InsteadLost

その晩。勇司は焚き火を見つめ思い耽っていた。

記憶を取り戻した後、あの泉と祠はまるで最初から何も無かったかのように消え、気が付くと草原の真ん中に立っていた。
それだけではなく、配給されたただの兵士用の剣だった筈が見事な程美しい剣に変わっていた。それは手にすると、自分の為に作られたかのように妙に手に馴染んだ。

雨乃元町に帰る手段も見つけなければいけない。
数々の謎が勇司を苦しめた。

その時。
茂みの奥からガサガサと物音が聞こえた。
敵意を感じた勇司は急いで焚き火の火を消す。

すると三本のナイフが飛んでくる。この暗闇の中、的確に投げられたそれに驚きつつも剣で何とか払い除ける。
魔物にしては、手強い相手に感じる。相手が悪ければあるいは、魔人なのかもしれない。

ナイフを払いながら、間合いを詰めていく。
敵の正面で剣を振りかぶった瞬間、有り得ない人物が目の前に立っていた。
思わず剣を手放してしまった。刃が地面に落ちる音がその場に響く。

「せ、誠也?!なの…か?」
「勇司?!」

土砂崩れで死んだ筈の親友が、そこにはいた。

「何で…!」
「…積もる話もあるし、一旦座ろうか。」

それからお互いのこれまでの経緯を話し合った。
誠也はどうやら死ぬ直前で、あの声───誠也に言わせると低級の妖精、が声をかけてきて、勇司より先にこの近くの街に来ていたらしい。ただ、勇司との違う点は記憶を失くす事無く転移していたらしい。
そして誠也も同じくあの祠に行き、願いを言った、『雨乃元町に帰る方法を教えて欲しい』と。

「そうしたら、この世界の異変を治めたら帰れる、って。」
「この世界!?じゃあ此処は地球とは違う世界なのかよ!?大体、何で俺達が異変を治めなきゃいけねぇんだ!?」
思わず質問攻めをしてしまう勇司。
誠也も反論出来ず、静寂が少しの間流れる。

「お困りのようですねぇー?」
突如、低く唸るような声が何処からともなく話しかけてきた。
臨戦態勢をとる二人。
「情報が欲しければどうぞ、スパイダーズウェブまで、ククッ。」
空からひらひらと一枚のメモ用紙が降ってきた。何処かへの地図だ。

二人はその声を不気味に感じながらも、夜を明かすだった───。
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