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「うそ…」
十時の社内一斉メールを見て、思わず息を吸うのを忘れた。動揺したのは自分だけではないようで、まさか載るとは思わなかった名前に四方から驚きと明らかに落胆している声が耳に入ってくる。
「リヴァイ課長来たばかりなのにまた戻るんだね〜。本店で欠員でも出たのかな?」
「さぁ…」
「大丈夫?」
「マジクソ人事…」
分かりやすく沈んだ私の隣でペトラは苦笑いしながらドンマイと声をかけてくれた。課長本人もまだあとニ、三年は居るなんて言ってたから油断していた。こうしたサプライズ人事は毎年数件紛れ込んで、人々を地獄に突き落とす。自分が突き落とされたと思ったのは入社して以来初めてだ。
「まぁまぁ、春は出会いと別れの季節っていうし。あなたの課長への熱狂ぶりを見るのが毎日の日課だったのにこれから楽しみが減っちゃうわね。」
励ましのつもりなのかペトラは「新しい推しが入ってくるといいね。」と言ったが、新しい推しなんてもう出来ないだろう。だって私はリヴァイ課長にガチ恋だったのだから。
去年の4月に課長が赴任してきて、最初は顔が好みってだけでキャーキャー騒ぐだけだったがその一流の仕事ぶりや温厚な人柄にいつしか本気で課長を好きになってしまったのだ。だからこの一年課長に認めて欲しくて仕事もプライベートも色々と頑張った。ダイエットとかファッションとか。恋せよ乙女なんて言うが、そんな日々は結構充実していて楽しかった。課長に見合う女になっていつしか告白できたらいいななんて思っていた矢先にこれだ。
勿論去っていく人に対して想いを伝えて負担になるようなことはできない。きっとこの感情は咲ききる事なく桜とともに散っていく。どうやって折り合いを付ければよいのだろう…切なすぎる。
「もうやだ…課長が居なくなるなんて耐えられない…」
「自分の気持ちに寄り添うのも大切よ!こういうときは落ちるとこまで落ちたほうがいい!」
「そうだね…なんか思いっきり飲みたくなってきた…半休とろうかな…」
「ちょっといいか」
絶望してキーボードの前に突っ伏していると、側に誰かが立つ気配がした。
「課長?!」
なんと項垂れる自分の隣に渦中のリヴァイ課長が立っていた。
「これから半休とって飲みに行くのか?」
「は、はい。そうしようかなって…」
「一緒にどうだ?俺も今日は飲みたい気分だ」
人事の事を言っているのだろう。苦笑いしたリヴァイ課長が「前からお前と二人で飲みに行きたいと思ってたんだ」とサラッと爆弾発言をしている。驚いて固まってしまっていると、課長の背中側に居るペトラがこれは逆転満塁ホームランがあるかもしれないとゴーサインを出している。そういえば、春は暖かいと寒いを繰り返して、やっと春になるんだった。
「どうする?まぁ、無理にとは言わねぇが…」
「是非お願いします!」
私はパソコンの電源を急いで消して、バタバタと帰る準備を始める。課長は「俺のよく行く店でいいか?飯も美味くて昼からでも飲める」とスマホ片手にもう席の予約をしてくれてるみたいだ。課長行きつけのお店…なんだかすごい事になってきた。
「どうした?別に他に行きたい店があればそこにしても構わねぇが」
「い、いえ!是非お願いします!」
リヴァイ課長がゴクリと唾を飲み込んだ私の様子を伺ってきたが、どこか変化を楽しむ大人の余裕が感じられる。それに対して感情が顔によく出る私の表情はきっと今ごろ…
(もうどうにでもなれ!)
本当は予定になかったけれど、
私の心よ、もう咲ききってしまえ。
桜のように潔く。
散っても散らなくとも、外の世界を知らない朱く膨らむ蕾を、私は自分自身で摘み取ることができない。きっと後悔するから。
「じゃあ決まりだな。準備できたら下のロビーで待っててくれ。すぐに行く」
「は、はいっ!」
飛び出しそうな心臓を抱えて、私はいきおいよくピンク色に上気した顔を上げた。