魔術は家庭で使われたり、物を運ぶ際に異空間を創り出し其処へ物を入れる等、かなり身近なものであると兵士団で教えられた。この世界の殆どの人々が創魔晶、魔術を使う際に必要な結晶を所持しているらしい。

しかし勇司は物を運ぶという基礎的な魔術さえ使いこなせなかった。何度練習しても、剣術のように上手くいかないのである。
「誠也って、すげーんだな。」
「まぁね?俺、闇属性で光以外は使いこなせるしぃ?」
「謙遜って言葉知らねーのか。」
「あはは!…でもさ。俺ら転移してる時点で凄いと思うんだ。自画自賛じゃないけど。」
何故か、と勇司が問うと、
「だって低級の妖精に認められた人間だけが異世界転移出来るんだよ?」
「…そうだな。」
それを聞いて思い出すのはやはり家族や親友のこと。少し胸がズキンと痛んだ気がした。

そんな話をしている間に五日目になっていた。見えてきたのは堅固そうな大きい城。
やはり現在の地球とは異なった、中世の雰囲気が否めなかった。

「さ、行くよ勇司。まずは図書館を探して情報収集だ。」
「おう。」
勇司は誠也の背中を追って、知略大国エアストウワンへと足を踏み入れるのだった。
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