InsteadLost

雨乃元町は今日も雨だった。
「んん…。」
水の滴る音がなんとも耳に心地よく、居眠りにはもってこいだ。
すると急に頭に重い衝撃が走る。
「いって!?ってあれ、ゾンビ!?」
どうやら少年はゲームの類いの夢を見ていたようだ。
「教師をゾンビ呼ばわりとは随分だな?後で職員室に来るように、真田!」

真田勇司。雨乃元中学校二年生の十四歳。漫画やゲームが好きなごく平凡な少年。

授業が終わると彼の机を三人の人物が囲んだ。
「勇司昨日もゲームで夜更かししたなぁ?」
「今やってんのってゾンビゲームだっけ?」
「寝起きには、ミントキャンディだよー!」
万誠也、京蘭、月山希太。三人共入学からの付き合いである。

受け取ったキャンディを舐めながら、勇司は伸びをする。
「しかし雨、続くねぇ?」
「雨が多いから雨乃元町、って由縁もあるくらいだから。」
誠也は当然だ、と答える。

「お前ら放課後は?」
勇司の問いに、
「悪い、俺今日は委員会!」
「僕も今日は隣町の高校生に呼び出しくらってて…!」
「俺も女子に呼び出されてて…。」
こう見えて、誠也は学級委員長、希太は近辺では有名な不良、蘭は女子に人気者だった。
「そっか。んじゃ次カラオケ行こうぜ。」


「うげー…説教長過ぎかよ…もう七時だぜ…。」
ぐったりした様子で勇司は帰宅した。
「ただいま。」
靴を脱ごうとしたその時。

「!?じ、地震!?」
大きな地震に襲われた。いや、もうこれは震災と言っていいかもしれない。浮遊感さえ感じる。
次々と玄関の物が落ちてくる中、スマートフォンからアラートと共に『世界的大震災』の文字が表示される。
がたがたと家自体が揺れていた。

数分経つと、揺れは歩ける程度には落ち着いた。

悪寒を感じながら立ち上がると、
『数分後、また大きな揺れが来ることが発表されました。町民の皆さんは丘の方へ避難して下さい。繰り返します───』
町内放送がより不安を増長させる。

家族の無事を確認し、丘へ移動しようと外へ出ると、

「何だ…これ。」

空は、月は、血のように紅く染まっていた──。
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