Fire番外編
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「おはようございま~す。リヴァイさん起きるの早いですね。」
「体質だ。それに夜に何度も起きることは慣れてる。飯の前に顔洗ってこい」
「は~い。」
今日も暑くなりそうな、晴れやかな休日の朝。Tシャツにショートパンツ、長い髪に寝癖がついたルリが目を擦りながらもぞもぞと起きてきた。数週間前に晴れて付き合う事になった二人、今日は金曜日の夜から会いその流れでルリの家にリヴァイは泊まったのだ。
「リヴァイさん今日はお休みですか?」
「いや、午後から本部で研修があるから飯食ったら一旦帰る」
「そうなんですね〜…」
ルリはテレビの前のローテーブルに並べられた朝食に手をつけながら少し残念そうにする。この前は会う直前に召集がかかりデートの約束が流れてしまった。頻繁にある訳ではないが、この先このような事がなくなることはないだろう。
「あっ!」
「どうした?」
モシャモシャとうつむき加減でサニーレタスを食べていたルリが、付けていたテレビに向かって大きな声を出す。
「私今日の占い1位です!やった~!ラッキーアイテムは…バナナ!じゃあバナナ柄の靴下履いてバナナ買いに行こっ!」
「お前そんな柄の靴下持ってのんか」
「園長がこの前台湾旅行のお土産にみんなに買ってきてくれたんです!靴下は消耗激しいですから保育士の間では定番のお土産です!」
「あのとにかく明るいばあさんか…成程な」
リヴァイも隣の職場なので園長の事は認識しているらしく、「あのばあさんなら買いそうだな」と妙に納得している。ルリはというと保育士あるあるを喋りながら、リヴァイと予定が合わなかった事にしょげ気味だったが自分の星座が1位で気を良くしたのか機嫌はすっかりなおっていた。女は占いが好きだと言うが、ルリの場合は信じる信じないの前にちょっとしたゲーム感覚らしい。
彼女の明るさには甘んじてはいけないが、どこにも連れていってやれない男の身としては救われるところがある。
リヴァイもそんな彼女につられてテレビに視線を向けた。その時だった。
「オイオイオイオイ待て待て待て待て」
「どうしたんですか?もしかしてリヴァイさん最下位!?」
「おま…1位って…」
今度はソファーで脚を組みながら優雅に紅茶を飲んでいたリヴァイが体を前のめりにして大きな声を出す。危うくカップを落としてしまいそうな勢いでテレビを凝視している彼に、らしくないとルリは首をかしげた。
「リヴァイさん?」
「ルリ…まさかとは思うがお前…最近誕生日だったか?」
「え、あ〜、…ハイ。。」
言葉に言い表せないような表情で尋ねてきたリヴァイにルリは彼の言わんとした事が分かったようで目を泳がせている。
「早く言えよ…」
「あはは、すみません。。」
1位の星座は今日を含めてあと3日ほど期間があったが、嫌な予感は的中するものでなんとルリの誕生日は付き合って一週間後に訪れていた。当たり前だがもうとっくに過ぎている。
「だってわざわざ私誕生日で〜す!って言わなくてもいいかなと…」
「そこは言え。はっきりと主張しろ」
「はい…。。」
ルリはリヴァイがこれ程誕生日に過敏に反応するとは思わなかったらしく、言わなかった事で逆に気まずくなってしまったと頬を人差し指でポリポリ掻いている。
(マジかよ…)
リヴァイからすればやたら記念日を作りたがり、自ら誕生日をアピールして物をねだってくるのが女であり、ルリは違う人種に見えた。会話の流れで近いうちに知ることになると思っていたが、まさかこんな展開になるとは…
「それで…いくつになったんだ」
「23になりました!」
「若ぇな…おめでとう」
「ありがとうございます!ちなみにリヴァイさんは誕生日いつですか?それと気になってたんですけどリヴァイさん歳いくつなんですか?あ、待ってください!私が当てます!」
「あ?」
ルリはリヴァイのバースデー事情に興味津々らしく、自分のことそっちのけで畳み掛けるように聞いてくる。
「ん〜あの訓練の凄さといい、入職して何年か経ってますよね…26?いや、27だ!リヴァイさんはスバリ27歳です!」
「違ぇよ(俺は20代に見えてるのか…)」
突如年齢当てクイズが始まり、実年齢よりかなり若い数字を言われてしまったせいでお前と10違うとは言いづらくなった。
「今は教えねぇ」
「えー!なんでですか?教えて下さいよ!」
「俺の誕生日が終わってから教える。これでチャラだ」
「言わなかったことめちゃくちゃ根に持ってるじゃないですか!」
珍しく変な意地をはっているリヴァイが相当面白かったらしく、クスクスと笑いながらルリはリヴァイが作ったベーコンエッグを美味しそうに食べている。それを見ていると余計無欲な彼女に何もしてあげられなかった事にチクリと胸が傷む。
「そろそろ出る」
「はーい。」
紅茶を飲み干してソファーから立ち上がる。一旦トロストの自宅に帰るため、そろそろルリの家を出なければならない。
「頑張って下さいね!いってらっしゃ〜い!」
今日の予定は特にないというルリに元気よく見送られ、彼女のアパートを後にする。
(……これで良かったのか?)
ポケットに手をつっこみながら駅に向かう道中で考えを巡らす。途中、すれ違った通行人がリヴァイの鬼の形相を見て道を開けた。
元気に見送ってくれたルリは今どんな気持ちなのだろう?まだ付き合ったばかりでイマイチ彼女の本心が読み取れない。倦怠期にも程遠く、せっかく二人で盛り上がれるイベントをうっかり見過ごした後味の悪さ。
そんな事より今頃、必死に明るく取り繕っていた笑顔を辞めてため息をついていないだろうか?
(俺は今、大切な日をすっぽかしたクソ野郎なんじゃねぇか?)
厳密に言えばすっぽかしたではなく知らなかったが、もっと早く行動を起こせば結果は変わっていたかもしれない。しかもルリの誕生日はリヴァイが非番の日。会いに行こうと思えば行けた。
(…クソ)
リヴァイの中で虚しさがボディーブローのようにじわじわと効いてきた。
▽
「やほー!どうしたの?」
「…あ?」
「いつも以上に顔が…リヴァイもしかしてコーヒー飲んでる?」
リヴァイはなんとか自宅まで帰り、研修を受けるべく職場まで来ていた。ここは前まで勤務していた古巣のため知った顔が多い。
今元気に話かけてきた眼鏡の女性は前年度までの同僚。彼女は火の揺らめきを見ると興奮してしまうというヤバめの性癖の持ち主でこの職場に入らなければおそらく放火魔になっていたであろう物騒な輩だ。愛称は奇行種、またはクソメガネ。
「リヴァイ、新しい女が出来ただろう」
「あ?」
いつの間にか後ろから匂いを嗅がれていた。ミケだ。彼は鼻がよく、かなり遠くからでも煙の匂いを感じることができる。なぜだかわからないが同僚には変人が多い。今の金髪碧眼のイケメンで有名な上司も含めて。
「この前会議でエルヴィンと久しぶりにあったんだけどさ、リヴァイに彼女が出来たかもって言っててさぁ!ミケの鼻が証拠だね!あ、いいこと思いついた!研修終わったら飲みに行こうよ〜。そこんところ詳しく!」
「俺は今それどころじゃねぇ。飲みにも行かねぇし今日はもう話しかけんじゃねぇ」
「え〜なにそれ付き合い悪〜」
▽
「とりあえず生3つ!」
「はいよ!おっ懐かしい顔ぶれじゃねぇか!エルヴィンさんは?」
「誘ったんだけど今日は会合で来れなくてさぁ〜。」
「そりゃ上の方は大変だね、はい生3つ!」
「それでは再会を祝して乾杯〜!」
結局研修後、リヴァイは二人に捕まって職場の近くのハンネスが営む居酒屋に来ていた。
「ゲルガーは反対班だから来れないんだよね。飲めるバカが居ないと寂しいよ。ミケはナナバと上手くやってるのかい?」
「あいつは今広報で日勤だからな。同棲してからだいぶ二人の時間が持てるようになった。」
基本24時間交代の業務は反対班になると全くと休みが合わなくなる。現場を離れた課であればナナバのように日勤も可能で暦通りの休日を楽しめる。
「で、どうなの?」
「あ?」
「あなたの事だよ!どんな女性なのさ?」
「普通の奴だ」
「何それ!もっとのろけろよ!」
「チッ、飛んだぞ。相変わらず汚ねぇな」
生ビールを早々に飲み終えたハンジがでかい声を出したせいでテーブルに唾が飛び散った。それをリヴァイがおしぼりで拭き取る。本人に言っても直らないし、このやり取りはもう何百回とやっている。
「同業なのか?」
「違ぇ。週休2日だ」
「じゃあ休みなかなか合わないね、可哀想ー。」
「1ミリも思ってねぇだろ」
感情の籠もっていないわかり易い棒読み。休日問題は誰しも経験する事なので同情は一切ない。さらにハンジとミケの質問攻めは続く。
「さっきはどうしたのさ、喧嘩したとか?」
「うるせぇな、放っとけ」
「放っておけないさ!ミケの鼻が反応したってことは午前中も会ってたんでしょ?リヴァイが他人の匂い気にしないの初めてじゃない?いっつもとっかえひっかえだったし」
「まるで花の香りのようなほのかに甘く、ずっと嗅いでいたいと思える匂いだった。」
「匂いの分析をするな。それに人聞きの悪い言い方するんじゃねぇ、勝手に寄ってくるから断るのが面倒だっただけだ」
「何そのモテ自慢!」
リヴァイははぁと短くため息をつく。今日は帰れそうにない。
「ギャハハ!誕生日すっぽかしちゃってへこんでたの?仲良しこよしの女子かよ!」
「意外にそういうこと気にするんだな。」
ハンジが机を叩いて笑い転げている。ミケもなにげに驚いていた。
「いやぁ〜笑った笑った。謙虚でいいこじゃないか、是非今度会わせてよ!」
「断る。奇行が移る」
「プレゼントうんぬんとかじゃなくてさ、リヴァイと一緒にいれればそれで満足なんだよ。いやぁ〜まさかリヴァイがここまでロマンチストクソ野郎だったとは!」
「てめぇに言われたくねぇ」
「アハハ、でも私の方がリヴァイより上手くいってるよ!」
「は?お前を手懐けれる男が居る訳ねぇだろ。そいつも相当な変態野郎だな」
「ハイハイ、悪いけど店じまいの時間だ。お開きにしてくんねぇか?」
リヴァイとハンジの不毛な言い争いに入り口ののれんを外して店に入ってきたハンネスが終止符を打つ。ハンネス一人で切り盛りしているので閉店時間が他の店より早い。
「ミケの家で飲み直そ〜!ナナバも流石に帰ってきてるでしょ」
「おそらくな。リヴァイはどうする?」
「俺は帰る。どうせナナバに同じ話すんだろ」
「あたり前じゃん!はぁ〜エルヴィンにも報告しなきゃ!じゃあねリヴァイ!彼女大事にしなよ!今度埋め合わせに薔薇の花束100本ぐらい贈ったら?ギャハハ」
「メガネ割るぞ」
久しぶりに会ったクソメガネは相変わらずクソなメガネのままで人を苛つかせる天才だった。まぁ頼り甲斐があっていい所もそれなりにあるがそれは仕事のときだけだ。
リヴァイは悪態をつきながらハンジとミケと別れ一人駅の方向へ歩いていく。狭い会社、きっと噂が立つ。それを考えると自然と口からため息が漏れた。
「?」
スーツのポケットが震えた気がして、何気なくスマホを取り出すと、ルリからLINEが入っていた。
『研修お疲れ様です!今日バナナ買ったレシートで商店街の福引したらななななんと!流しそうめん機当たりました!ミラクルラッキーバナナのおかげです!』
激しく動く目付きの悪い黒猫のスタンプと一緒に写真が送られてきた。まさかこんなものを当ててくるとは…。
「…なんだこれ」
これはラッキーなのか?正直、全く必要性を感じない。水が飛び散りそうだし潔癖なリヴァイとしては流さず普通に食べたい。流せば流す程そうめんに菌を触れさせる危険性が増すような気がする。というより彼女がこの時間起きていることが珍しい。無性に声が聞きたくなって、LINEの無料通話ボタンを押す。1.5コール目でルリが出た。
「もしも~し!」
「出るの早ぇな。今少し話せるか?」
「はい、大丈夫ですよ!あれっ今外です?」
「あぁ。今まで同僚と飲んでいた。見たぞ、写真」
「あ、見てくれました?私前から欲しかったんですよ~!リヴァイさんとやったら絶対楽しいなって思って!今度一緒にやりませんか?」
組み立てに手こずったが俺にどうしても見せたくて二時間も格闘していたらしい。そうめんも色つきのやつ流したらきっと可愛いですよ~とルリが楽しそうに話す。普段園児を相手にしているからかルリは好奇心旺盛で明るい。ついさっきまで全くやりたくなかったが、こいつのプレゼンが上手いのか少し興味が湧いてきた。
「わかった。今度の木曜日の夜でも構わないか?それと、夏季休暇もう取得したか?」
「木曜日ですね、わかりました!夏季休暇まだ申請すらしてないです。」
「お前がよければだが、旅行でも行くか?まだ誕生日何もしてやれてねぇからな」
「えー!いいんですか?!すっごい嬉しいです~私旅行大好きなんですよ~!」
ルリのテンションの上がりようが凄い。
LINEのアイコンや普段の会話から何となく彼女が旅行好きなことは気づいていた。嬉しそうな声につられてリヴァイも目を細める。
「どっか行きてぇとこあるか」
「そうですねぇ〜ゆっくりできて〜美味しいご飯食べて〜温泉も〜…」
「一緒に入りながら?」
「そうそう一緒に〜…てっ!?一緒には入りませんよ!」
ルリの声が急に眠気で微睡み出したので、もしや?と思ったがリヴァイに都合の良い言質はとれなかった。
「冗談だ。何ヵ所かピックアップしとく、行きてぇとこあったら言えよ。もう眠てぇんだろ?」
「はい、実は。。」
「悪かったなこんな遅くに電話して。じゃあ…」
「あっ!待って下さい…もう少し、お話ししましょ?」
「毎日ガキのお守りで疲れてんだろ。でけぇおもちゃこんな時間まで必死に作りやがって」
「ふふっ大丈夫ですよ、明日もおやすみですし。リヴァイさんこれ見たらびっくりするかな~って思ったら楽しくなっちゃって…リヴァイさんは明日おやすみですか?」
「…いや、明日は朝から仕事だ」
こんなやりとりを今朝もした気がする。
「おやすみ合いませんね、…ふふっ」
「笑うところじゃねぇだろ」
「…会えない分、会ったときの喜びが大きくなるじゃないですか。木曜日すごく楽しみです…」
「…俺も楽しみだ」
ルリはとうとう睡魔に負けたらしく、何度か呼び掛けたが無言のまま通話が続いたためリヴァイの方から通話を終了した。
一緒に過ごせるだけでいい…ハンジが言っていた通りルリからはその感情がひしひしと伝わってくる。彼女が生まれた特別な日はハプニングにより過ぎ去ってしまったが、いつも会うことを楽しみにしていてくれるルリを思いっきり甘やかしてやりたい。リヴァイの胸をそんな暖かい感情が満たしていった。
つづく