InsteadLost

「ゆ…じっ!勇司っ!」
「ん…もうちょっと…。」
二度寝しようとする勇司から誠也が布団を引き剝がし、目を輝かせながら言った。
「勇司!!起きて!!見ててよ?」
「ん-…何だってんだ…?」
眠気眼の勇司が見たのは、誠也の手にあった筈の布団が一瞬消え、ふわりと勇司の元に降りてきた光景だった。
「ね?ね?俺、魔法便、習得したよ!」
「まさかお前…徹夜したのか?…魔導オタク。」
嬉しそうに笑う誠也に、半分呆れつつも、こいつらしいな、なんて思った勇司だった。



「じゃーーーん!!!ヴェルム君は初めましての、ゲストのロンたんでーーっす!」
「ロン…たん?」
「だから…ああもう。私はブレイカの王を務めている、ロンタゼルスだ。ヴェルム殿、どうか宜しく。」
「では今から君達が通う学校について説明するぞ。」

王立エヴェイユ学園。
エアストウワンを基盤とし、万物界の五つの国が運営している。
その代わりに王達は一人につき、一年に一人の推薦枠を持つ。
戦闘は勿論の事、万物界について様々な学習もする。
入園は年中可能、卒園には一月単位で実施されている卒業試験で合格する必要がある。試験は任意で受ける事が出来る。入園後は寮で生活する。
学園は四つの学科に分かれており、武術科・魔術科・両術科・特殊科がある。
ヴェルムは武術科、誠也は両術科、勇司は特殊科に入る手続きがヒィ達によってなされた。

「てな訳で、我とロンたんの残ってた推薦枠でユウジ君とセイヤ君を。」
「ヴェルム殿はまだ推薦枠が残っていたある王に頼んで許可証を作ってもらった。」
そう言うとヒィはリボンで束ねられた紙を三つ、勇司に渡した。
「それから、これも受け取って欲しいのだが。」
ロンタゼルスは懐から筒状に丸めた紙を取り出し誠也に渡した。
「これって、もしかして。」
「ああ。万物界の世界地図だ。特殊な魔法で今貴殿らが居る場所が光点となって標されるようにしておいた。」
「至れり尽くせりね。本当にありがとうございます。」

地図に目を通していた誠也が気付いた。
「あれ?でもエヴェイユ学園って孤島にあるんですね?港町まで行かなきゃいけないんじゃ…。」
するとヒィは待ってましたと言わんばかりの誇り顔をした。
「よくぞ気付いた!!そこで我ら王族に伝わる秘密兵器の出番なのだよ!!!」

聞くと五つの国とエヴェイユ学園には、王血の魔法陣、というものが存在するらしい。
それは魔術帝国イルシオンの初代王者であるドゥフ=ウミェールシフが作った、特殊な魔法陣で、王家の者が血を垂らせば、その魔法陣のある場所なら何処へでも空間移動出来るとのこと。

「空間移動の魔法は今でもイルシオンを筆頭に研究しているが捗っていない。そう考えると、ドゥフ=ウミェールシフ殿が魔術王と呼ばれているのが納得出来るというものだ。」
「魔術王…!!」


「さ、此処だよ。」
ヒィが巨大で重たい扉を開く。
その先には部屋いっぱいに描かれた大きな魔法陣があった。
誠也は瞳をこれでもかと輝かせている。

「君達、準備はいいかな?転送するよ。」
三人が頷くと、ヒィは懐から短剣を取り出し、指にスッと当てた。
皮膚を伝い、血が一滴、魔法陣に落ちる。

すると魔法陣から突風と眩い光が放たれ、勇司達を包んだ。
微かな視界の中でヒィとロンタゼルスが見送る。
「存分に、青春しておいでー。」
「学長殿に宜しく頼む。」


「それじゃ、行ってきまーす!」



突風と光は止み、視界がぼやけた状態で女性の声が聞こえた。
「貴方達が三人の推薦枠。そう。」
少しするとその女性の姿を捉えることが出来た。
「歓迎はする、だが贔屓はしない。そのつもりでな。」
そこには眉間に皺を寄せた、厳しい顔つきの壮年の女性が立っていた。

「ようこそ、王立エヴェイユ学園へ。」
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