下町ロケット見てたら書きたくなった
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休憩室のドアを開け、工具箱を床に置く。現場との暑さのギャップが気持ち良い。思わず気の抜けた声が出る。
「あ〜」
「うい〜、お疲れ〜」
私の方には目も向けずに雑誌を読む設楽課長。
「随分時間かかったな」
「軸がやられてました」
「へ〜、なんかかじってたのか?」
「砂にやられてました。グリスアップして無かったみたいです」
「はは!そりゃ災難だったな!」
楽しそうに笑う設楽課長。他人事だと思いやがって。
「何で現場の人は保全作業してくれないんですかね」
「壊れたら俺らが何とかするって思ってるからだろうな」
「それって無責任な話だと思いません?」
まあな〜、と言いながら再び雑誌に視線を戻した設楽主任に思わずため息が溢れる。私達保全課は、この株式会社ヒムラディーゼルの全設備の保全修理を行うのが仕事だ。突発的に起こる故障は仕方が無いが、不具合を放置して起きる故障には腹が立つ。
「はあ」
「おい!苗字!」
勢いよくドアを開けて入って来たのは我が社の社長日村さん。
「た、た、た、大変だ!!」
「おわっ!?何ですか社長?」
やけに焦っている社長は、入って来て直ぐに私の肩を掴んだ。
「本社の菅井さんがやって来て、苗字を出せって言ってきた!」
「……は?」
本社って、あのサクラ建機?え?何でそんな所の社員がうちに来るの?
「とにかく急いでくれ!!応接室でお待たせしているから!!」
それだけ言うと、バタバタと慌ただしく出て行く社長。私は訳がわからず呆然としていた。
「どうしたんだろ……」
とりあえず言われた通り、私は急いで応接室へと向かった。
「失礼します」
ノックをして入った部屋には、緊張しているのが背中から伝わる社長と、スーツを着た若く綺麗な女性がいた。女性は私を見るとニコッと微笑んだ。
「あ、す、菅井さん、こちらが、弊社の保全課の苗字です」
「あ、お世話になっております。ヒムラディーゼル、保全課の苗字です」
緊張して上手く話せない。あまり、社外の人と話すことが無いから慣れていない。
「初めまして、サクラ建機の技術部主任の菅井友香と申します」
丁寧に挨拶をする彼女は、とても落ち着いた雰囲気の女性だった。
「よろしくお願いいたします」
「はい、よろしくお願い致します」
「お待たせしてしまい申し訳ありませんでした。ど、どうしてこちらに?」
恐る恐る尋ねると、菅井さんは少しだけ笑った。
「ふふ、すみません、突然伺ってしまいましたね」
「いえ、とんでもない」
「実はですね、今日はご相談がありまして、伺いました」
「相談?いったい、何でしょうか?」
すると菅井さんは真剣な顔つきになった。
「苗字名前さん、弊社の技術部に来ませんか?」
「え?」
彼女の言葉に、思わず固まってしまった。
「ぜひ貴女に来て頂きたいのです」
「ちょ、ちょっと待って下さい!」
いきなり過ぎてついていけない。
「それは、どういう事でしょうか?」
「そのままの意味ですよ。是非、弊社に欲しい人材なんです」
その目は真っ直ぐで嘘をついているようには見えない。しかし、私と菅井さんに接点は無い。私の事など知らない筈だ。
「あ、あの、菅井さん。私としましても、急に来られて、苗字を引き抜くと言われては困るんです。彼女はウチの会社にとって必要不可欠な存在ですので」
ずっと隣で固まっていた社長が急に低い声で話し始めた。あまり聞かない社長からの評価に少し、いやかなり嬉しくなった。
「今回の件、少し待っていただけませんか?」
「そうですか、分かりました。それでは、また改めて参りますね」
「はい、よろしくお願いします」
「失礼します」
そう言って出て行った彼女を見送り、私はホッと息を吐いた。
「はあ〜、ビックリしました」
「全くだ。心臓に悪い」
よく分かんないけど取り敢えずは何とかなった。これでまたいつも通りの日常が送れると、この時はそう思っていた。
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