InsteadLost
その日の夜。
「ふぁ…十二時ともなると流石に眠いな。」
ナシーリエは大きなあくびをした。
「街の人の話だと、この時間帯あたりから活動してるって情報があるんだから仕方ないよ。」
この街でも数日前から大勢の被害者が出ていた。
少女は墓地の方向からやって来るとのことだ。
「希太、蘭……。」
そう呟く勇司の眼は鋭く光っていて、虚ろに笑みを浮かべていた。
「ユウジ…。」
隣にはそんな勇司を心配するヴェルムの姿があった。
暫く歩いていると、勇司の視界が濃い霧で霞み、周囲が見えなくなった。
『やあ。ついにこの時がきたね。』
低級の妖精だ。
「こんな時に、何だ?」
『ようすを見にきたんだよー。きみがほんとうにあの子を殺せるかどうか。』
「…殺すさ。」
そう答えると低級の妖精は勇司の周りをふわふわと漂いながら言った。
『たしかにきみは力をてにいれた。でもむりだよ。"いまの"きみじゃ。』
勇司が意味が分らない、というように黙っていると。
『しなないでね。きみはぼくたちのお気に入りなんだから。くすくす。』
「…うじ!…勇司!」
「勇司っ!!」
ハッとすると、誠也が肩を掴み、ヴェルムとナシーリエがこちらを見ていた。
「大丈夫だ、ちょっと低級の妖精と話してただけだから。行こう。」
三人の顔も見ることなく、勇司は歩き始めた。
墓地に着いてから三十分近くが経った頃───。
墓地の奥にあった茂みが音を立てた。
「っ!!」
暗がりの中見えたのは。
「ヒヒッ…イヒヒッ…。」
口から涎を垂らし、あの時のように狂った笑みを浮かべている、少女。
「よう。待ってたぞ。存分に殺してやるよ。」
勇司は早々に剣を鞘から抜いた。
「ユウジ!私達も加勢するわ!」
「これは俺の復讐戦だ!!手を出すな!!」
血走った眼で勇司はヴェルム達を制した。
「……。」
それから暫く少女と勇司の攻防が続いた。
刃のぶつかる音が鳴り止まなかった。
「はぁ…はぁ…。」
勇司の息があがった頃。
「ヒヒッ…!」
少女はまだ余裕そうな顔をしていた。
遂に勇司の喉元に大鎌の先端が迫ったその瞬間。
何処からか、きらきらと輝く水が少女を襲った。
水を被った少女は苦悶の表情を浮かべている。
「聖水は亡魔に有効なんです。その者は亡魔の王という元亡魔の魔人ですから。」
茂みから、聖職者の服を着た金髪の細身の男性が出てきた。
「ロンタゼルス王から出来る限り手は出さないよう言われていましたが…貴方、今一度お仲間の顔を見て下さい。」
男に言われた通り、勇司は三人の顔を見た。
誠也も、ヴェルムも、ナシーリエも、こちらを心配するように不安げな顔で見ていた。
「今の貴方は、相手を殺すことしか頭にない…亡魔の王と同じです。」
「!!」
低級の妖精が言っていた、『いまの』というのはこのことを指していたのかと勇司は気づいた。
「いいですか?救世主が武器をやたらに振るったところで魔人は消滅しません。正の感情によって負の感情を祓うからこそ侵食破壊具も意味を成すのです。」
「正の感情…!」
男はにっこりと笑って導くように手を敵の方に向けた。
「もう大丈夫そうですね。さあ、彼女を祓って下さい。」
「おう!!」
勇司の顔に笑顔が戻った。
「お前ら、何かあったらサポート宜しくな!」
「うん。任せて。」
「思いっきり戦って。」
「ヒーローにサポートを頼むとは…まあ、今回は見ていてやろう!」
勇司は少女に向き直し。
「さぁ!決着といこうぜ!」
一閃。勇司が少女の腹を斬った。
「ヒ…!」
傷口から光が漏れ出し、少女の身体は宙に溶けていく。
だが少女が最期の力を振り絞り、大鎌に手を掛けたのを勇司は見ていなかった。
「!!避けて下さい!!」
「え?」
勇司の身体に大きな切り傷を残し、少女は完全に消滅した。
それを見届けながら、勇司の意識は混濁していった───。
「ふぁ…十二時ともなると流石に眠いな。」
ナシーリエは大きなあくびをした。
「街の人の話だと、この時間帯あたりから活動してるって情報があるんだから仕方ないよ。」
この街でも数日前から大勢の被害者が出ていた。
少女は墓地の方向からやって来るとのことだ。
「希太、蘭……。」
そう呟く勇司の眼は鋭く光っていて、虚ろに笑みを浮かべていた。
「ユウジ…。」
隣にはそんな勇司を心配するヴェルムの姿があった。
暫く歩いていると、勇司の視界が濃い霧で霞み、周囲が見えなくなった。
『やあ。ついにこの時がきたね。』
低級の妖精だ。
「こんな時に、何だ?」
『ようすを見にきたんだよー。きみがほんとうにあの子を殺せるかどうか。』
「…殺すさ。」
そう答えると低級の妖精は勇司の周りをふわふわと漂いながら言った。
『たしかにきみは力をてにいれた。でもむりだよ。"いまの"きみじゃ。』
勇司が意味が分らない、というように黙っていると。
『しなないでね。きみはぼくたちのお気に入りなんだから。くすくす。』
「…うじ!…勇司!」
「勇司っ!!」
ハッとすると、誠也が肩を掴み、ヴェルムとナシーリエがこちらを見ていた。
「大丈夫だ、ちょっと低級の妖精と話してただけだから。行こう。」
三人の顔も見ることなく、勇司は歩き始めた。
墓地に着いてから三十分近くが経った頃───。
墓地の奥にあった茂みが音を立てた。
「っ!!」
暗がりの中見えたのは。
「ヒヒッ…イヒヒッ…。」
口から涎を垂らし、あの時のように狂った笑みを浮かべている、少女。
「よう。待ってたぞ。存分に殺してやるよ。」
勇司は早々に剣を鞘から抜いた。
「ユウジ!私達も加勢するわ!」
「これは俺の復讐戦だ!!手を出すな!!」
血走った眼で勇司はヴェルム達を制した。
「……。」
それから暫く少女と勇司の攻防が続いた。
刃のぶつかる音が鳴り止まなかった。
「はぁ…はぁ…。」
勇司の息があがった頃。
「ヒヒッ…!」
少女はまだ余裕そうな顔をしていた。
遂に勇司の喉元に大鎌の先端が迫ったその瞬間。
何処からか、きらきらと輝く水が少女を襲った。
水を被った少女は苦悶の表情を浮かべている。
「聖水は亡魔に有効なんです。その者は亡魔の王という元亡魔の魔人ですから。」
茂みから、聖職者の服を着た金髪の細身の男性が出てきた。
「ロンタゼルス王から出来る限り手は出さないよう言われていましたが…貴方、今一度お仲間の顔を見て下さい。」
男に言われた通り、勇司は三人の顔を見た。
誠也も、ヴェルムも、ナシーリエも、こちらを心配するように不安げな顔で見ていた。
「今の貴方は、相手を殺すことしか頭にない…亡魔の王と同じです。」
「!!」
低級の妖精が言っていた、『いまの』というのはこのことを指していたのかと勇司は気づいた。
「いいですか?救世主が武器をやたらに振るったところで魔人は消滅しません。正の感情によって負の感情を祓うからこそ侵食破壊具も意味を成すのです。」
「正の感情…!」
男はにっこりと笑って導くように手を敵の方に向けた。
「もう大丈夫そうですね。さあ、彼女を祓って下さい。」
「おう!!」
勇司の顔に笑顔が戻った。
「お前ら、何かあったらサポート宜しくな!」
「うん。任せて。」
「思いっきり戦って。」
「ヒーローにサポートを頼むとは…まあ、今回は見ていてやろう!」
勇司は少女に向き直し。
「さぁ!決着といこうぜ!」
一閃。勇司が少女の腹を斬った。
「ヒ…!」
傷口から光が漏れ出し、少女の身体は宙に溶けていく。
だが少女が最期の力を振り絞り、大鎌に手を掛けたのを勇司は見ていなかった。
「!!避けて下さい!!」
「え?」
勇司の身体に大きな切り傷を残し、少女は完全に消滅した。
それを見届けながら、勇司の意識は混濁していった───。