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InsteadLost

現状、安定して付与魔術を使えるのは誠也だけだ。
魔人を相手に、これから今の強さで生き抜いていけるのか。
という疑問をクストスから投げかけられた。

思えば、今まで魔人と対峙したときには他の救世主───パラディソスとイネルティアに助けられている。
彼らがいなければ今頃、勇司達は今頃無事でいられただろうか。
どう考えても答えは、否だった。

という訳で半日だけという制約の元、クストスによる勇司とヴェルムの付与魔術の特訓が始まった。
ロンタゼルスの協力のお陰で、場所はコロシアムを借りることが出来た。
「俺はヴェルムを担当する。セイヤはユウジに教えてやってくれ。」

三十分後───。
「ダメだわ…兄上の言ってることが抽象的過ぎて、頭に入って来ないわ…。」
「俺も、もー無理!誠也は理屈っぽ過ぎるんだよ!」
へたり込む二人。
「なら、教える人を交換すればいいじゃない。」
苦戦していた様子を読書しながら見ていたクレイの提案に納得し、試験的に教える担当を代えてみることにした。



「よしユウジ。身体中の力をギューッとして、手にグワーッとして、剣にボワーッとしてみろ。」
クストスの感覚的な説明に突っ込むことなく、勇司は言われた通りにやってみる。
「ギューッ…からの、グワーッでボワーッ…!」
勇司の光属性特有の鋭い感覚が功を奏したのだろうか。
「おおー!?何か光のもやもや出たぁー!?」
彼の剣には、クストスの付与魔術で纏っている風のおおよそ倍の量の光が宿った。
「その感覚を忘れないうちに、今度は素振りしながらやるぞ。」


「…あの説明でよく解ったな勇司…。じゃあこっちも始めようか。まず集中して身体に力込めて。」
クストスに対して、誠也の教え方は説明的だ。
「次に力を拳と脚に流して…うん、良い感じ。そして身体の周りに流れてる風を、身体の末端から徐々に拳と脚に纏わせて…その風を鋭く研ぎ澄ますように念じて。」
「こう…かしら…?」
「無駄な力が入り過ぎてるかな。一端落ち着いて。もう一回最初からね。」
誠也の丁寧な手解きで、ヴェルムもものの十分程で風を纏えるようになった。
「やったわ!ありがとう、セイヤ凄いわ!!」
「あとはそれを全身に纏えれば、今より疾く動けるようになるよ。その練習に移ろうか。」



「二人共、付与出来るようになったな?そしたらユウジとヴェルム。今から俺に"本気で"かかって来い。」
「「!?」」
驚愕する二人に、クストスは釘を刺す。
「言っとくけど、本気じゃなかったら承知しないからな。俺も容赦無くいくからな。クレイ、怪我の治療を頼めるか?」
すると読書を終えたクレイが、杖を構え自信ありげに応える。
「任せなさい。傷跡一つ残さないんだから!」
「おっし。セイヤは口出しするなよ。あくまで二人の特訓だ。」
「は、はい。」

初手はヴェルムの打撃だ。
上手く付与魔術を扱っている…が、全てをクストスは大剣で流す。
「ヴェルム。手加減してるだろ。本気で来いって言ったよな?」
クストスの眼光が鋭くなり、義妹であるヴェルムに大剣を振り下ろす。
「ぐぅっ…!?」
咄嗟に両腕で防御姿勢になったが、両腕に深い切り傷を負う。
「防御にも付与魔術を使わないから簡単に切れるんだよ。」
傷は瞬時にクレイの魔術で修復され、吹き出た血も止まったが、痛覚が無くなる訳ではない。
斬られるときの痛みは激しかった。

そこに背後から勇司が襲いかかる。
「後ろから来たって、俺の気配察知の前じゃあ無駄だぜ。」
高い金属音が響く。
勇司の斬撃も、クストスの大剣で受け止められる。
以前戦ったとき程ではないが、指先に少し痺れが走る。
やはりクストスの一太刀は重い。
それに力比べでは敵わない。

それなら、と一度剣から手を離し、身体を最大限反らしクストスの脇腹に移り、剣を拾う。
身体を起こす軌道に合わせ、剣に光を再び宿らせ斬り上げる。
「かはっ…!」
クストスの脇腹と口から噴きこぼれる血もクレイが瞬く間に治す。
「…なるほど。これが救世主の斬撃…確かに何処か温けぇ…。ユウジは合格だ、休んでろ。」

「兄上、その胸お借りして失礼するわ。」
漸く腹を括ったヴェルムが向かう。
全身に風を纏っている為、クストスの太刀も軽やかに躱している。
そしてヴェルムの脚技が、正確に言えば纏った鋭い風がクストスの大剣に直撃する。
大剣は刃こぼれし、義兄はやっと武器を納めた。

「合格だ、ヴェルム。意地悪して悪かったな。」
そう微笑んだクストスに、いつもなら『平気よ』と言う筈のヴェルムが彼の胸で泣き崩れた。

優しい彼女には大分酷な模擬戦だったのだろう。
クストスは義妹の頭を泣き止むまで、撫で続けた。

仲睦まじい義理の兄妹を、勇司達はにこやかに見つめていた───。










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