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InsteadLost

勇司は家族と共に車で丘に向かっていた。
窓から見る風景はいつも通っている道の筈なのに、何度目を擦っても見慣れぬ世界。
隆起した道、倒壊した家々、燃え盛る街───。
天変地異とは、正にこの事を言うのだろう。
既に死者も大規模的に出てきているようだ。

丘に着くと、二つの影が走り寄ってきた。
「勇司!!」
「良かったぁ、ゆーじはへーきだったんだね…!」
しかしそこにもう一人の親友、誠也の姿は無い。
嫌な予感が頭を過ぎりながら勇司は恐る恐る聞く。
「え…誠也は…?」
暫しの沈黙が流れる。どうやら予感は的中したらしい。
誠也の家の隣に住む蘭が重い口を開いた。
「俺達の住む…西区は、殆どの家が倒壊したんだ…誠也の、家も…。」
その声は震えていた。当然だろう。

親友が、死んだ────。

それだけで事の重大さは身に突き刺さるように実感できた。
悲しみよりも先に、何とも言えない虚無感が胸を締め付ける。嘘だと、冗談だと言って欲しかった。

親友二人と共に先に行った家族の元へと向かっている最中───

「きゃああああああ!!!」

一人の女性の悲鳴が聞こえてきた。
そしてそれを始めに沢山の人が波のように押し流れてきた。
勇司達は何が起こっているのか理解が出来なかった。ただ、大衆の波になされるがまま、丘の茂みの方へと流されていった。

「ってて…何なんだよ…?地震は今治まってるってのに…。」
漸く悲鳴と響めきが止んだと思ったら、今度はやけに静かになった。
三人で座り込んでいると、
「ヒャハハハハ。」
身の丈程もある大きな鎌を持った少女が背後に立っていた、いや、それよりも目を引くのが止まることなく鎌から滴り落ちる雫、少女が着ている白い服にべったりと染み込んでいる液体。それが血であるのを理解するのに時間はそう要らなかった。
その少女の目は何処か虚ろで、狂ったように笑っている口元からは涎が垂れている。

コイツは、家族を、皆を殺した。しかも笑いながら。

直感がそう語る。
そして俺達の事も殺すだろう。

三人で逃げようと立ち上がると、突然背中を押された。
「よぉーし、僕ってばすんごく怒っちゃったぞー!」
希太が時間を稼ぐ気だ。でも、これ以上親友を失いたくなかった。だが蘭はそれを知って勇司の手を引いた。
二人が背を向けたのを横目に希太が、
「お前は絶対僕がたお」
そこで希太の言葉が途切れる。
勇司と蘭の足元にごろんと何かが転がってきた。
希太の、頭だった。
それを見た瞬間吐き気を催し、蹲り、胃の中にあった非常食を戻してしまった。
涙ぐんだ目で見上げると少女は鎌をまた振りかぶり、

その刃は一直線に、蘭の首へと振りかざされた。

あぁ、次は俺の番か───、

その瞬間勇司の中で何かが弾けた。

「テメェ、何がしてぇんだ!!俺達が何したってんだ!?何笑ってんだ!!」

頭の中は空っぽだ、でも口は止まらず動き続ける。

「俺から…全部奪いやがって…テメェなんざ…テメェなんざ…俺がぶっ殺してやる!!!」

腹から叫んだその瞬間、辺りの風景は一変し、白い霧に覆われる。

『くすくす、その心意気、嫌いじゃないなぁ?ほんとにあの子を殺したい?』

正体不明の声が囁く。しかしこの際、声の主が誰かなんてどうでも良かった。
「あぁ!!勿論だ!!」

『そっかぁ。それじゃ…ばいばい。』

その言葉を最後に、勇司の意識は遠くなっていった───。
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