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InsteadLost

絶え絶えな息。もつれる足。
逃げなくちゃ。
逃げなくちゃ。

「きゃっ…!」
とうとうその場に転んでしまう。
ゆっくりと、高圧的に迫りくる追手。

逃げなくちゃ…。

「掟において此処で処刑する。光栄に思え。」

此処で───こんな鳥籠であたしは終わるの?



一時間前───。
「決めた!あなた達の旅にあたしもついて行くわ!」
クレイが今まで見せたことのない、凛とした表情で笑う。
「勿論、それが目的で此処まで来たんだぜ?けどその恰好で出るのか?その痣、見せたくないんだろ?」
「あたしが今までこの結界を正面から抜けてたと思う?この奥に抜け道があるのよ。だからローブも此処に置いてあるのよ。」
そう言ってローブを徐に手に取った。
「ふーん。」

「いや、着替えるんだからあっち行きなさいよ!?」
顔を真っ赤にしてローブを抱きしめるクレイに、勇司がけらけら笑いながら地雷を踏む。
「ハハッ、隠すほどの胸じゃねぇだろー!」
「あ?」
これ以上クレイの地雷を踏み歩かないようにと誠也は勇司の口を塞ぐ。
「お、俺達あっちで待ってるから、準備出来たら声掛けてね…。」


勇司は誠也に歩きながら、クレイに聞こえないように言う。
「あいつさ、色んな顔見せてくれるようになったと思わね?」
誠也はそれに、ふっと笑った。
「そうだね。」


クレイと二人きりになったヴェルム。
「クレイ、私もね。ユウジに救われたのよ。世界はまだまだ知らないことが沢山あるって、手を伸べてくれたの。クレイもきっと、あの光に救われたんでしょう?」
「…そうね。あたしの居場所を作ってくれたユウジなら、あたしをこの鳥籠から救ってくれると信じてる。」
ヴェルムに顔を赤らめながら、クレイは言葉を付け足す。
「い、今言ったことはあの二人には内緒よ!?特にユウジ!!」
「うふふ、それじゃあ女子同士の秘密、ね?」


「二人共ー!着替え終わったわよー!」
ヴェルムが声を掛けると採掘場の奥から談笑しながら三人が帰ってくる。一人はドワーフの老父だ。
この短期間で勇司らと仲良くなったようだ。
「クレイー!オッサンがクレイにプレゼントだってよ!」

「クレイちゃんが度々お忍びしてるからね。完成したら渡そうと思ってたんだ、間に合ってよかった。」
クレイが受け取ったのは、神の一族の力を増幅させる宝石、"神の涙"が惜しみ無く使われながらもクレイをイメージした可憐な杖だった。仕込み槍まで付いている。
「ありがとう…爺…!」
「気に入って何より。一族の人達には、内緒だよ。」

クレイによると、この採掘場を裏から出ると船着き場への道に繋がっているらしい。
「じゃあね、爺。今までありがとう!あたし行くわね!」


「この道を真っ直ぐ行って結界を解除して外に出ればあたしは自由よ!」
「───その前にお前は死ぬがな。」
木陰から物騒な発言と共に腕の黒い、胸元に例の痣のある女性が出てくる。
「ちっ、リレラエド…。皆、あいつはやばいの…"黙"は生まれつき悪霊を宿してる、黒魔術の殺し屋よ!」
舌打ちしたクレイの顔には焦りの色が見られた。

「説明ありがとう。怯えるな。掟においてわたくしはお前を殺すだけ。」
リレラエドと呼ばれた女性は感情を込めることなくただ淡々と言葉を並べる。

そこにブリキの兵士が三体現れる。
「"吹"め…わたくしの任務に茶々を入れて…!」

その時、クレイの髪がなびく。
瞬きする間に、勇司がブリキの兵士に切りかかっていた。
「時間稼ぎくらいしか出来ないけど!クレイ、先行ってろ!お前は必ず此処から出す!!」
そこに誠也とヴェルムも加担する。
「そういうことなら!」
「クレイ!行きなさい!」
クレイは走り出した。
だがリレラエドに追いつかれる。

逃げなくちゃ。
逃げなくちゃ。


逃げる…?これからユウジ達と旅を続けていくのに、こんなことで逃げ出すの?
一人だけ?

「違う違う!!違うでしょあたし!!!あたしにしか出来ないことがあるでしょうが!!!」
「何を…。」

「"浄"!!!!」
クレイがリレラエドに杖を向け叫ぶと、リレラエドの腕の黒みは少し薄くなる。
漂っていた悪霊も消え去った。
「く…。力が…。」
リレラエドがその場に跪いているうちに、クレイは勇司達の元へ引き返す。


「はぁ…はぁ…!そろそろキツいな…!」

「ユウジ!!!」
「クレイ!?何でお前…!?」
「はぁっ!!」
クレイがブリキの兵士の魂を抜く。
更に自分達に結界を張った。
「さあ!今のうちに!」




無我夢中で走っているうちに船着き場に着いた。
「はぁ…はぁ…、…あはは!あたし、こんな走れるんだ…!」
クレイは息を整え、三人に向かって改まって言う。
「んじゃ、これからよろしく頼むわね!ヴェルム、セイヤ、ユウジ!!」

そうして彼女は鳥籠を、抜け出した。
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