InsteadLost

王立エヴェイユ学園に入学して半年が経ったある日。
勇司とヴェルムは、誠也の寮の部屋に呼び出されていた。
「魔法便でヒィさんから手紙が届いたんだ。」
どんな内容かと、その場の緊張が高まる。
「それじゃあ読むね。えっと───。」


『やあやあ学生諸君!青春を謳歌しているかね!?
しかしあれから半年、そろそろ卒業試験を受けてもいいのではないか?
来月の試験がいいな!うむ、来月卒業したまえ!健闘を祈る!』


───と、なんとも端的な内容だった。

「急に試験だなんて、間に合うのかしら…?」
「誠也頼むっ!!勉強教えてくれ!!」
「じゃあ私もお願いしようかしら。」

「これは大変そうだなぁ…。」
待ち受けるであろう困難に肩を落とす誠也だった。



「失礼しまーす……!?」
卒業試験の申請をしに学長室へやってきた三人。
その視線の先にいたのは。
「おっ、ナシの宿敵ではないか!」
ナシーリエだった。

「実はロンタゼルス王から手紙が来てな!アンタらと共に卒業するように書いてあったのだ!」
ナシーリエは目を輝かせ、
「宿敵との共闘…!激アツ展開ではないか!」

「確かに四人の届けを受理した。来月まで文学・戦闘共に復習しておくように。」
「じゃあ今日から四人で勉強会だな!皆、ナシについてこいー!!」


「…で、この点数は…?」
誠也の手元には赤いインクで1点と書かれたバツだらけの紙があった。
「ナシの最高得点だ…!何せナシは卒業試験を三回も受けているからな…!」
流石のナシーリエも気恥ずかしかったのか、頬を赤らめ顔を少し背けていた。
更なる困難に誠也は頭が痛かった。


そして一か月後。
「それでは筆記試験の結果を発表する。」
各々が緊張で固唾を呑む。
「ヴェルム、合格。」
「え、あ、やったわ!」

「ユウジ=サナダ、合格。」
「うおおお!っしゃあああ!!」

「セイヤ=ヨロズ、合格。満点だ。」
「ふぅ…。良かったぁ…。」

「ナシーリエ、不合格。」
「なっ!?そんなぁ…!」

「あと一点で合格だった、という事で特別措置をとる。戦闘試験で合格出来たらナシーリエも合格とする。」
「が、が、がくちょおおおおおっ!!!」
涙目でメガロマに跳びつくナシーリエ。
だがメガロマはそれをさらりと躱し勢いの行き場を失ったナシーリエは派手な音を立て、壁へ突っ込む。

そんなこともお構いなしにメガロマが言った。
「だが、試験官は私がする。」
「なっ!?嘘だろ!?」
噂でしか聞いたことがないが、メガロマは学長だけあって学園最強。
武術は格闘術をはじめ、色んな武器を扱うのに長けている。
魔術も魔術帝国イルシオンの兵に引けを取らない程の実力者だという。

「では、一時間後。第一グラウンドに。」



「じゃあ、この作戦でいくぞ。」
「ナシに出来ないことはなああああいっ!!!」
「あんたがそもそも試験受かってりゃ学長なんて出てこなかったんだよ!!」
「逆に何が出来るのかなぁ??」
「二人共…落ち着いて?」

するとメガロマが歩いてきながら言った。
「ユウジ=サナダ。今の発言には語弊がある。貴方達はヒィ女王とロンタゼルス王から厳しく躾けるよう申しつかった四人。いずれにしろ私が相手をする予定だった。さぁ、いつでも来なさい。」

勇司は深呼吸をした。
そして不安を払拭するように声を張って言った。
「おっし!!!お前ら、ぜってー勝つぞ!!!」
そんな勇司の言葉に奮起した仲間が返す。
「言うまでもないでしょ。」
「勿論よ!」
「ナシの台詞を奪いやがってー!」


先制攻撃を仕掛けたのはヴェルム。
素早い動きで拳と蹴りを繰り出す。
しかしそれをメガロマは全て素手で受け止める。

その横から勇司が剣で斬りあげるが、それも避けられる。

「どおおおおんっ!!!!」
声と共にナシーリエがハンマーを振り上げ落ちてくる。

すぐに避けようと反応するメガロマ。
しかし足元の八方に誠也のナイフが迫っていた。
「ふむ、良い作戦だ。だが。」


「へ?」
メガロマは垂直に跳び、ナシーリエの目前に突然現れる。
「避けられないのなら叩けばいい。」
メガロマの振るった鞭でナシーリエは地上へ文字通り叩き落される。
「うぐっ!?」

「ナシちゃん!!?」
「余所見はしない。」
「!?なら私が蹴り飛ばすまでよ…!」
「無駄だ。」
メガロマがヴェルムに鞭を振るう。
「きゃっ!」
ヴェルムはそれを腕でガードするも、勢いで後ろに少し後退る。



「…なーんちゃって♡」


「何を…っ!!?」
メガロマの足元に大型の魔法陣が具現し、周囲から徐々に炎が発ち始める。
「見事な魔法陣。しかし相性が悪かったな、私は水属性だ。」
メガロマは魔術展開を始めるが、勇司が魔法陣の中に割って入ってきて刃を彼女の首に突き立てた。

「これで俺達の勝ち、ですよね?」
「だがこの魔術は展開済み。共に焼け死んでは意味が無い。」

「実はコレ、炎に見立てた疑似魔術なんですよね。」
誠也が指を鳴らすと魔法陣は炎諸共消えた。
「それで温度の上昇が…。」


「改めて、戦闘試験の結果を発表する。結果は───合格だ。」
「!!よぉっしゃああああ!!!」
四人は手を取り合い、無邪気に喜んだ。



半年ぶりの王血の魔法陣のある部屋。
「先程ヒィ女王に魔法便で報告したところ、血の入った小瓶が届いた。」
瓶から魔法陣に血を垂らし、四人は光と突風に包まれる。

「よくここまで育った、教師冥利に尽きる。」
転移間際に、そんな言葉と共にメガロマの笑顔を初めて見た気がした。
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