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InsteadLost

ナシーリエと名乗ったあの少女。
あの時点でこそ気にしていなかったが、学園で生活していくと彼女のあらゆる噂が耳に入ってきた。

校舎の至る場所の破壊。
電波的な思考・言動。
つまりははちゃめちゃな人物だということだ。

あれから、どうしてもナシーリエのことが気になってしまう。
…色んな意味で。


寮で誠也にそんなことを零した勇司は、
『えー?遂に勇司、好きな女の子できたのぉー?アオハルかよー♡』
なんてからかわれたのだが。


いやいやいや。
ない。それは絶対あり得ない。
だって、つるぺただし。顔も全然タイプじゃないし。
なんか訳わからないことばっかり言ってるし。

などと大分失礼な理由を挙げて頭の中で否定する勇司。
心臓が高鳴るだとか、そういった"気になる"ではないのだ。


「っと、次確か移動教室だったな。…げ。」
ナシーリエのことは一旦忘れ、授業割を見ると次は特殊科全体で行う摸擬戦だった。
それは自分の武器を使って好きな相手と戦ってよいというなんとも大雑把なルールの授業だった。
勿論授業後には教師から改善点が言い渡される。

が、特殊科の教師は学長───メガロマなのだ。
「俺、ああいうタイプ苦手なんだよなぁー…。」


王血の魔法陣で移動してきた時のこと。
『ようこそ、王立エヴェイユ学園へ。───早速だが、ユウジ=サナダ。貴方は今日から毎日その剣で素振り百回をなさい。』
『ひゃ…!?はぁ!?』
素振りは兵団に入っている時でも精々五十回程だった。
幾らこの剣が軽くて振りやすいとは言え、二倍の量だ。
勇司はこのストイックな課題を言いつけられた時点でメガロマに苦手意識を持った。

その後、誠也とヴェルムにもストイックな課題が言い渡されたことは言うまでもない。



「お陰でこっちは毎日掌痛ぇっつーの!」
気乗りはしなかったが、校庭へと向かった。


「───という訳で今回は以上の点を意識し戦うように。では始め。」
摸擬戦が始まった。
と共に後ろから声を掛けられた。
「やあ!この前の少年!」

「あー…この暑苦しい声は。」
振り返ると嫌な予感は的中した。
ナシーリエだ。

「聞くにアンタ、救世主なんだってな!」
「あー…そうみたいすね…。」
「ふっふっふ…実はな。この世界のヒーロー、ナシも救世主なのだ!」
ナシーリエは勿体ぶりながら自慢気に言った。
「…そうすかー。」
「ふふ、そう驚愕するな、ヒーローが力ある武器を持つことは必然だ。
そこでだ!アンタは今からナシと勝負するのだ!」
「はぁー…。…はい?」
「ナシに勝てたら、アンタをナシの一味に加えよう!どうだ?俄然やる気になっただろう?」
「俄然怠くなってきた…。」
しかし都合の悪いことはナシーリエには聞こえないようだ。

「先手必勝おおおおっ!!!」
戦いは急に始まった。
ナシーリエが地面にハンマーを振り下ろした。
すると、地面が隆起し地柱が勇司に迫ってきた。
勇司はすんでのところを剣で地柱を切り崩しながら避けていった。
「これが付与魔法かよ…!意外と厄介だな…こりゃ負けたら死ぬんじゃね…?」
そう悟った勇司は不本意ながらも全力で挑むことにした。
全ての地柱を避けきり、一息吐こうとすると頭上に気配を感じた。

「これで終わりだああああっ!!!どおおおおんっ!!!」
とてつもない跳躍力でナシーリエは勇司の脳天に一撃を振りかざそうしていた。
迫るハンマーを勇司は剣に左手を添え、押し返そうとしたがそれは予想以上の重さだった。
手がびりびりと痺れ、足元の地面は割れてきていた。
結局、相殺するので精一杯だった。

互いに間合いをとり、再び武器を交えようとしたその時───。

「そこまで!」
メガロマの制止が響き、チャイムが鳴った。
勝負をつけることは出来なかった。


「ふん!今回はナシが全力出してなかっただけなんだからな!?次は勝つんだからな!?」
そんなツンデレ風の言い方に蟹股歩きで校舎へ帰っていったナシーリエ。

その後、特殊科には新たな噂が流れ始めた、
最強と謳われるナシーリエにライバルが出来た、と。


数日後の隣のクラスとの合同授業にて。
その中にはナシーリエの姿もあった。

この学園に入ってから、勇司はそれまでとは別人かのように真面目に授業を受けている。
板書をしていると、偶然ナシーリエの後ろ姿が目に入った。

寝ている。もう清々しい程に机に突っ伏している。

耳に入った情報では、どうやら摸擬戦以外の授業は殆ど寝て過ごしているらしい。


最強なのか?はたまた只の脳筋なのか?

気になるあの娘の謎は深まるばかりなのだった。
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