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InsteadLost

「さぁさ、座って座ってー!」
勇司達が連れてこられたのは、豪華絢爛な城の中の一室。
テーブルに並べられるのは、見たこともないようなお洒落な料理ばかり。

「んじゃ、自己紹介タイムだね。我はヒィ。この国を一応治めているよ。」
「こら、ヒィ。するのならもう少しまともな…はぁ。
ユウジ殿とセイヤ殿、初めてお目にかかる。私は、武術帝国ブレイカの王を務めている、ロンタゼルス=オーハディと申す。どうか、宜しく。」

目の前に一国の王が二人も居る、その事実に少し怯んだ勇司達。
しかし正反対なその性格…特にヒィのノリの軽さに今度は少々拍子抜けしているのだった。

「ヒィ陛下、一般人の前ですぞ。もう少し威厳というものを…。」
ヒィの傍に居た老父が言う。だがロンタゼルスは溜息混じりに、
「無駄です大臣殿。ヒィは幼い頃からこうですから。」
と、ヒィの話題で話しているのに、当の本人は大きな盃を片手に清酒を豪快に呑んでいた。
「もー、ロンたん堅いぞー?」
「ロン…?」
「たん…?」
「嗚呼。ロンタゼルスって長いだろう?だから我が小さい頃につけてやった渾名だ。君達もそう呼ぶと良い!」
「おい、ヒィ。まぁ長くて呼びづらいのは確かだからロンと呼んで欲しい。」
「ぶーぶー。ロンたんてばー。せーっかくの人間界からの来客なのにー?」
いきなり本題に入ったヒィにロンタゼルスは目を丸くする。
「そうか…貴殿らは転移者であったか…!ヒィが『面白い奴が居た』としか言わなかったからな…。良ければ、これまでの経緯を聞かせて頂けないだろうか?」
「って事で我ら今から大事な話するから、大臣も兵達も下がれーっ。」
「しかしこの者共はまだ得体が知れませんし…突然暴れれば…。」
「ロンたんが居るだろう。」
その一言で勇司と誠也、ヒィとロンタゼルス以外の者達は部屋を後にした。
それだけこの二つの国の信頼は厚く、またロンタゼルスの戦闘能力が高い事が感じ取れた。

「それで?どうして転移に至ったか、転移してからこれまでどうしていたか。長くなっても構わない。聞かせてくれ。」
「食事の方も手をつけながら、な。」
ロンタゼルスが気を遣ってフォークとナイフを一本ずつだけ残して再び席につき、長い話が始まった。

人間界で起こった天変地異。
大鎌を持った少女による大量虐殺。
万物界への転移と勇司が記憶を無くした事。
低級の妖精との再会と謎の祠。
自分達が帰れない理由。

「そうであったか…。これまでの道中、大変だったであろう。我々が出来る限りであれは、尽力致そう。」
「うむ。任せたまえ。早速なんだが、君達が霊祠…低級の妖精が住みついている祠の事だ。その霊祠で授かったという品を見せてくれ。」
まず誠也が手の甲を見せて、
「俺のは、このアームカバーです。この闇の創魔晶のお陰で他の属性魔術も使えるんです。」
「五つも属性を使いこなせるのか…パウジェ殿といっ…いや、脱線してしまったな、すまない。」
次に勇司が剣を見せる。
「俺が持ってた剣は元々は普通の兵士用の剣だったんですけど、その霊祠…?に行ってから形も使い心地も変わって…。」
するとヒィとロンタゼルスが顔を合わせ、何かを確信したように頷く。
「ユウジ君。転移の際に記憶を失うのは後に強い力を持つ事になるからなのだよ。」
ロンタゼルスがヒィの言葉を紡ぐようにして続ける。
「ユウジ殿が記憶を失った点、武器の性質が変わった点、それから剣の形状考えて、私達はユウジ殿が『救世主』なのではないかと思う。」

「は?救世…主?」
ロンタゼルスの口から思いがけず出てきた大層な言葉に、つい間の抜けた声を出してしまう勇司。

「これは君達が人間界へ帰るのにも関係してくるだろうが、今起きている異変というのは他でもない、魔人の増加・凶暴化だ。因みにこの情報は不安を煽らないよう、まだ一部の人間しか知らない。
軍でも差し向けて殲滅すべきなのだろうが、それが叶わないのだよ。」
「魔人を唯一、完全に消滅させられるのが、霊祠で精霊からの力を大いに授かれる侵食破壊具の持ち主、通称救世主というわけだ。」

「この剣…侵食破壊具っていうのか…んで俺が…救世主…?」
突然告げられた『救世主』という言葉。
その言葉に勇司は少なからず責任を感じていた。

「さーて、ここらでちょいと腕試しでもしよっか。」
ヒィが伸びをしながら言う。
「ユウジ君、セイヤ君。戦闘準備をしてくれ。」
どうやらヒィは二人同時に相手をして力量を測ろうとしているのだった。
女性相手、しかも女王相手に刃を向けるだなんて、と二人が戸惑っているとロンタゼルスが言った。
「ユウジ殿もセイヤ殿も本気で掛かってくれて構わない。ヒィは強いぞ?」
誠也と目配せをし、怪我をさせない程度に相手をする事にした。


後から思えば、その考えが甘かったのだった。


勇司は剣を構え、誠也はナイフを手に取る。
「もー待ち疲れちゃったから、こっちからいくねー?」
そう言うとヒィは一瞬にして勇司の目前に移動し、脚に炎を纏い、鋭い蹴りで勇司の頬を掠めた。
何とか致命傷は避けられたが、蹴られた頬がジリジリと熱い。
これは本当に本気で掛からないとやばい。
本能的にそう感じた。
「ほらほら、もっと本気で来ないと!」
ヒィは更に煽る。
勇司はヒィに遂に剣を振り下ろすが、あっさりと避けられてしまう。
「はっは、そんな単純な振りじゃ侵食破壊具が泣くよ?」
笑っている隙をついて今度は誠也が闇を纏ったナイフを投げる。
だがそれも避けられ、虚しく壁に突き刺さる。
「セイヤ君は魔術展開までに時間かかり過ぎかなー。」
その間に剣を振りかぶっていた勇司にヒィは脚払いをかける。
バランスを崩した勇司はそのまま誠也を巻き込んで倒れ込んでしまう。

「そこまで!」
ロンタゼルスが声を上げた。

「各々の弱みは先程ヒィが申した通りだ。あと連携をとりきれていないのも勿体無い部分でもある。」
「悲観する事はない。我々は幼い頃この世界随一の学園に通っていたからな。」
ヒィが倒れ込んでいた二人に手を述べ、言う。
「そこでだ。その学園に入らないか?いや、是非入って欲しい。丁度今年度の我とロンたんの推薦枠が空いているしな。」
二人はヒィの手を取り立ち上がる。
「とてもありがたい話ですが、ヒィ陛下。」
「ヒィでいいってー。」
「えっと…ヒィ…さん。実は先にスパイダーズウェブという所に行かなくてはいけない訳でして…。」
その言葉にヒィは明らかな嫌悪感を醸し出し、
「は?何でよりによって鬼蜘蛛なんかの所に?それは余り勧められられないな。」
「ふむ。まぁ行きたいというのなら止めはしないが、あの男から安易に情報を買わない方が身の為だ。」
「えー、絶対止めといた方がいいってー。」
まぁまぁと、むくれるヒィをロンタゼルスがなだめる。
「それではスパイダーズウェブで用が済んだらまた此処に戻って来たまえ。それまでに入学手続きは済ませておこう。それと今夜は客人用の部屋を用意してあるから、そこを使うといい。」


色々な事があった一日。
為になる事も、悔しい事も。
色々な思いを秘めその夜を越し、二人はエアストウワンを発ったのだった。
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