InsteadLost
「ヤエド、見たか?アイツのツラ。ヒィと同じ反応してやがった。」
シニエリウスは己を見て驚愕したロンタゼルスを、鼻で笑った。
「アニキぃ…。弟さん気絶したみたいですけど、放っておいてよかったんですか?」
アニキと慕うシニエリウスには、弟のロンタゼルスと和解し幸せになって欲しいと願っているヤエド。
彼が心配していると、シニエリウスはその胸ぐらを掴み顔をぐっと近づけて睨みを利かせながら言った。
「アイツは王”族”。俺らは盗”賊”。仲良くお話なんて出来るワケないだろ。」
言い返したかったヤエドだが、鋭く光の差さない瞳で言われた事実に言葉を飲み込んだ。
一体何がシニエリウスをそこまで頑なにさせるのか。
「アニキ、弟さんと何があったんですか…。」
ことの始まりは、シニエリウスがまだ十歳だった頃───。
『両術科の何が悪ぃんだよ!』
王立エヴェイユ学園に通うことになったシニエリウス。
『武術帝国の王族ともある者が魔術に頼るな。』
冷たく見下ろす父ガリザウス。
弟ロンタゼルスと、エアストウワンの一人娘であり幼馴染みであるヒィまでもが武術科にかようというのに。
───まぁたロンタゼルスと比べんのかよ。
シニエリウスは心底うんざりしていた。
別に弟が憎いわけじゃない。
ただ出来の良い弟が褒められる度、心臓が締め付けられるような悲鳴を上げながら黒い感情が溜まっていく。
レールの敷かれた堅苦しい箱庭に、息が詰まりそうになるのだ。
いつしかシニエリウスは箱庭からの脱走を計画するようになっていた。
国外への抜け道を密かに調べた。
行き先は何処がいいか考えていた頃、地理の授業でスラム街"ストリェローク"の存在を知る。
自由になるには打ってつけだ。
そしてある満月の夜。
最低限の荷物を詰めたリュックを背に、音を立てないよう走る。
しかし国を出たところで、一人にだけ見つかり声を掛けられた。
『王子サマともあろう方がイケナイですねぇ~。』
物陰から月光の下へ出た声の主はツインテールの同い年くらいの少年で、嫌みな笑みを浮かべていた。
終わった、と思ったが少年は連れ戻す素振りも見せず手を振りながら、
『口外はしませんよ。ご安心していい旅を~。』
どうも胡散臭いが、なり振り構ってられはしない。
早く、自由な場所へ行きたかった。
自由の代償に身の危険が伴うことをストリェロークに着くなり思い知らされる。
『おー、この服も荷物も高値で売れんぞ。貴族か?』
街に入るなり、盗賊に襲われ身ぐるみ剥がされた。
これじゃダメだ。
もっと強くなりたい、変わりたい。
泥を啜った口でこれでもかと歯を軋ませた。
ポケットに残った泡銭で真っ先に買ったのは、染髪剤とピアッサー。
父と同じ黒髪が大嫌いだったからだ。
ピアスも父が嫌いだったものだ。
次にシニエリウスは死体が無造作に積まれた路地裏に行き、強烈な匂いに咽せながら黒髪で顔の原型の無い、自分と同じくらいの背丈の少年の死体を見つけ、合掌してからそれをブレイカまで運び、門の近くに置いた。
思惑通り、死体は失踪した自分だと大騒ぎになった。
これで、"シニエリウス=オーハディ"は死んだ。
その帰り。
人目につかない森で低級の妖精に囲まれる。
『きみは他のタネとはすこし違うね。力が欲しい?』
『──そうだな。他人をエゴで救うことにゃ興味ねぇが、自分の生き方を通す為の強さなら必要だ。』
低級の妖精は少し動きを止めた後、舞うようにふわふわと漂った。
『きみ、面白いね。その目なら、まぁ使い方も間違えないかな?』
シニエリウスは、"救世主"になった。
自分自身の為に。
力を手に入れたシニエリウスは正に自由を手にし、後にヤエドを弟分に取り、身ぐるみ剥がされた輩にもきっちり仕返しもしてやった。
これが"シニエリウス"の本当の人生だ。
「───別に、何もありゃしねぇ。」
そんな今を、シニエリウスは謳歌している。
それでいいと、そのときは思っていた。
シニエリウスは己を見て驚愕したロンタゼルスを、鼻で笑った。
「アニキぃ…。弟さん気絶したみたいですけど、放っておいてよかったんですか?」
アニキと慕うシニエリウスには、弟のロンタゼルスと和解し幸せになって欲しいと願っているヤエド。
彼が心配していると、シニエリウスはその胸ぐらを掴み顔をぐっと近づけて睨みを利かせながら言った。
「アイツは王”族”。俺らは盗”賊”。仲良くお話なんて出来るワケないだろ。」
言い返したかったヤエドだが、鋭く光の差さない瞳で言われた事実に言葉を飲み込んだ。
一体何がシニエリウスをそこまで頑なにさせるのか。
「アニキ、弟さんと何があったんですか…。」
ことの始まりは、シニエリウスがまだ十歳だった頃───。
『両術科の何が悪ぃんだよ!』
王立エヴェイユ学園に通うことになったシニエリウス。
『武術帝国の王族ともある者が魔術に頼るな。』
冷たく見下ろす父ガリザウス。
弟ロンタゼルスと、エアストウワンの一人娘であり幼馴染みであるヒィまでもが武術科にかようというのに。
───まぁたロンタゼルスと比べんのかよ。
シニエリウスは心底うんざりしていた。
別に弟が憎いわけじゃない。
ただ出来の良い弟が褒められる度、心臓が締め付けられるような悲鳴を上げながら黒い感情が溜まっていく。
レールの敷かれた堅苦しい箱庭に、息が詰まりそうになるのだ。
いつしかシニエリウスは箱庭からの脱走を計画するようになっていた。
国外への抜け道を密かに調べた。
行き先は何処がいいか考えていた頃、地理の授業でスラム街"ストリェローク"の存在を知る。
自由になるには打ってつけだ。
そしてある満月の夜。
最低限の荷物を詰めたリュックを背に、音を立てないよう走る。
しかし国を出たところで、一人にだけ見つかり声を掛けられた。
『王子サマともあろう方がイケナイですねぇ~。』
物陰から月光の下へ出た声の主はツインテールの同い年くらいの少年で、嫌みな笑みを浮かべていた。
終わった、と思ったが少年は連れ戻す素振りも見せず手を振りながら、
『口外はしませんよ。ご安心していい旅を~。』
どうも胡散臭いが、なり振り構ってられはしない。
早く、自由な場所へ行きたかった。
自由の代償に身の危険が伴うことをストリェロークに着くなり思い知らされる。
『おー、この服も荷物も高値で売れんぞ。貴族か?』
街に入るなり、盗賊に襲われ身ぐるみ剥がされた。
これじゃダメだ。
もっと強くなりたい、変わりたい。
泥を啜った口でこれでもかと歯を軋ませた。
ポケットに残った泡銭で真っ先に買ったのは、染髪剤とピアッサー。
父と同じ黒髪が大嫌いだったからだ。
ピアスも父が嫌いだったものだ。
次にシニエリウスは死体が無造作に積まれた路地裏に行き、強烈な匂いに咽せながら黒髪で顔の原型の無い、自分と同じくらいの背丈の少年の死体を見つけ、合掌してからそれをブレイカまで運び、門の近くに置いた。
思惑通り、死体は失踪した自分だと大騒ぎになった。
これで、"シニエリウス=オーハディ"は死んだ。
その帰り。
人目につかない森で低級の妖精に囲まれる。
『きみは他のタネとはすこし違うね。力が欲しい?』
『──そうだな。他人をエゴで救うことにゃ興味ねぇが、自分の生き方を通す為の強さなら必要だ。』
低級の妖精は少し動きを止めた後、舞うようにふわふわと漂った。
『きみ、面白いね。その目なら、まぁ使い方も間違えないかな?』
シニエリウスは、"救世主"になった。
自分自身の為に。
力を手に入れたシニエリウスは正に自由を手にし、後にヤエドを弟分に取り、身ぐるみ剥がされた輩にもきっちり仕返しもしてやった。
これが"シニエリウス"の本当の人生だ。
「───別に、何もありゃしねぇ。」
そんな今を、シニエリウスは謳歌している。
それでいいと、そのときは思っていた。
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