相棒
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
教室のドアを開け、クラスメイトの挨拶に軽く応えながら、窓際にいるあの娘の元へ足を早める。
「おはよう理佐ちゃん今日も可愛いねえ?どう?今日は私と」
「嫌だ」
私の話を途中で遮って、蔑んだ目を向ける美女。我が校のプリンセス渡邉理佐。今日も今日とて美しい。
「え〜、まだ何も言ってないじゃん」
「……」
「無視する姿も可愛いよ」
「キモいんだけど」
「ありがとうございます!」
もう気づいているだろうが、私は渡邉理佐が好きだ。この櫻坂高等学校の入学式の日に彼女と出会った。そして、一目惚れした。物静かでクールな性格だと思っていたが、仲の良い娘達と一緒だと楽しそうに笑う。そんな姿に私の心はがっしりと掴まれた。
「今日もまた朝から理佐にダル絡みしてんの?名前?」
背後から聞こえた声に振り向くと、これまた可愛らしい女性が立っていた。
「おっ?ゆいぽんおはよう!」
「こば、この粗大ゴミ回収して」
「粗大ゴミ!?」
「理佐には悪いけど、生憎私も朝から汚物に触れたくないんだよね」
「汚物!?」
2人からの暴言に開いた口が塞がらない。だ、だがしかし!ここで折れるわけにはいかない。私の最も信頼する相棒からアドバイスを貰ったのだ。
「ね、ねえ理佐ちゃん。冗談抜きで本当に今日」
「はあ、あのさ」
いつもより低い理佐ちゃんの声に思わず肩が跳ね上がった。
「あんたみたいな軽い奴には落ちないから」
今までの中で1番冷たい目で私を睨む理佐ちゃん。
「私はそんなに安くない」
私の中の何かが壊れる音がした。嫌われている。普通に考えたらそれ以外無いだろう。諦める?いや、私の気持ちもだってそこまで安くない。だって、言ってくれたんだ。1番信頼するあの娘が。
『名前なら大丈夫』
うん。やっぱ諦められない。
「わかったらもう話しかけて、ッ!?」
「理佐ちゃん」
私は理佐ちゃんの手をそっと握った。
「嫌な思いさせてごめん。でもね、ダメなんだ」
諦めるわけにはいかない。あの日私に芽生えた感情は嘘じゃないから。
「止めるわけにはいかないんだ。自分でも最低だと思うよ。理佐ちゃんに嫌な思いさせてさ」
「……」
さっきとは違う。理佐ちゃんは私の目をちゃんと見て聞いてくれている。その真実だけでも私の心を弾ませる。
「嘘じゃないんだ。この気持ちだけは本心なんだ」
「ちょっ、!?」
理佐ちゃんの手を引き、距離を縮める。少し赤くなった理佐ちゃんの頬。今だ、伝えるなら今しかない。
「私は、理佐ちゃんの事が」
「名前」
「ウェ!?」
自分の頭より少しだけ高い位置から聞き慣れた声がした。そして私の体が後ろに引かれたのと、変な声が出たのほぼ同じタイミングだった。
「は、土生ちゃん」
「ヤッホー理佐!」
おいおいおいおい、そりゃ無いだろ相棒。
「名前さあ、今日日直なの忘れてたでしょ。澤部先生怒ってたよ?」
「え?いや、えと」
「もう、ほら行くよ」
「いや、違う違う!」
ズルズルと相棒に引きずられながら私は教室を後にした。
「ちょ!みづ!」
廊下を歩く生徒達の注目の的になっても引きずる事をやめない相棒。あまりのタイミングの悪さとショックで黙っていたが、流石にと思い声を張り上げた。朝は人通りの少ない化学実験室の前。少々大声を出しても気にならないだろう。
「ん〜?」
間延びした返事をして振り返った相棒。理佐ちゃんやゆいぽんと並んでも何の違和感もない超絶美人。
「あのさあ、いくら何でも酷すぎない?」
「何が?」
「何がって、私の恋を応援するって言ったのみづじゃん」
「ああ〜、その事か」
なんて能天気な人なんだ。みづと私は小学生の頃からの幼馴染。昔から何考えてるか分からないところがあったがそこは今も変わらない。
「やっぱり、応援するのやめた」
「は?」
「だってさ、あのままだと取られちゃいそうだったから」
ああ、そういう事か。みづは理佐ちゃんと仲が良い。あまり弱い所を人に見せないみづが理佐ちゃんには甘えている姿を見る。みづも理佐ちゃんが好きなんだろう。これは、勝ち目のない戦いになるかもしれない。
「そっか、みづ!今までありがとう!これからは敵同士だけどお互い正々堂々頑張ろう!」
「え?」
「負けないよ!理佐ちゃんは譲らない!」
私の宣言を聞いたみづは数秒固まり、下を向いて頭を抱えた。
「はあ、本当に名前って」
「え?どしたの?」
「もういいや」
「ちょ、みづ本当に大丈夫?うわっ!?」
みづの方に近づくと、手首を掴まれ壁に押し付けられた。
「は?みづ?何?」
「ねえ、名前?名前は誰が好きなの?」
「え、だから、私は理佐ちゃんが、ん!?」
唇に触れた柔らかい感触。視界に広がる見慣れた綺麗な顔。私はみづにキスをされた。
「み、みづ?」
「違うよ。名前が好きなのは理佐じゃない」
「え?何言って、ッ!」
またみづの唇が触れる。何度も、何度も。
「ちょっ!みづ、ねえ!」
「名前が好きなのは」
「だから理佐ちゃんだって!みづもそうでしょ!ん!?」
本当に何がしたいのか分からない。みづは時々暴走する事があるが、このレベルは初めてだ。みづは私と違ってよくモテる。チャラい言動を繰り返すが、好きでもない相手とキスをするようなクズじゃない。
「ははっ、本気で言ってるの?」
10年一緒にいるが見たことのない妖艶な笑みを浮かべるみづ。
「私が好きなのは名前だよ」
「は?」
ダメだ頭が混乱する。みづは一体何を言ってるんだ?とりあえず頭の中を整理する為に復唱する。
「み、みづは、私の事が好きなの?」
「そうだよ、ずっと、ずっと好きだった」
「じゃあ、何で、私の事応援したの?」
「元々は、ちゃんと応援してたよ。名前が好きだからこそ、幸せになってほしかった」
こんな状況だが、みづの優しい笑顔に少しホッとした自分がいた。
「でもさ、さっきの理佐の表情見て、ああやっぱり渡したくないって思った」
みづは昔からよくモテた。かっこいいし、可愛いし、ゲーム好きでどこか親近感が湧く。私の相談にも乗ってくれる優しい面のある最も信頼する相棒。
「名前はずっと私と一緒だったのに。私から離れる必要ある?」
今目の前にいるのは、誰だ?私が知ってるみづじゃない。
「ねえ?名前が好きなのは誰?」
「私は」
「今はまだ、理佐で良いよ」
そう言って今日何度目かのキスをしたみづ。私の頭も正常に働かなくなってきた。
「直ぐに落ちるから」
雨のように降る彼女のキスはいつやむのだろうか。
1/1ページ