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InsteadLost

「勇司っ!!!」
「おいっ、大丈夫か!?」

ああもう、こんな時までこいつらはうるせえな…。
風前の灯火のような意識の中、勇司はそんなことを考える。

「ちょっと待って…!今、薬草をっ…!」
ヴェルムが慌てて道具袋を漁ろうと手を伸ばすが――。

「恐らく…、そのような処置では、もう…。」
聖職者の男が申し訳なさそうに言う。
そういえば、この人の名前。聞いてなかったなぁ。なんて後悔する。

「そんな…!」
ヴェルムが口元に両手を当て、涙をこらえる。

勇司はこのままでは死んでしまう。
そんな残酷な現実を聖職者の男以外、誰も受け止められずにいた。
かといって、自分達には何もなす術がない。
結局、このまま死にゆく勇司を見守ることしか出来ない。

そんな絶望に駆られている時だった。

「おやおやぁ。お困りのようですね?」

木陰から姿を現したのはチートだった。
「お久しぶりですねぇ?セイヤ様。ヴェルム様と…それからパラディソス様は初めましてですね。」
「貴方が噂の鬼蜘蛛ですか。一体何の御用でしょう?」
聖職者の、パラディソスと呼ばれた男は警戒心を剥き出しにし、チートに棍を向ける。
そんなパラディソスを小馬鹿にするようにチートはへらへらと笑う。
「おやぁ?そんな間にもユウジ様は死んでしまいますよー?」
「重傷者を前に笑っていられる貴方に言われたくはありません。」

「そんなこと仰って、俺の機嫌を損ねたらどうするんです?せっかく打開策をお教えしようと思ったのですが?」
チートの言葉を聞き、パラディソスは武器を下ろした。
「!!…先程の非礼はお詫びします。その策をどうか、是非。」

「いやぁー、カンタンなことですよ。今、街の町長の家に”神の使い”が来てるんですよ。その力に頼ればあるいは、と思いまして。行列ができているのですぐ分かるかと。」
「ありがとうございます!」
パラディソスはその細身で勇司をおぶり、一行は町長の家を目指した。

が、誠也だけ踏み止まり振り返る。
「…チートさんは何故、無償で俺らに情報を与えてくれるんですか?」
「それは、貴方達が面白い存在だからですよ。楽しい玩具にこんなところで壊れられてもつまらないので…クク。」

「おい、セイヤよ!置いていくぞー!」
「ああ、今行く!」


チートの言った通り、長蛇の列ができている家はすぐ見つかった。
「このまま順番待ちでは、この子の命は…!」
間に合わない。
皆がそう思った時、誠也の中で何かがはじけた。

「お願いします!!!軽傷の方だけでも、順番を譲ってもらえませんか!!?じゃないと、この馬鹿は…この、馬鹿は…!!」
そう大声で叫び、土下座をしていた。
列を成していた人々はその姿に驚き、どよめいた。


「何の騒ぎかしら?怪我人の傷口に障るじゃない。」
町長の家から騒ぎを聞きつけて出てきたのは、黒いローブを纏い、フードを深く被った少女。
少女は横になった勇司の元へ寄り、
「あら。これは酷くやられたわね。」
目を瞑り集中する。
少女の手を中心に淡く白い光が漂う。
少女が勇司の傷口に手を添えると傷口に光が吸い込まれていく。


「ん…。」
勇司はゆっくりと目を開いた。

「ユウジっ!!良かったわ!!」
「おわっ!?」
ヴェルムは意識を取り戻した勇司に抱き着く。
「全く。心配させおって。」
「ごめんなー。」
ぶっきらぼうに言ったナシーリエも涙目になっている。
「ったく、ホントに勇司は、馬鹿なんだから。」
「お前の土下座もかっこよかったけどな?」
誠也とはいつもの軽口を交わす。


「…目が覚めた時に誰かが居るって、いいわね。」
少女は此方を見て、安心したような、それでいて何処か自分を嘲笑うような笑みを向けた。
「あっ…!!」
勇司が少女に喋りかけようとした時、強い夜風が吹き、少女のフードが脱げてその容姿が露わになる。
白い肌、少し淡い水色がかった白い髪に、普通とは違う特殊な瞳。
「あたしは…。」
少し寂しげに呟きながらフードを直し、少女は再び治療に戻る。
「あっ、ありがとな!!」
小さな背中に向かって礼を言うが、返事は返ってこなかった。


「なぁ。」
「何?勇司。」

「俺、あいつ、仲間にしたいかも。」
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