InsteadLost
神の懐のある島。
結界を目指し歩く影が三つ。
「ぜぇ…ぜぇ…。」
勇司も誠也も息が絶え絶えだった。
一方、ヴェルムはまだまだ余裕のようだ。
「ほらほら二人とも、頑張って。」
流石はあのクストスに修行をつけられただけはある。
漸く結界のところまで所まで辿り着いた。
いざ目前にするととても大きい。
さて、この結界をどうするか。
「誠也、解除とか出来ないのか。」
勇司が触れてみるとバチッ、という音を立てて指先が痺れた。
「あのねぇ…。そんなサクッと出来るわけないでしょ。こんな大きな結界、それこそ国の騎士隊規模でも発動出来るかどうか…。」
「卑シキ者。引キ返セ。」
声が聞こえたと思ったら、いきなりブリキの兵士が現れ一同を驚かせた。
確かチートの話にあった無生物に命を吹き込む、吹の家がしたことだろうか。
「理屈が通らねぇなら、力尽くでもしゃーねぇよな!」
勇司は剣を抜く。
しかし。
「はぁはぁ…!流石無生物…やられるってことを知らねーのかよ!」
ブリキは何度倒したと思っても再生した。
「そこで何をしてるのかしら。"吹"が怒るわけね。」
やって来たのは目的の少女。だが以前会った全身黒いフード姿とは打って違い、露出の多い白のワンピースを着ていた。
「お!やっと会えたな!!」
少女は少し呆れ顔をした。
「ふぅ…あたしのお客よ、通して。」
その要求にブリキは、とんでもない言い方をした。
「出来損ナイノ言ウコトナド、聞カヌ。」
「はぁっ!!?お前そんな言い方っ!!」
しかし少女は何にもなかったかのように続ける。
「あ、そ。んじゃちょっと魂抜くけどいいのね。」
少女が手をかざすとぷつりと切れたように、ブリキは倒れた。
更に両手を結界の方に向けると人が一人通れるくらいの穴が開いた。
「さんきゅ!えっと…。」
「クレイドリューン=プリュイ。長いからクレイでいいわ。幻の出来損ないって呼ばれてる。」
クレイは淡々と喋る。
「出来損ない出来損ないって何だよ?さっきからすげーじゃん。」
クレイは幻術を使う幻の家の末娘だったはず。
だがさっきからブリキの魂を抜いたり、結界に穴を開けたりと多才なように思える。
「まぁ、他の奴らとは違ってあたしは出来損ないなりの努力をしてるから。」
「ふーん!なぁ、さっきから気になってたんだけど、その痣何?」
勇司はクレイの胸元にある十字に半円が重なった模様の痣を指しながら聞いた。
するとクレイは咄嗟に痣を手で隠す。
「これは、神の使いの一族の証…あたしにとっては、汚点よ。」
「泥臭い鼠の臭いを辿ってみれば。また貴様の仕業か。"吹"と"界"が怒っていたぞ。」
中年の厳格そうな男性に話しかけられた。
その男性の胸元にもクレイと同じ痣があった。父親だろうか。
「泥臭い鼠って俺らのことっすか…?」
だがその問いかけに目線すら向けなかった。
「失敗作の出来損ないが。家に置いているだけでもありがたいと思えばいいものを、問題を起こしおって。」
そう言った男性の表情はとても冷たいものだった。
クレイも負けじと言い返す。
「人目に晒すのが恥ずかしいから家に閉じ込めてる、の間違いでは?クソ親父殿。」
「身の程が分かっているならばじっと死を待っていろ。」
父親が言うと、どういう仕組みか、結界の上層から声が落ちてきた。
「弁えろクズが。」
「お前が産まれたという事実だけで恥ずかしい。」
「出来損ないは一生出来損ないだ。」
「いっそのこと、自害すればいいものを。」
沢山の罵倒が、クレイに降り注ぐ。
父親はマントを翻し、何処かへ行ってしまった。
「おい、大丈夫か、クレイ?」
「分かったでしょ。此処は神なんて大層な名を借りていい場所じゃない───、」
「此処は地獄よ。」
振り返ったクレイはまたも自らを嘲笑うような表情をしていた。
結界を目指し歩く影が三つ。
「ぜぇ…ぜぇ…。」
勇司も誠也も息が絶え絶えだった。
一方、ヴェルムはまだまだ余裕のようだ。
「ほらほら二人とも、頑張って。」
流石はあのクストスに修行をつけられただけはある。
漸く結界のところまで所まで辿り着いた。
いざ目前にするととても大きい。
さて、この結界をどうするか。
「誠也、解除とか出来ないのか。」
勇司が触れてみるとバチッ、という音を立てて指先が痺れた。
「あのねぇ…。そんなサクッと出来るわけないでしょ。こんな大きな結界、それこそ国の騎士隊規模でも発動出来るかどうか…。」
「卑シキ者。引キ返セ。」
声が聞こえたと思ったら、いきなりブリキの兵士が現れ一同を驚かせた。
確かチートの話にあった無生物に命を吹き込む、吹の家がしたことだろうか。
「理屈が通らねぇなら、力尽くでもしゃーねぇよな!」
勇司は剣を抜く。
しかし。
「はぁはぁ…!流石無生物…やられるってことを知らねーのかよ!」
ブリキは何度倒したと思っても再生した。
「そこで何をしてるのかしら。"吹"が怒るわけね。」
やって来たのは目的の少女。だが以前会った全身黒いフード姿とは打って違い、露出の多い白のワンピースを着ていた。
「お!やっと会えたな!!」
少女は少し呆れ顔をした。
「ふぅ…あたしのお客よ、通して。」
その要求にブリキは、とんでもない言い方をした。
「出来損ナイノ言ウコトナド、聞カヌ。」
「はぁっ!!?お前そんな言い方っ!!」
しかし少女は何にもなかったかのように続ける。
「あ、そ。んじゃちょっと魂抜くけどいいのね。」
少女が手をかざすとぷつりと切れたように、ブリキは倒れた。
更に両手を結界の方に向けると人が一人通れるくらいの穴が開いた。
「さんきゅ!えっと…。」
「クレイドリューン=プリュイ。長いからクレイでいいわ。幻の出来損ないって呼ばれてる。」
クレイは淡々と喋る。
「出来損ない出来損ないって何だよ?さっきからすげーじゃん。」
クレイは幻術を使う幻の家の末娘だったはず。
だがさっきからブリキの魂を抜いたり、結界に穴を開けたりと多才なように思える。
「まぁ、他の奴らとは違ってあたしは出来損ないなりの努力をしてるから。」
「ふーん!なぁ、さっきから気になってたんだけど、その痣何?」
勇司はクレイの胸元にある十字に半円が重なった模様の痣を指しながら聞いた。
するとクレイは咄嗟に痣を手で隠す。
「これは、神の使いの一族の証…あたしにとっては、汚点よ。」
「泥臭い鼠の臭いを辿ってみれば。また貴様の仕業か。"吹"と"界"が怒っていたぞ。」
中年の厳格そうな男性に話しかけられた。
その男性の胸元にもクレイと同じ痣があった。父親だろうか。
「泥臭い鼠って俺らのことっすか…?」
だがその問いかけに目線すら向けなかった。
「失敗作の出来損ないが。家に置いているだけでもありがたいと思えばいいものを、問題を起こしおって。」
そう言った男性の表情はとても冷たいものだった。
クレイも負けじと言い返す。
「人目に晒すのが恥ずかしいから家に閉じ込めてる、の間違いでは?クソ親父殿。」
「身の程が分かっているならばじっと死を待っていろ。」
父親が言うと、どういう仕組みか、結界の上層から声が落ちてきた。
「弁えろクズが。」
「お前が産まれたという事実だけで恥ずかしい。」
「出来損ないは一生出来損ないだ。」
「いっそのこと、自害すればいいものを。」
沢山の罵倒が、クレイに降り注ぐ。
父親はマントを翻し、何処かへ行ってしまった。
「おい、大丈夫か、クレイ?」
「分かったでしょ。此処は神なんて大層な名を借りていい場所じゃない───、」
「此処は地獄よ。」
振り返ったクレイはまたも自らを嘲笑うような表情をしていた。