テニスの王子様
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生徒たちの賑やかな声で溢れる外とは違い、私しかいない教室はひどく静かで、私にとってそれは安心できるものだった。
窓の外に見える柔らかい炎の灯りを、ぼんやりと眺めると
長いようで短い、この文化祭が終わろうとしているだと感じた。
音楽と共にダンスを踊る男女の生徒たちを眺めていて、ふと思い出す。
この後夜祭には、一緒にダンスをした生徒は結ばれるだとか
好きな人と過ごすとずっと一緒にいられるだとか、確かそんなジンクスがあるらしい。
…まぁ、人混みが嫌だからと教室でひとりぼっちな私には、なにも関係ない話だ。
そんなことを考えていると、突然ガラリと教室のドアが開いた。
『…やぁ、電気もつけないでこんなところで何してるの?』
そう言いながら幸村先輩は教室へと入り、私の前の席の椅子にもたれかかる。
「人ごみに疲れたので」
『そっか…まぁ俺もどちらかといえば、人が多いのは苦手かな』
幸村先輩を見ると、先輩のクラスの出し物であるカフェで着ていた服のままだ。
普段の制服姿とは違う、執事のようなその姿に、思わず目を奪われた。
そして、その隣はお化け姿の私。…我ながら、差が酷い。
こんな夜に、幸村先輩の隣にいるのがこんな私だなんて知られたら、あらゆる方向から猛攻撃に遭いそう。
「きっと色んな人が今、先輩のこと探してますよ」
『え?どうして?』
「だって、先輩と後夜祭を過ごしたい女の子、たくさんいると思うから…」
私がそういうと、先輩は困ったように笑った。
『あ、もしかして、ジンクスのこと?名前も知ってたんだ』
「はい、まぁ」
『なんだっけ。ダンスの終わりに手を繋いでいた人が、運命の人だとかそういう…』
幸村先輩が話したそれは、私が知っている噂とは若干違うが、多分似たようなものがたくさんあるんだろう。
『名前は、そういうの信じてる?』
「え?」
予想外の質問に固まってしまう。
少し考えてから、私はゆっくり口を開いた。
「あんまり信じてはいませんが…でも、そういうのって、良い事だなぁと思います」
『良い事?…そうか、ふふ。名前らしいな』
私の答えを聞いて、幸村先輩は妙に満足そうな表情を浮かべた。
「幸村先輩は信じているんですか?」
『んー俺も、あんまり信じてなかったけど…』
幸村先輩は不意に立ち上がり、一歩私に近づいてきた。
不思議に思いながら幸村先輩を見上げていると、先輩は私の右手を取った。
「…?」
何も言わずに、ただ私の右手を握る幸村先輩に、私はどうしていいかわからず、幸村先輩の次の動向を待つ。
そして不意に幸村先輩の口元が緩んだ、そう思った時
『…可愛い』
予想していなかった言葉が、聞こえた。
その瞬間、窓の外からダンスの終わりを告げる一際大きなアナウンスと、拍手が聞こえてくる。
はっと我に返ると、握られていたはずの手が、いつの間にか離れていることに気がつく。
そしていつも通りの穏やかな笑顔でこちらを見ている幸村先輩の姿に、さっきの一瞬は、夢だったかと錯覚すらしてしまう。
『じゃあ…俺行くよ』
「は、はい…」
教室を出ていく先輩を呆然と見送る。
『また明日ね』という声と共に扉が閉まり、先輩の姿が見えなくなった。
幸村先輩に握られていたはずの右手をぼんやりと眺める。
「……」
窓に映る自分の顔が赤いように見えたが、
それはきっと、窓から差し込む暖かい炎の灯りのせいだと、思うことにした。
end
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