InsteadLost

これは回想シーンか何かだろうか。
目の前ではヒィがクラッカーを鳴らし、ロンタゼルスはそれに苦笑している。

勇司達は現在、ブレイカに帰着していた。

「鬼蜘蛛から、癪だが魔法便が届いたのだよ。あの神の使いの一族が仲間に加わったとね。」
ヒィは相変わらずの饒舌で続ける。
「あぁ!!やはりユウジ君らは面白い!神の使いの一族と言えば、王族や貴族が大金を納めてやっと拝める程のレアな存在だというのに!!」
自らを抱き締め、感動に浸るヒィにクレイは物怖じせずに言った。
「ゲシュペンスト陛下、大変恐縮ではありますが、私は一族を捨てた今はただの一旅人。平民と同じ扱いをお願いしたく存じます。」
「そんな堅苦しい言い方するなよー!それにヒィでいいってば!んー、じゃあクレイ君も友人認定ってことで!」
「ひにゃっ!?いきなり抱きつかないで下さい!?」

「まぁ何にせよだ。救世主であるユウジ殿、精霊調和具所持者の両術者であるセイヤ殿、エルフでありながら屈強な格闘家であるヴェルム殿に白魔術師であるクレイ殿が補佐すればとても強いパーティになることは確かではなかろうか。」
ロンタゼルスが挨拶話を収束させたことでヒィもやっと落ち着きを取り戻した。

「では、本題に入らせてもらう。」
要約するとこうだった。
年に一度、ブレイカでは武術大会を、イルシオンでは魔術大会を万物界中の強者を集めて行っている。
丁度今月に魔術大会が、来月に武術大会が開催されるらしい。
その魔術大会には誠也に、武術大会にはヴェルムに出場してみないかという提案だった。

「俺が…ですか?」
「面白そうね!兄上を観客に招待したいわ!」

「流石ヴェルム殿。器量が大きいな。セイヤ殿も、気軽な気持ちで参加してみないか?今のところ優勝候補は二年連続で優勝している"零下の魔女"の異名を持つ、戦闘班の班長らしいのだが。」
「優勝します!!」
「…え、いや…優勝しろとまでは申してないのだが…。」
どうやら誠也の負けず嫌い魂に火がついたらしい。

「…というのも建前なのだがな。実はイルシオンの現王であるパウジェ殿を救って欲しいのだ、ユウジ殿に。貴殿の光であればあるいは、と思ってな。」

パウジェ=ウミェールシフ。
魔術帝国イルシオンの王なのだが、今はとある理由で隠居しているとのことだ。
理由は本人の口から聞いて欲しい、とロンタゼルスは言った。

俺で力になれるのならば、と勇司は承諾し一行は王血の魔法陣を使ってイルシオンへと転移した。

「それじゃ、此処からは三組に分かれて行動しよう。セイヤ君の大会申し込みはヴェルム君とコロシアムで行ってきたまえ。ユウジ君とクレイ君はパウジェ君を頼む。」
「ヒィさんとロンさんは?」
「ふっふっふー。我とロンたんはちょっとやることがあってねー。」

郊外の洞窟にパウジェはいた。
勇司がこっそり覗いてみると薄闇の中に先客がいた。

「だからー、サーヘルだけじゃなくて陛下派閥はまだこの国にも沢山いるんだからー…ってアレ?お客さん?珍しっ。」
「…また、私を哂いに来たのか?」
「んー、そうじゃないっぽいよ?オマエ達、入って話したら?」
まだ子供のような容姿の男の子の言葉に甘え、入らせてもらった。

「なぁ、あんたは何でこんなとこに引き籠ってんだ?」
「…私は罪人だからだ。」
パウジェは語った。
五年前、五つの国の国王が魔人増加に見兼ね、魔王討伐に魔界へ行ったこと。
そこである魔人に敗北し、自分だけ生き残ってしまったこと。
なんとか帰国するも、大臣に恥さらしだと貶されて、遂には妻は牢に幽閉され、たった一人の息子は公衆の面前で断頭台で処刑されたこと。
「私のせいで、他の王は。妻は。息子は。だから私は罪滅ぼしに、早くも死ななければいけない…。」


「じゃあ今がチャンスじゃん。死ぬ前に、やること沢山残ってんだろ。」
「今の私に、何ができるという。」

「生きてんだから、何でも出来るだろ。」

勇司の発言に、ずっと俯いていたパウジェはやっと顔を上げた。
しかし。
「…ああ。君は光か。だがそんな理想論では私は許されないんだよ…。」
「ああもう!じゃあ今から、『死にに』行こうぜ!!」

「ちょっ、オマエ何を…!?」
「あなたは口を挿むべきではないわ。今、ユウジとパウジェさんが話しているの。」

「死にに…?どうやって死ぬんだい?」
「その大臣とやらを一発、殴ってやんだよ。」
勇司はにやりと笑う。
「そしたら、死刑にでもなるんじゃね?家族のことで、据えかねるところあんだろ?殴ってサッパリしてからでも死ぬの遅くないだろ?」

ここから出よう、と勇司はパウジェに手を伸べる。
パウジェはその手に恐る恐る手を重ねた。

洞窟を出ると、立派な髭を蓄えた全身に贅を纏った中年が現れる。
「ゴミ捨て場にはゴミが集るものですなぁ。」

と、そこへ。
「いやいや。君には敵わないだろ。なぁ、大臣君。」
「己が今までしてきた悪行こそ、腐敗しているのでは?このままではこの国は滅びるぞ。」
別行動していたヒィとロンタゼルスがやって来た。
「随分と無茶な政策をしてきたようだな。民達も貴殿が仕切ることになってから納税に泣いているらしいぞ。」
「他国の者が口を出すことではないわ!王といっても所詮若造ではないか!」

「民を、泣かせたのか?大臣。」
「貴様にももう関係ないことであろうが死に損ないが!」

パウジェは、衰弱した身体からは想像出来ないくらいの力で大臣の頬を思い切り殴った。
その場にいるサーヘル、大臣の護衛兵は驚きで声も出なかった。

「私の罪は私が幾らでも罰を受けよう。だが民は何の関係もない!」
「ナイスパンチ。かっけーじゃん、パウジェさん。」

パウジェが大臣を殴った。
その話は一日で国中に広まった───。
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