ヤンキー校の一般人
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ああ困った。非常に困った。え?何に困ってるかって?そりゃあこの現状に困ってるんですよ。あ、ご挨拶が遅れました。私、苗字 名前と言います。
皆さん坂道女子校ってご存知ですか?
通称サカジョシ
この辺の人なら誰もが1度は聞いた事のある超有名校。偏差値は県内1低く、暴力に支配されたヤンキー校。これだけ聞けば、馬鹿が集まる落ちこぼれの学校だと皆さん思うでしょう。
しかし、全員がそうと言うわけではないんです。と言うのも、サカジョシからは多くの有名人が輩出されています。
例えば、女優の白石麻衣や西野七瀬、アーティストの平手友梨奈、タレントの長濱ねるなどなど。
何故これほどの著名人達がサカジョシに在籍していたのか謎は深まるばかりですが、一応彼女達にも共通点はあるんです。
それが、サカジョシの3大勢力の一角に所属していたと言うこと。
3大勢力とはサカジョシを支配する3つのチームの事です。
サカジョシ創立以来続く頂点に立ち続ける最強のチーム、NOGI
一度は解散したが、名前を変えて集結したカリスマ集団、サクラ
結成して日は浅いが、結束力は鋼のように硬く、今最も勢いのあるチーム、日向
サカジョシを卒業した有名人は基本的にこの3チームのどこかに所属していた過去があります。白石麻衣と西野七瀬はNOGIに、平手友梨奈はサクラの解散前のチームに、長濱ねるは少々ややこしいですが、平手と同じくサクラの解散前のチームと日向の前のチーム両方に所属していたようです、まあ喋った事も会った事もないですけど。
この学校の事は理解していただけましたかね。それで何故私が現状困っているのかですが、実は私、
「ねえ名前!!私日向に入れて貰えた!!」
「え?あ、そう、おめでとう」
私の回想を遮断して机に突っ込んできた野球馬鹿、山口陽世。陽世とは小学生の頃からの付き合い。幼馴染というか腐れ縁というか。
「何かテンション低くない?すごいんだよ日向に入れるのって」
「ん〜、あそう」
そう言えば、日向の佐々木美玲さんからスカウトされたって言ってたな。
チームへの加入方法はほぼ、所属メンバーによるスカウト制。基本的に入れてくれと言って加入出来るもんでは無い。
「はあ、そんなんだから友達出来ないんだよ」
いきなり失礼だなこのチビ。
「まあ、そんな事より」
「いやそんな事よりじゃねえよ」
「名前も今日から日向のメンバーだからね」
「……んあっ!?」
このチビ今何つった?
「ちょっ、ちょっと待て!何でそんな事になってんの?」
「だって、久美さんが良いよって言ってくれたから」
「そうじゃねえよ!何でそういう話になったのかを聞いてんだよ!」
「ああ、そう言う事。えっとね、名前最近NOGIとサクラにスカウトされてるでしょ?」
「え、何でその事知ってんの?」
確かに私はNOGIの生田さんとサクラの土生さんから勧誘されている。何より私が悩んでるのがその件についてだからだ。だがそれを誰かに言った覚えは無い。
「噂になってるよ、生田さんと土生さんから誘われている奴がいるって」
「マジか」
「まあ、2人はそれぞれのチームの中心人物だからねえ」
そんな噂私の耳には入ってこなかった。こんなのんきなチビにも届いていたのに。
「私は美玲さんから日向に誘われてたから、もし名前が他のチームに入って別々になったら嫌だしさ」
少し切なそうな顔の陽世。私達は昔から言い合いになる事は多かった。でも何故か最後は今と同じような表情を浮かべて陽世が謝って来た。
「まあ、そう言うわけで誰かに取られるくらいなら私の横に置いとこうかなって」
「あ?」
横に置いとく?私は置物かなんかか?
「ねえ、ダメ?」
「うっ」
上目遣いで聞いてくる陽世、私は昔からこの表情に弱い。生意気なチビだが、顔は引くほど可愛い。
「迷惑だった?」
「‥‥別に、嫌ではない」
嘘つけ。おう迷惑だって言いたいのに言えないだけ。自分に腹が立つ。
「良かった!」
パァッと明るくなる陽世の顔。可愛いなあとは正直思う。
「じゃあ早速挨拶に行こう!」
「はっ?えっ、今?ってちょっ!?」
陽世は私の腕を掴んで立ち上がらせ、そのまま勢いよく廊下へ飛び出した。
「ちょっと陽世!速過ぎ!スピード落として!」
「ッ」
「へぶっ!?何で急に止まんの」
スピードを落とせとは言ったが、止まれとは言ってない。何してんだよ。
「あ、名前ちゃん!」
「えっ?あ、土生さん」
急停止した陽世の前には、サカジョシの王子様こと土生さんが立っていた。
「名前ちゃんとこんなとこで会えるなんて、運命かな?」
「はは、どうですかね?」
陽世とは系統が違うがこの人も引くほど顔が良い。しかし、かなりチャラい。
「それで、サクラへの加入は考えてくれた?」
「えっと、その件なんですが」
「名前は今日から日向のメンバーです」
土生さんの顔を見上げたまま固まっていた陽世が突如私の話を遮った。その言葉に私を見つめていた土生さんの視線が陽世に移動した。
「なので、もう金輪際名前に近づくのはやめてもらって良いですか?土生瑞穂先輩」
「陽世!言い方!」
先輩になんて言い方するんだこいつは。土生さんは平手友梨奈と同じ解散前の《ケヤキ》に所属していた人だ。この学校で知らない人はいない。可愛い女の子が大好きな人たらし。でもサクラのメンバーからの信頼は厚い。スタイル良いし卒業後はモデルとしてやっていけるだろうな。何年留年してるか知らねえけど。
「へ〜」
「っ!?」
「ヒッ!?」
綺麗な笑顔の土生さんから強い何かを感じた。覇気?殺気?
「名前ちゃん日向に入っちゃったんだ」
「っ、そうですよ、だからもう」
「じゃあ自由に奪いにいけるね」
「え?」
土生さんの言葉に私も陽世も耳を疑った。
「今までは名前ちゃんの気持ちを優先して来たけど、日向に入っちゃった以上はもう関係ない。奪いに行くしかないよね」
「そ、そんなことして良いんですか?日向と戦争する事になりますよ」
陽世の表情から焦りが伝わる。今まで3チームが争った事は一度も無い。
「陽世ちゃんだっけ?」
「は、はい」
「サカジョシでは、力が全てだよ」
「ッ」
土生さんが陽世の耳元で何かを囁いた。私には聞こえなかったが、陽世が俯いて拳を強く握ったあたり、良い事では無いのだろう。
「それじゃあ、名前ちゃんまたね」
そう言って土生さんは私の頬を撫で、横を通り過ぎて行った。
「名前」
「ん?」
陽世が振り返り、ゆっくりと顔を上げた。その目はいつもののんきな陽世の目じゃ無い。何か決心した強い人間の目だ。
「私から、離れちゃダメだよ」
ああ、困った。非常に困った。私はこれからどうすれば良いのだろう。
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