Fire番外編
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「リヴァイさん、今度大学時代の友人と飲み会をしようということになったんですけど行ってきていいですか?私が結婚することになったって報告したらみんなでお祝いしてくれるそうで。」
二人で朝食を囲む休日の朝。
でへへと嬉しそうに話すルリの口元はこれでもかと弛んでいる。それもそのはずサラダボウルから取り分け用の大きなスプーンとフォークを操る彼女の左手の薬指にはリヴァイから貰ったキラめく指輪が。ルリが手を動かす度にカッティングが繊細に施されたリングは初々しく光っている。
二人の休日は最近忙しく、先日遥々ヘキガイに暮らす両親に挨拶を済ませ今度の休みはリヴァイの母親のお墓に挨拶をしに行く事になっている。彼女は今人生で幸せの登り坂を登り始めたばかり。要するに、彼女は今大いに浮かれているのだ。
「ほぅ、行って来いよ。それと俺にいちいち了解取らなくていいぞ」
「ありがとうございます。リヴァイさんもおかわり要ります?」
「あぁ、少し貰おうか」
「はーい」
笑顔のルリに聞かれ、欲しいと返事をしたリヴァイはワンプレートにルリがサラダを入れやすいように左手で少しだけ前に差し出す。
そのリヴァイの左手の薬指に指輪は見当たらない。仕事中は着けないし、そもそもまだ買っていないのだ。都合をつけて今度買いに行く予定だが、その時に彼女には今身につけているリングと重ね付け出来る物を贈りたいと思っている。
彼女が薬指につけているリングは実は普通のペアリング。「結婚指輪は絶対これがいい!」と彼女は気に入っているが、やっぱりちゃんとしたものを贈りたい。それから入籍のこととか、式のこととか、考えることは山程ある。
それよりも、この穏やかな朝の情景は「オイオイオイオイ、これはもう思いっきり新婚夫婦じゃねぇか」と、内心思っている。要するに、リヴァイも全く表情には出ていないが大いに浮かれていた。
「もうこんな時間か…」
「え〜、朝はあっという間ですね。。」
新婚疑似体験を堪能していたが、出勤する時間が来たため後ろ髪を引かれつつ玄関に向かう。もちろんリヴァイを見送る為にルリもパタパタとあとを着いてきた。
「ちなみにその飲み会、男も来るのか?」
「え?!え〜と…その…」
「来るんだな」
「は…はい、、」
靴を履いて振り返ったリヴァイの不意打ちの質問に、ルリの視線が思いっきり泳ぐ。別に都合が悪ければ適当に嘘を付けばいいものを彼女は本当に嘘が下手で、顔に「男友達も来ます」と思いっきり書いてあった。逆に解り易すぎて、よくここまで悪知恵をつけずに育ってきたなと感心する。
「別に駄目とは言わねぇが、そいつがあのカラネスで会ったクソ野郎と繋がってなければいい」
「そこは安心してください!みんなマーレに住んでる友人ですし、連絡は取ってないそうですから!」
「マーレ?」
そのワードにピクリとリヴァイの眉間に皺が刻まれる。
「そういやお前大学マーレだったな…」
「わわ、大丈夫ですよ!リヴァイさんが思ってるような根性のないクソ野郎なんて来ませんから!」
ルリが慌てて両手を振る。これまでに色々とあって、リヴァイとマーレの相性は水と油のように良くない。
「根性の無いクソ野郎ならまだしも性根の腐った髭面野郎が平気でのさばるような街だからな…どこでまた偶然会うか…」
「わーわーわー!考えすぎですよ!今回は駅の反対側の静かな所ですから会うわけありませんし!それよりリヴァイさんもう時間ですよ!遅刻しちゃいます!」
「あぁ…まぁあんまり束縛するのは俺も好きじゃねぇが…」
「?」
「酒は飲みすぎるな。終電前には戻ってこい。この2つだけは必ず守れ。分かったな?」
「は、はい。。」
二人共、ハンジの家での出来事が昨日のように脳裏に蘇える。「お前はハンジの家で前科があるだろう」と視線だけで投げかけてくるリヴァイに対しルリは猛省し、うさぎのように縮こまった。ちなみにハンジは会うたびにあれを未だに笑い話として蒸し返してくる。
「気をつけて行って来い」
そんなルリを見てあまり虐めても可愛そうだとリヴァイはくしゃくしゃと彼女の頭を撫でて「行ってくる」と下唇を喰むだけのちょっとエッチで皮肉ったらしいキスをして家を出ていった。
「カンパーイ!ルリおめでとー!」
「わ〜!みんなありがと〜!」
濡れた黄色いグラス達が目の前に門出を祝う花のように集まってそしてまた離れていった。訪れたところは駅の近くにあるリーズナブルな大衆居酒屋。マスターが元バーテンということもあり定番の生ビールから珍しいカクテルまで酒の種類が半端なく多い。それだけではなくちゃんと料理も美味しいので酒の弱いルリでもこの店は好きで何度か来たことがあった。
「ね〜ルリ〜指輪しっかり見せてよ〜」
「いいよ〜じゃーん!」
座敷席の真ん中に座るルリの隣で枝豆とビールがやけに様になっているピークに言われ、スチャッと顔の横にピンと指を伸ばして手の甲を見せる。
「すごいとこのじゃん!ルリ〜いい人と巡り会えてほんとによかったね!」
「素敵〜!」
「ルリ〜幸せになりなよ〜!」
「へへへ、みんなありがとう。」
思い思いに祝辞を述べる彼女達は元彼と別れた後「もう男の人は懲り懲り」宣言をした傷心のルリに付き合って旅行まで一緒に行ってくれた仲。本当に感謝しかない。
「お前ら、ちょっとそこ退け。」
出逢ったきっかけやらなんやらできゃっきゃっと話しに花を咲かせていると自分のグラスを目の前に置いて女友達の非難の声を押し退けオールバックの青年がルリの前に胡座をかいて座った。
「ルリ、お前マジで結婚するんだな。」
「はい!私結婚しまーす!」
「おいおい、大丈夫なのかよそんな軽いノリで…」
一杯でテンションの上がってしまったルリを機嫌が少し悪い青年は訝しげに見てため息をついた。
「何〜?ポッコったら未練たらし〜。いっそのこと俺にしといたほうがいいんじゃないかってこの前ベロベロに酔っぱらいながら…」
「え?」
「ピーク!お前急に何言い出すんだよ!?こここ、これでも飲んどけ!」
ポルコは慌ててルリの隣に座っているピークの前に頼んだばかりでまだ手を付けていなかった二杯目のビールを強引に押し付けた。
「はいはい。もう顔真っ赤だよ〜」
「てめぇ後で覚えとけよ…いや、今の話は冗談としてもだな、俺はお前が田舎から出てきて右も左も分からなかった所を見てきてるからだな…」
店員に「生一つ」ともう一度と頼み直し、コホンと咳払いするポルコは至って真面目だ。
「ポルコ心配してくれてるの?」
「当たり前だろ。お前は昔からそそっかしいところがあるからな。」
このポルコという青年。
たまたま入学式で隣の席となり、翌日ルリが駅で迷子になり半泣きになっていた所に偶然通りかかり助けてくれた心優しい青年だ。彼はルリが連絡先を知る数少ない男友達で学生時代は仲良くなったピークと三人でよくつるんで遊んでいた。
「ピークから少し聞いたが付き合ってまだ半年だって?それでもう結婚って早すぎだろ。相手は随分おっさんだって言うし。」
「全然おっさんじゃないよ!見た目すごく若いし!」
「見た目若くても中身おっさんなら立派なおっさんだろ。」
幸せ真っ只中のルリに水を差すような事をド正論で言ったため、「ポルコサイッテー!」と女性陣からのブーイングが上がっが、それを無視してポルコはなおもルリに畳み掛けてくる。
「そんな年上の男のどこがいいんだよ。どうせ遊びに飽きて落ち着きたいから結婚してくれってせがまれたんだろ。まだ婚約だけなら間に合うぞ、少しでも迷いがあるのなら絶対辞めたほうがいい。」
ずっと胸のうちに溜め込んできた事をここぞとばかりに喋るポルコも鼻を赤らめ速いペースでグビグビ酒を飲んでいる。こう見えてポルコは結構面倒見が良い。彼なりにルリの事を心配してのことだった。
「ポルコ…心配してくれてありがとう。でも私の方から結婚してって迫ったようなものだから別に後悔してないよ。」
「…は?!ちょちょちょ、ちょっと待て!お前からしてくれって言ったのか!?」
ポルコが口に含んだ酒を吹き出しそうになり、周りも驚きちょっとしたどよめきが起こった。
「あ、えと、言ってはないけど…そうしてもらったようなもので、、向こうも結婚は早いんじゃないかって心配してくれたけど私がしたいって言ったの。」
改めて言うと何だか恥ずかしくてもじもじしてしまう。リヴァイもまだあと2年は待たないとなんて言っていた。でもあの日の自分の決断に全く後悔はない。溶け合って一つになってしまえばいいのにとまで強く願った気持ちは今も同じだ。
「へぇ〜ルリやるじゃない。」
「えへへ。自分でもビックリしてる。」
「まじかよ…恋は盲目ってやつだな。」
「恋じゃなくてもう愛だから!」
感心したピークとは対象的に、ポルコは仏頂面を崩さない。勿論リヴァイと面識は無く、誰に言い寄られても靡かなかったルリがそれ程惚れ込んだ男の存在がまだ信じられないようだ。
「ポルコ疑いすぎだって!よし、私がリヴァイさんの魅力を説明しよう!」
「おお、してくれ。そのリヴァイとかいうおっさん婚約者の魅力を。それで俺を納得させてみろ。」
「何から話そっかな?まず…リヴァイさんはとっても綺麗好きで、紅茶が大好きで…ちょっと目つきと口は悪いけどとっても優しくて…」
「最初から矛盾してんな」
ルリが唇に指を這わせ惚気も入りつつ必死に説明しているのを、ポルコはテーブルに肘を付きながら終始胡散臭いと呆れ顔で聞いている。だが、ポルコの隣で聞いていたピークはルリの口下手な説明に興味を示し始めた。
「へぇ…どこの人なの?」
「ミットラスってとこ。」
「ゲホッゲホッ…は?!おま、それやべぇとこで有名なとこだぞ!絶対訳ありだ!」
「訳は…まぁ多少はあるけど…でも大丈夫。リヴァイさんもう足洗ってるから。」
「その表現完全アウトだろ…」
「アウトじゃない!ぎりセーフだよ!だって今は普通だもん!」
「今の説明で十分だ。絶対やめたほうがいい。そいつは潔癖のチンピラだ。」
酔い出しているのか、ルリの説明がド下手過ぎてポルコの疑惑は確信に変わってしまった。会えばきっと魅力が伝わるのに何だかもどかしい。
「リヴァイさんチンピラなんかじゃないよ!私の説明が下手だから魅力が伝わらないだけで、ポルコ会ったら絶対リヴァイさんの事好きになるよ!絶っっっ対!神に誓って!」
「まだ誓うのは早ぇだろ、、結婚は考え直せ。身のためだ。」
「おもしろい人経歴の人じゃない。もっと聞きたいわ。」
「ピーク!てめぇはどっちの味方なんだよ!」
〜数時間後〜
「誰だ…こんな飲ませやがったやつは」
店から少し歩いたところの歩道。
ちょうどその歩道沿いに駅の方からハザードを点滅させながら静かに車は停車した。その中から出てきた人物はルリが言っていた通り、目つきの悪い随分と夜が似合う男だった。
「…お前、どうしてこうなったか説明しろ」
「えっ、あの、…いつの間にかこうなってて…の、飲ませたって訳じゃなくて…(やべぇ…)」
ポルコは冬だというのにブルゾンの下のシャツの中に大量の汗をかいていた。
ルリが夢中になってしまったというおっさん婚約者が来たらまずは一言吠えてやろうと思っていた。ルリの事を本当に幸せにできる男なのか、自分の目で確かめてやるなんて思っていた。
なのにさっきルリから聞いた内容の先入観があるのか、背は低いが眉間に深く皺を刻み全身ブラックコーデの男の圧にしどろもどろにしか喋れない。
もしかして本物のヤ○ザ、またはそんな黒い繋がりがあるかもしれないなんて嫌な考えが過る。
「私の頼んだロングアイランドアイスティを自分の頼んだアイスティと間違えて飲んじゃったの。そしたらこの通り。」
「ロングアイランド?はぁ…そういう事か…」
怯むポルコの隣で縁石に腰掛けて座っていたピークは、リヴァイに臆することなく事情を説明した。
アイスティと名前はかわいいが、一滴も紅茶なんて入っていない強い酒。それを飲んで一気に記憶を飛ばしたルリを安易に想像できた。当の本人はというと、リヴァイに電話を寄越したと思われる今喋ったロングヘアの女性に膝枕されながら歩道の縁石のところでスーピー寝息を立てていた。
「お願いだからルリを責めないで、ちゃんと帰るつもりで時間も気にしてたわ。」
ピークはルリの髪を梳きながら感情の行き場を無くして何とも言えない表情をしているリヴァイに釈明した。
「さっき電話してきたのはあんたか?悪かったな、こんな時間まで付き合わせちまって」
「お安い御用よ。」
他の女子達は電車もあるし先に帰ってもらったという。ルリの為に彼女と、女だけでは危ないからとこの青臭ささが抜けない男も残ったのだろう。
なんとなくだが状況を把握したリヴァイはこんな寒空の中、長時間面倒を見てくれた彼女に礼を言いルリの前にしゃがみ込んだ。
「おい、ルリ、帰るぞ」
「ん~」
「ったく、手間取らせやがって」
この日の夕方、ルリは飲み会へ元気に出かけていった。リヴァイはそれを見送ったが正直気が気じゃなかった。ジークの件は未だに引きずっていないと言えば嘘になるし、マーレは自分にとって鬼門のような気がする。
落ち着かない気持ちを紛らわすためにがっつり筋トレし、掃除し、かなり久しぶりに一人で食事をした。時間の進みがいつもより何倍も遅かった。
やっと22時をまわり、パラディ方面に帰ってくるにはそろそろ電車に乗っていないと乗り継ぎで帰れない時間帯だ。なのに一向にルリからは飲み会が終わっただの、電車に乗っただの一報はない。マメに報告はしてくるタイプの彼女がしてこない…21時を過ぎぐらいから嫌な予感がし始めた。
痺れを切らして駅に迎えに行くために電車に乗ったのか確認しようとした時、電話が鳴った。やっとかと思いきや、声の主はルリではなくその友人だという。
「ルリが帰れなくなってしまったので迎えに来てほしい」
リヴァイは二つ返事で了承し、車のキーを取ったのだった。
「おい、起きろ」
「ん、やだ、さむい〜」
「馬鹿野郎、こんなとこに居るからさみいんだろうが」
「ここはあったかいもん」
一向に起きないルリはピークと名乗った付き添いの友人の膝枕が気に入ったのか、ぐりぐりと芋虫のようになって動こうとしない。
「ふふ、ルリったら私を枕か何かだと思ってるみたいね。」
「まったく、、おら」
「ふぇっ?!」
「わぉ」
ピークの驚きの声と共に膝に乗っかっていたルリが無重力に浮かぶ。話の進まない状態にしびれを切らしたリヴァイが実力行使に出たのだ。
「顔が急にさむい〜!」
「何が寒いだ、ちったぁ反省しろ」
「いたぁ!あれ?何でリヴァイさんが居るの?」
「迎えに来たんだろうが。帰るぞ」
リヴァイがしたのは女子が一度は憧れるお姫様抱っこ…ではなく機能性重視の俵抱き。未来の花嫁だからといって容赦はない。リヴァイはベシッとニットワンピース越しに尻を叩いて、タイツは履いているが裾が捲れないようについでにぐっと手で押さえた。
「おい!そんな抱き方してルリが可哀想だろうが!」
これから結婚する予定の女性をまさかの俵抱きにし、おまけに暴行を振るった(尻を軽く叩いただけだが)婚約者にポルコがもう我慢ならないと声を上げた。
「あ?」
「仮にこれから結婚する相手だろ!もっと大切にしろよ!」
「この抱き方が一番機能的だからだ。片手が空いて車に乗せやすい。それに約束を破って帰ってこなかったのはこいつだ。このぐらいの扱いされて当然だ」
「確かに。」
「ピーク!」
俵が一番機能的という台詞にピークは拳で手のひらを小槌のように打ち妙に納得したが、それでもポルコは納得いかない。
「とにかく、ルリを物みたいに扱うんじゃねぇよ!」
「あ?さっきから突っ掛かってきやがって何だてめぇ」
「あっ、あんたみたいな得体のしれない乱暴なおっさんと結婚してルリが幸せになれるか心配してんだよ!」
「ポッコ、もう辞めな。」
リヴァイの機嫌は最高潮に悪かったが、食ってかかる男の意表を突くような言葉に三白眼をはっきりとさせた。
得体のしれない…それはそうかも知れない。突然現れた何だか怪しい経歴の男が今みたいにひょいっと担ぎ上げて大切な友人を攫ってしまおうとしているのだから。
ピリッとした冬の空気が蔓延する。これから雪が降るかもしれないと思うくらい凍てつく寒さだった。
「しあわせだよ〜あははっ」
「あ?」「は?」
少し距離を保ち向かい合うポルコとリヴァイの更に後ろから雪解けの様な陽気な声が一気にあたりを冬から春にした。
「リヴァイさん見てっ!なんか面白いことになってる!地面が空になってる!」
「そりゃ俺がお前を担いでるからだ」
「へぇ~そうなんだ~!なんかおもしろ〜い!」
「馬鹿、暴れるな」
修羅場とは知らず酒を飲んで楽しくなってしまったルリは足をパタパタさせてはしゃぎ出した。リヴァイは起きたなら自分で立てと俵化していた彼女を下ろそうとするが、リヴァイの腰を何故か逆さで抱きしめたルリは一向に降りようとしない。
「あははっ!たのし〜!」
「ばっ、手入れんじゃねぇ!」
「リヴァイさんの腹筋あったか〜い!ビクビクしてて魚みた〜い!」
「どんな例えだ、おいマジでやめろ!冷てぇ!」
ルリがリヴァイの着ていた黒のタートルネックセーターの裾から手を入れてきたため冷たい触手と化したルリの手が見事な腹筋の上を氷が這うように滑る。
それに耐えかねて寒さに弱いリヴァイが変にビクついているものだから、それが面白くてルリが更に撫でくり回すわで通行人もこの二人は下手な大道芸の真似事をしてるのかと不思議そうに注目しながら通り過ぎていく。
「いいんじゃない二人、リヴァイさんだっけ?全然おじさんじゃないし。」
「ふん。俺はまだ認めねぇ。」
二人の様子を見てピークは満更でもなさそうに笑っているが、ポルコは腕を組み仏頂面のまま。自分はそう簡単に騙されないぞという面持ちだ。
「あははっ、あはっ…おえ…なんか、戻ってきそう…」
「オイオイオイ、ゲロ吐くんじゃねぇぞ」
逆さまに吊るされたまま振り子のように振り回されたため気分が悪くなったらしい。リヴァイはすぐさま助手席のドアを開け、ルリを座席に突っ込むと、シートベルトをかけポルコとピークに向き直った。
「お前ら家は同じ方向か?」
「いえ、反対よ。」
「もう終電ねぇだろ、これで足りるか?」
リヴァイは徐に財布を取り出し、中の札をピークに手渡そうとした。
「酔い醒ましに歩いて帰るわ。それにタクシーに乗ってもそんなにかからないわ。」
「距離は関係ねぇ、余ったら好きに使えばいい。こんな寒い中こいつの御守りしてくれた礼だ」
「まぁ…なら遠慮なく。」
ピークは少しわざとらしく目を丸くして、「ありがたく使わせてもらうわ」と臨時収入を笑顔で受け取った。
「え、いいんすか」
「てめぇは無ぇに決まってんだろ。野郎は酔いをさましながら帰れ。」
まさかの大人の大判ぶるまいに薄給の新人社員であるポルコが手を出したがリヴァイはそれを一蹴する。
「俺を得体の知れないおっさん呼ばわりした罰だ」
「…(根に持ってんじゃねぇかよ、、)」
冷たい外気を吸い込んで声を張り上げすっきりしたのか、わざと嘲るようなリヴァイの言い方にポルコは顔を思いっきり顰める。これが大人の余裕というものなのだろうか、見え透いたようなこの態度。やっぱりいけ好かない男だ。
「お前の名前、ポルコだったか?」
「ポルコ・ガリアード。急に何だよ。」
「今度俺とサシで飲むか?」
「はぁ?!」
まさかのリヴァイの提案にポルコは顎が外れてしまったみたいにあんぐり口を開いている。
「意味わかんねぇ…」
「お前、俺がルリと結婚するの気に食わねぇんだろ。どこぞの馬の骨ともわかんねぇ小せえおっさんが連れてこうとしてるって面だ」
「いや、小さいとは言ってないし。。」
ポルコのツッコミをリヴァイは何も触れずに続けた。
「ミットラスで飲むか?俺の連れが店やってんだ。どうだ?俺がルリを幸せにできる男なのか知りたくないか?」
リヴァイはまるで挑発するように腕を組みなんだか楽しそうにしている。そう、これは同僚の奇行種が最近よくやる方法の完全な受け売り。
お互い知らないなら話してみればいい――
今ならあの奇行種の気持ちが少しわかる。
リヴァイもマーレはクソ野郎しか居ないと思っていたが、この目の前の青年はそうでもない気がする。ならば一度話してみるかという気になったのだ。
「ぼったくりバーとかやめてくださいよ…」
「態度によるな」
「えぇ?!」
「冗談だ。で、どうすんだよ」
「い…きます」
「決まりだな」
ポルコは「この人冗談が冗談に聞こえねぇ…」とルリと全く同じ感想を抱きながら、運転席に座ってパワーウインドウを開けたリヴァイをピークと共に見送る。
「じゃあまた近いうちに連絡する。逃げるなよ、ポルコ・ガリアード」
「逃げねぇよ!」
「ルリ、バイバイ。また会いましょうね。」
「ん〜…んふ、んふふ」
「ったく、じゃあ二人共気をつけて帰れよ」
ピークが話しかけたが、ルリはまだリヴァイの腹筋を撫でている幻覚を見ているのかによによ笑っているだけで埒が明かない為、リヴァイは挨拶もそこそこに夜のマーレの街から車を発進させた。
「リヴァイさん素敵な人じゃな〜い。」
「現金な奴め。」
「ポッコ今度飲みに行って確かめてきなよ。それからもう一軒行く?貰ったお金で。」
「オイオイ…」
ルリは海の夢を見ていた。
海で浮き輪に乗りながらプカプカ海に浮いていたら、突然大きな波が来て大海原に放り出された。こんな状態なら絶体絶命。
もっと慌てなければならないが、なんだかとても楽しい。「のみ込まれる〜!」とケラケラ笑っていたら突然ひょいっと逞しい腕に担ぎ上げられた。
「わっ!リヴァイさん?!なんでこんなとこに居るの?!」
「てめぇを助ける為だろ!さっさと行くぞ!」
なんと目の前に現れたのはライフセーバーになったリヴァイではないか。いつもと違うこんがり日に焼けた健康的なリヴァイ。訓練しているリヴァイもカッコいいが、鍛え抜かれた身体を燦々と輝く太陽の下で惜しげもなく晒すリヴァイは、これはこれでまたカッコいい。
「リヴァイさん腹筋すご〜い!」
「馬鹿!くすぐったくて泳げねぇだろうが!」
「あははっ!なんか魚と一緒に泳いでるみたい!」
「何いってんだ!お前を助けるために人間になったってのに魚に戻っちまうだろうが!」
「え?」
ライフセーバーのリヴァイの体が変化して美しい人魚のような姿になってしまったところで奇想天外な夢から目が覚めた。
「起きたか?」
「え?あれ?海は?」
「海の夢をみてたのか。どうりで魚がどうのとか言ってたな、随分と楽しそうだった…まぁ今その話は関係ねぇか」
「わっ」
リヴァイは目を擦りながら起き上がろうとしたルリをもう一度ベッドに押し倒してよいしょと腹の上に跨った。
「リヴァイさん、ピークとポルコは?飲み会は?」
「とっくに終わった。今度は俺がポルコと飲むことになった」
「えぇ?!なんでポルコと?!」
飲み会の記憶を辿れば確かポルコはリヴァイの事を良くは思ってなかったはず…いつの間にそんなに仲良くなったんだろう?と頭の上に?がたくさん飛ぶ。
そんなルリを尻目にリヴァイは手に持っていたロープを握り直したためキュッと小動物が鳴いたような小気味いい音がした。
「リヴァイさんなんでそんなもの持ってるんです?」
「なんでだろうな、酔いが醒めてきた頭で考えみろ」
リヴァイの手には仕事でよく使っている銀色の縄。そんなものが何故家に?
リヴァイは白々しく喋りながらルリの両手を手に取ると、ひょいっと彼女の頭上に纏め上げてあっという間に仕事でも使う複雑な結び方で結い上げてしまった。
「えぇ?なんで縛るんです?」
「思い出せねぇ位飲んじっまったのか?それはいけねぇな、約束が違う」
そしてリヴァイは「ちなみにこの縄は自主練用に持って帰ってきてた」とだけ教えてくれた。だが、今問題なのは何故本来の用途でそれを使っていないかだ。
ルリは必死に起きたばかりの頭を回転させる。そして、リヴァイとの約束とたった数時間前のある出来事に辿り着いた。
「リ、リヴァイさん、あの…」
「思い出したか」
「ちゃんと帰ろうと思ってたんです!それで、最後にアイスティ飲んだら、何故か記憶が飛びまして…」
「あぁ、そうらしいな。お前が間違えて飲んだのはアイスティじゃなくて馬鹿見てぇに強え酒だ。だが結果は変わらねぇ。俺はお前を信じて快く送り出したってのにお前は帰ってこなくて俺がどんだけ気を揉んだか…」
「ご、ごめんなさい!次から気をつけますから、絶っ対間違えませんし寝ませんから!」
ルリは自分に覆いかさるリヴァイの目が据わってしまっている事に気がつく。ザ・悪人面。ポルコも心配するのがわかる。
「ルリ…お前はどうやっても酒に弱い。だから俺なりに色々考えてある対策を思いついた」
「と言いますと…」
「酒に強くはさせられねぇが、せめてどんな事でも記憶飛ばねぇような身体に躾てやるよ」
「うわーん!その方法絶対おかしい!」
その後、ルリは酒を飲むときは細心の注意を払い失敗をすることはなくなったのだった。
おしまい
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