ドラマティックな恋仕方
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『…はい、ええ、では契約ということで。
かしこまりました。では明日書類をお持ち致します。』
『課長、マーケティング資料を見せていただいて気付いたんですけど…A社とB社の共同開発の新商品を企画してはどうでしょうか?
もう各社にアポはとってあるので、プレゼン資料の確認だけお願いします。』
「聞いた?派遣の弥勒院さんもう何件も大口の契約とってるって。」
「このままだと今月の営業成績、弥勒院さんが1位かもね〜。」
独歩が玲香の教育係に着いて早1週間。
教育など必要ないのではないかと疑問が湧いていた。
教育といっても社内の案内と営業先への挨拶のみで、仕事に関しては何も教えずとも玲香は優秀にこなしているから。
むしろ優秀すぎて今では独歩の成績をとうに追い抜いている。
「(とうとう派遣以下なのか俺は…いや違うか、彼女が普通に優秀なだけで悪いのは全部俺なんだ…)」
『…さん』
「弥勒院さんくらい優秀ならいずれ本採用されて出世コースまっしぐらになるんだろうな…」
『…坂さん?』
「それで社員枠を空けるために俺が代わりにクビになるんだ…そうに決まってる…」
『観音坂さん!』
「ひゃいっ!!?」
怒りで荒げられた声で呼ばれた独歩は咄嗟に裏声で返事し振り向くと、目の前に何かを突きつけられる。
『落としましたよ。』
「す、すいません…」
独歩が玲香から目前に突きつけられたボールペンを恐る恐る受け取ると、玲香が何事もなかったかのように振る舞う。
『次の外回り、一緒にきてもらえます?』
「え、え!?な、なんで僕が…」
『正社員の方が居た方がいいじゃないですか、それとも派遣の私に1人で行けと?』
「わ、わかりました…お供させていただきます…」
どちらが歳下でどちらが派遣か分からなくなりそうになりながらも、独歩はすでに取引に向かう玲香についていった。
「では、この件は弥勒院君に一任しようかな。」
『本当ですか!ありがとうございます。』
「ありがとうございます…。」
間近で玲香の仕事ぶりを見ていて改めて思った。
独歩は今のところ不機嫌そうな一面しか玲香を見ていないが、営業先への愛想の良さといい、忌まわしい課長にさえも褒めちぎられる優秀さといい、彼女は本当にできる女だと。
『では後日詳しい資料をお持ちします。』
「ああ、よろしく頼むよ。」
玲香と共に取引先の会社を出ると、真っ先に思い浮かぶ言葉を口にしていた。
「…すごいですね、弥勒院さん。」
『え?』
「営業職は未経験だと聞いてますけど、来てからずっと成績トップじゃないですか。
今日だってあんな大口取るなんて…」
『そうですかね?普通に話してるだけですけど。』
その時、玲香の胸ポケットから着信音が鳴り響いた。
しかしそれは仕事用の端末ではなく、プライベート用と思しきもので、玲香はそれに出ようともしない。
「…出ないんですか?」
『…ハァ、では失礼しますね。』
短く溜息をつく玲香。
独歩に促され、渋々といった様子でその電話に出た。
『…何?……言いたいことはそれだけ?私ヒマじゃないんだけど。
だからそっちの好きにすればいいでしょ、私の荷物が邪魔なら捨てればいいじゃない。』
何やら聞いてはいけない会話に思えた独歩は、その場を離れようと後ずさる。
最初は冷たくあしらっていた玲香の声が少しずつ荒げられていくのが分かるからだ。
『都合のいいことばっかり言わないでよ!!!!!』
急に声を張り上げた玲香に独歩の肩が跳ね上がった。
「ひっ!!!?」
『…あ、』
我に帰った玲香が独歩に向き直り、いつものクールさを取り戻す。
『お見苦しいところを見せてすみません。
私、今日は直帰しますね。』
気まずそうにそう告げると独歩には目もくれず走り去っていった。
独歩はそんな玲香の後ろ姿を見つめるしかできなかった。