InsteadLost

「まさか、本当に決勝戦まで勝ち上がってくるとはね。他の出場者が手を抜きすぎたのかしら。」

三日に渡る魔術大会。それも最終日を迎えていた。
特別席ではロンタゼルスとヒィが見守る。
「ふむ。セイヤ殿もヒィと手合わせした時より強くなっているな。」
「いやはや。若者の成長とは恐ろしいものだねぇー。」

そして王座には、大臣ではなくパウジェが座していた。


その経緯というのも…。

『あー…暇だー…。』
一週間前、勇司は一人、大臣を殴ったパウジェの幇助をした罪で、地下牢に入れられていた。
二日も冷たい床の上でただぼーっとしている。
いい加減飽き飽きしていた。

『出て下さい。陛下がお呼びです。』
ローブを羽織ったイルシオン兵がやってきて、突然掌を返したような態度で錠を開けた。
やけに丁寧な接し方に、処刑も覚悟でついて行く。

玉座の間ヘ着くと誠也達とロンタゼルスとヒィ、正装に身を包んだパウジェがいた。
『勇司さーん。シャバの空気はやっぱり美味いですかー?』
真っ先に弄ってきた誠也に少しイラッとするも、パウジェが件について謝る。
『ユウジくん、ごめんね。大臣派閥の貴族を押さえ込むのに手間取って…。ロンタゼルスくんとヒィちゃんが手伝ってくれたんだけど…。』
庶民への高圧的な行政が明るみになった大臣は、国外追放になったらしい。

というわけで再び王へと返り咲いたパウジェだった。



話は魔術大会決勝戦へと戻る。
「いいわ。面倒だし、早く終わらせましょ。」
「その意見には俺も賛成だね。」

零下の魔女──リョートは手を上にかざすと、風と水の魔術を瞬時に操り、氷を創り出す。
大きな刃となった氷塊が誠也の頭上に注ぐ────と、観客の誰もが思った。
「やっぱり愚者なんて、こんなものね。」

が、誠也は灼熱する猛火を頭上に放ち、氷塊を全て溶かした。
ただの水と化した氷を見たリョートは驚いていた。

「そうそう。その表情が見たかったんだ。」
誠也はリョートを煽る。

「っ!!武具に頼らないと何もできない愚者如きがっ…!」

その後も氷塊と猛火の攻防は続き、コロシアムは冷気と熱気が混じり、乱れた。
互いの魔力は尽きることなく、引き分けとパウジェが声を上げようとした時だった。

いつの間にか、リョートは炎に囲まれており、魔術展開も出来ないほどに迫られていた。
方々に炎が当たり、火傷も負った。

「そこまで。勝者はセイヤ=ヨロズとする。」
パウジェが声を上げたところで、セイヤは水の魔術で鎮火した。



閉会式を終え、帰り道。
誠也はまだ観客の中で勝利の余韻に浸っていた。

勇司は会場の隅にリョートを見つける。
そのまま寄っていき、彼女の冷たい頬に触れながら笑みを浮かべた。
「ったく、ごめんな?誠也も、こんな綺麗な肌の女の子傷つけることねぇのにな。」
その言葉にリョートは狼狽えた。
「お、女の子!?き、れい!?」
「んじゃな。火傷、早く治るといいな!」


「女の子なんて、初めて言われた…。」
零下の魔女の冷え切った心が、少し溶けた瞬間だった。
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