目が覚めたら俺は見知らぬ部屋のベッドにいた。

ちょっと待て、ここはどこだ？俺は誰だ？
俺は観音坂独歩だ。それは分かる。
ここがどこかは分からない。

壁も天井も目がチカチカするようなショッキングピンク。

しかも天井には安っぽいシャンデリアまである。

ベッドは俺みたいな大の男が一人で寝てもまだまだ余裕があるくらいに広い。


「（ホントにここどこなんだ…？）」


ガンガン痛む頭を冷やすために水でも飲もうと上体を起こそうとしたその時、グイッと引っ張られるような感覚が左腕に走り、そこで新たな疑問が浮かび上がる。


「（この人誰…！？）」


腕を引かれた正体は俺の腕に抱きついてすやすやと寝息を立てる女性だった、しかも全裸の。

抱きつかれる腕にふにふにと当たる胸の感触が悩ましい。

よく見ると俺もパンツ一丁だ。


「（いやちょっと待て…何がどうしてこうなった！！？えーと確か…仕事の帰りに飲み屋街のキャッチに捕まって相席居酒屋に連行されてそれから…誰か、誰か嘘だと言ってくれ…！これはドッキリだと言ってくれ頼むから…！！！）」


俺がどんなに希望を抱いても、ベッドの傍にあったゴミ箱の縁に引っかかる使用済みのコンドームが、俺の祈りは無意味だと現実を突きつける。


「（しかも2回も使ったとか…マジか俺…）」


ここまでの情報でようやく自分の居場所が分かった。

恐らくここはラブホテルの一室で、酒に酔っていた俺はここで彼女と一夜を過ごしたと考えて間違いないだろう。

だがしかし、こうなる経緯に至るまでの記憶がない。


『ん…』


俺が1人悶々としていると今まで眠っていた女性が動きを見せた。

うっすらと目が開き、寝ぼけた目で俺を見つめる。


『翔大…』

「え…」


いや翔大って誰だよ！！？とツッコむなんてできる訳もなく、呆然と固まる俺を見つめる彼女の目がだんだん覚醒していき、とうとう彼女は今の自分の姿を確認する。


『え…、え！？だ、誰！！？』

「あの、その、お気持ちは分かります！！とりあえず服を着ませんか！？話はそれからで…」

『…あっ、はい…そう、ですよね…』


どうにか彼女を落ち着かせることはできたが状況は変わらない。
俺は極力彼女のほうを見ないようにして床に脱ぎ捨てた服を拾った。