InsteadLost

その日は雨だった。
雨音が耳に心地良い。

エヴェイユ学園特殊科に入学して三日。
勇司は窓際の席に着かされた。


あの日も、こんな雨の日だったなぁ。

偶然にも同じ窓際の席で、偶然にもその日はあの日と同じくらいの強さの雨が降っていて。

ふと、希太や蘭の自分を呼ぶ声が、笑い声が、頭の中で木霊する。

今でも笑顔なんかは鮮明に思い出せた。


今度、カラオケ行くって。約束したのになぁ。
そんなことを考えると、鼻の奥がつんとした。

「…強くならなきゃな。」
あの鎌の女にいつか復讐する為にも。
小さく呟いたその瞳には、殺意と決意の炎が宿っていた。



授業の中休み───。
廊下を歩いていると、明らかに頭の軽そうな三人の男に絡まれた。
「お、新人くんじゃーん。」
「救世主サマなんだってー?」
「じゃあまず俺らの財布の中身救ってー?」
汚い声で笑う男達を目の前に、勇司は何も言葉を発さなかった。
別に怯んでいたわけではない。

ただ、この状況さえも懐かしく思えたのだ。
誠也と蘭と、初めて出会ったのもこんな状況だった。
あのとき絡まれていたのは、蘭だったけれど。

勇司が視線を宙に向けていると、男の一人が業を煮やしてナイフを取り出し振りかざした。
「シカトしてんじゃ…!」

しかしその時。

「どおおおおおおおおおんっっ!!!」
壁の勇司の顔の寸前というところの壁に巨大なハンマーがいきなり直撃した。
すぐ横を見ると、勇司の隣には大きな風穴ができていた。

「小賢しい事を!さてはアンタら、悪の手先だな!?」
男達は、少女を見るなり、
「やべ、あいつナシーリエじゃね!?」
「あの噂の電波野郎か!?」
「関わると面倒だって!」
走って逃げて行った。


「大丈夫か、少年。」
さして歳の変わらないだろう少女に、少年と言われたことが引っ掛かりつつも差し伸べてきた手を掴み、勇司は立ち上がる。

「ナシこそはこの世を救うヒーロー、名をナシーリエ!!今のうちに憶えているといい!!」

するとナシーリエと名乗った少女は勇司の名前を聞こうともせずに高笑いしながら、去って行ったのだった。
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