Fire番外編
name change
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
今年も順調に梅雨明けし、鬱陶しかった湿った空から一転、各地で連日猛暑日が記録され夏本番を迎えていた。
シガンシナ保育園でも待ちに待ったプールが始まり子供たちの水遊びではしゃぐ声が響く。その声は自然と隣のシガンシナ消防署にも届いていた。
「くちく!くちく!」
「っつめてぇ!おい、ガキ共顔にかけんじゃねぇ!目に入っただ…ガリッ!」
「あ、したかんだ。」
「こら!二人ともやめなさい!!」
保育園と消防署を隔てるフェンス越しにエレンとジャンがオルオに向かって水をかけていた。ジャンは水鉄砲のためあまり威力はないが、よく見るとエレンはホースのストレート機能を使っている。しかも中々コントロールがいい。あれで顔面にかけれたらかなり痛いだろう。
「エレン!ホース勝手に使っちゃダメでしょ!?それに二人とも顔に向けるのもダメだって!す、すみません大丈夫でしたか?」
「お、おぅ。あんた、俺の女房気取るには気が早ぇよ。それに俺にはぺトラという女が…」
「えっ?女房?」
「ちょっとオルオ!気持ち悪いこと言ってんじゃないわよヘタレのくせに!」
「ぐふぅ!」
「いけ~!ペトラ先生!くちくしちまえ~!」
「ペトラ!?」
ペトラがバズーカ砲のような大型の水鉄砲でオルオの顔面めがけて水を放つ。集まってきた園児達は大はしゃぎで収集不能だ。そりゃ保育士がやってれば真似するよなとルリが悟り始めたところで聞き慣れた声がした。
「オルオ、てめぇはいつから火消しの的になったんだ」
防火服に身を包んだリヴァイが脱いだヘルメットを脇に持ち立っていた。訓練後なのだろう酸素ボンベを背負い、防毒マスクを首元に下げて珍しく汗だくである。髪からも汗が滴り、少し開いた防火服の隙間から首から胸元へ流れ伝う汗が光る。
なんだこのセクシー消防士は…
対照的にモジモジくんのように全身黒のラッシュガードで覆う己の色気のなさが際立っている。
「「リヴァイさん!!」」
リヴァイを見つけた園児たちは嬉しそうにしている。オルオには塩対応なので子供でも上下関係というものがわかるのだなと変に感心してしまう。
ふと気がつくとリヴァイと目が合った。
「お水かけましょうか、顔に。」
「ルリ、お前も俺に言うようになったな」
「ふふっ、暑いのに訓練大変ですね。」
「大したことねぇよ、暑さにはもう身体が慣れた。お前もガキ共も熱中症には気をつけろよ」
「はい。」
リヴァイは口元を少し緩めるとオルオに次の訓練の指示をしながら去っていった。このフェンスがなければいつものように頭をポンポンと撫でてくれたのかななどと考えてルリも口元が緩む。
「ルリの彼氏ってリヴァイさんでしょ。」
「はえっ?!」
突然ペトラから特大のバズーカ砲が降ってきた。
彼女には彼氏欲しいと建前でも言っていたため、リヴァイと付き合うことになって少し経った頃彼氏ができたと一応報告していた。隣の職場のリヴァイが相手とは流石に恥ずかしいため言えなかったのだがバレバレだったみたいだ。
「よくわかったね。」
「そりゃわかるわよ、今の親密な感じを見ればさ。女王様の予言は当たったわね〜。」
ペトラが面白そうに言う。七夕の頃からクリスタには何かとリヴァイの事を聞かれていた。4歳児に見抜かれるとは何だか情けない。
「夏はどこか遊びに行くの?」
「あ~、まだなにも決めてないかな…」
「ホテルのナイトプールは?この前友達と行ったけど雰囲気良かったしカップルも結構多かったよ〜」
写真撮ってる人ばっかだったけどねとペトラは続けた。
(オルオさんとは行かなかったんだな)
ペトラからオルオの話題は毎日のように上がるため少し気になったが、聞かない方が良さそうな気がしてやめておいた。
忙しい日々にかまけて何も考えていなかった。
リヴァイと初めて過ごす夏。何かいい思い出をつくりたい。
*
「エルド、お前この夏彼女とどっか行ったか?」
「そうですね…先週ナイトプール行きましたよ(主任、彼女出来たんだな…)」
「ほぅ」
「彼女が行きたい行きたいってうるさくて。映えスポットってやつですね。プールに入ってるだけでやる事ないっすけど、まぁ雰囲気も出て結構良かったですよ。」
「…ナイトプールか」
訓練後の更衣室。
珍しく部下のプライベートを聞いてくる上司にエルドはピンときたが、なにやら真剣に考えているリヴァイの顔を見てそれ以上聞くのはまたにしようと着替えを続けた。
隣のシガンシナ保育園でもプール開きをしたようで水着姿のルリをたまに見かけるようになった。
水着と言っても全身ラッシュガードに覆われており当たり前だが肌の露出はない。
肌が見えないのもまた奥ゆかしくて妄想を掻き立てられるところはあるが、欲を言えば「こけし」に代わってしまった水着を見たい。
「しかも大体のカップルはいちゃついてましたからね。」
エルドが笑いながら続ける。
「そりゃ結構なことじゃねぇか」
リヴァイはナイトプールでいちゃつく自分とルリを想像してみる。
(…あいつは絶対しねぇだろうな)
休日が合わないリヴァイとルリ。だが、季節感のある思い出を作りたいものだ。
夏の風物詩と言えば最初に思い付いたのは花火大会だったが、万が一何かあったときのために花火大会の日は必ず出勤日とされている。今まで特に気にしていなかったが、今回ばかりはこの仕事を恨めしいと思った。
その点夜から出かけられるナイトプールは好都合だ。
(誘ってみるか…)
*
「すげぇ人だなおい。」
「まぁ、夏のレジャーなんてみんな考えることは一緒ですよね!」
若干引き気味のリヴァイとは対照的にルリはどこか楽しそうだ。
結局リヴァイとルリはナイトプールではなく大勢の人が賑わうレジャープールへ来ていた。
なぜかというと、リヴァイが誘うよりも先にルリからプールへの誘いがあったから。ナイトプールと二人で迷ったが、太陽の下で遊ばないと夏を感じられないというルリの主張でレジャープールとなったのだ。
「じゃあ着替え終わったらここで集合でもいいですか?」
「わかった。お前もう水着着てんのか?」
「はい!なのでそんなに時間かかりませんよ。」
着替えて来るのは基本中の基本です!とルリは笑顔で続ける。
シフォン素材のミモレ丈ワンピースの下には下着ではなく水着を着ている…想像するだけで期待値がグングン上がる
*
「遅えじゃねぇか」
先ほどルリと別れた場所で腕組みをしながらぼそりと呟く。全くこの場に馴染んでいないリヴァイの声は、行き交う家族連れやカップル達の楽しそうな会話に掻き消されていく。
かなり待っている訳でもないが、着替えてきていると言う割には遅い。
更衣室が混雑しているのか…
何かあったのか…
痺れを切らしてリヴァイがスマホを手にとろうとした時、更衣室とは逆方向に見慣れたポニーテールを見つけた。
「ねぇ、君ひとり?」
「私?」
「ほら言っただろ?顔も結構可愛いって!」
「?」
「君すっごいスタイルいいね!もしかしてモデルとかやってる?俺等と一緒に遊ぼうよ!」
声をかけられた方へ顔を向けると同い年位の男二人が立っていた。
「(ナンパ…)あ~すみません、私今日彼氏と来てるので…。」
「でもさっきから見てたけど一人で彼氏っぽい人なんて居ないじゃん。ホントは女友達と来てるんでしょ?その子も一緒に遊ぼうよ。」
「いや、あの…」
ルリはナンパされていた。しかも彼氏と来ていると事実を言っているのに信じてもらえない面倒なパターンのやつである。
体型をほめるだけあって男達から頭の先から爪先まで舐めるようにジロジロと視られる。しかも最初の会話からして後ろ姿から品定めされていたらしく気分が悪い。
(やだな…)
人を見た目であれこれ判断する人は苦手だ。早くリヴァイと待ち合わせした場所に戻りたい。
「あの、じゃあ彼をまたせてるので…」
「待って待って!ほんとに男なの?俺らも途中まで一緒に行っていい?」
「え?ちょっ…」
「おい、糞ガキ共。てめぇら誰の女に声かけてんだ」
「リヴァイさん!」
「うわっ!す、すみません!」
ナンパ男達は腕組みした物凄い形相のリヴァイを見ると逃げるように去っていった。
「…どこ行ってたんだ」
「リヴァイさんまだだったんで先に浮き輪に空気入れに行ってまし、た、、」
リヴァイの迫力でルリの声が尻すぼみに小さくなる。
深緑のラッシュガードを着ているが、開け放たれている前部分から見事な腹筋と胸筋が覗く。
おまけに眉間に深く刻まれた皺と鬼のような形相から「ラッシュガードで入れ墨を隠してお忍びで来たヤ◯ザ」という設定がしっくりきてしまう。
ルリはリヴァイを見てナンパ男達が一目散に逃げていく理由がわかった。
「リヴァイさんそんなに怒らないでくださいよ!」
「あ?怒ってねぇ。空気入れに行くぐらい俺がやる。ったくお前は自覚がねぇくせにちょこちょこ動き回りやがって…ほら行くぞ」
リヴァイはそう言うとルリが持っていた浮き輪を肩に担ぐと反対の手でルリの手をとり歩き出した。絡めるように繋いだ手にきゅっと力を込められる。
さりげない優しさにこの人のギャップには敵わないなぁと頬が桜色に染まった。
「リヴァイさん、今日はいっぱい楽しみましょうね。」
「当たり前だ。休日必死に合わせたんだからな」
*
とりあえず中央にある流れるプールに入りに行く。
二人で歩いているとすれ違う男達の視線がルリに注がれていることに嫌でも気付く。着いた頃にはリヴァイは再度眉間にシワを寄せていた。
「チッ」
「どうかしました?」
立ち止まりリヴァイはルリに向き直る。
ルリはシンプルな黒のバンドゥビキニ。
肩ヒモがないため美しいデコルテが惜しげもなく晒されており、乳白色の肌に引き締まったくびれと胸の下からへその上まで薄っすらと浮かび上がる腹筋の線を思わず指で撫で上げたくなる。
ベッドの上では電気を消せといつもうるさい為、服の下の肌をはっきりと見るのはリヴァイも初めだ。
(オイオイ、完全にグラビアじゃねぇか…)
「…?水着似合ってなかったです?」
「いや、悪くねぇ。だがもう十分だ」
「?」
今年は大人っぽく黒にしました〜と笑顔のルリにリヴァイはバサッと自分が着ていたラッシュガードをかけた。
「着ておけ。日焼けするぞ」
「大丈夫ですよ。日焼け止めバッチリ塗りましたし。」
「とにかく今は着ろ」
「は、はい。」
有無を言わさぬリヴァイの圧に負けてルリはそそくさとラッシュガードを着た。
「じゃあ、入りますか!」
「あぁ」
二人とも人が少ないところを探してプールサイドに近づく。
「わっ、結構冷たいですよ!」
「おい、かけんな。先に入れ」
「はーい」
既にはしゃいでいるルリが先に入り、続いてリヴァイも腰辺りまで水位がある蛇行するプールに入った。
ちゃぷちゃぷと音を立てて波立つ水は、太陽の光に反射して「冷たくてきもちいですね」と嬉しそうに浮き輪に掴まっているルリの胸元にマーブルの光の輪を幾重にも作る。彼女の白く健康的な肌にとても映えていた。
「リヴァイさんも一緒に入りましょ〜」
「あ?もう入っただろ」
少し水の流れに乗って漂った後、ルリが唐突にリヴァイを誘った。
「浮き輪ですよ〜!これ二人用なんで余裕ですよ?」
「オイオイ待て待て、、俺にこれ入れってのか?」
「はい!水の中歩いてると疲れません?」
ルリが持ってきていた浮き輪はド派手なピンク色のフラミンゴを模したものである。大きいと思ったがてっきりルリ一人で使うと思っていた。
「馬鹿野郎。おっさんがこんなん入ってたら気持ち悪いだろうが」
「リヴァイさん全然おじさんじゃないじゃないですか!入りましょうよ〜プカプカ浮いて気持ちいいですよ?」
「…(そういやぁこいつ俺の歳知らなかったな…)」
困惑するリヴァイとは対照的にルリは日の光を浴びてプールで開放的になったのかいつもより大胆だ。
「えい!」
「っ!?おい!」
「ふふっ、じゃあ私がリヴァイさんの浮き輪になりますよ。」
浮き輪に捕まったままのルリがリヴァイの腰を両脚を使ってホールドしてきた。普段園児相手に走り回っているだけあって、カモシカのような美脚は見かけによらず筋肉質で力強い。
今日は完全にルリのペースだ。
「てめぇ、調子乗りやがって」
「いいじゃないですか〜水の中で見えないですもん。」
いたずらっぽく目を細めて笑うルリ。水で濡れた後れ毛や肌が太陽の光を集めて彼女の魅力を倍増させている。リヴァイはまた一つ彼女の魅力に気付きナイトプールではなく明るいプールに来てよかったと心底思った…
が、おそらく彼女は今、普段やられっぱなしのため驚くリヴァイを見て面白ろがっている。彼女も見かけによらず随分と負けず嫌いだ。
そしてリヴァイ自身もやられっぱなしは性に合わない。
「いい加減にしろよ」
「っ?!きゃあ!」
リヴァイが突然ルリの尻を鷲掴み、そのまま強めにもみしだく。
「ちょっ!やだっ、リヴァイさん、こんなとこでやめてください!」
「あ?水ん中で見えねぇなら何したっていいんだろ?」
「何してもいいなんて言ってないですよ!」
慌てるルリがリヴァイの腰から脚を離すも今度はリヴァイがルリの腰を器用に腕でホールドし身動きがとれない。更にエスカレートしそのまま両手を水着の中に入れ直に尻を揉んでくる。
「リ、リヴァイさんっ!やり過ぎですってば!」
「先にはしたねぇ脚で仕掛けてきたのはお前だろ?やるならちゃんとやれよ」
リヴァイの報復は止まらない。
耳元で囁きながら、ベッドの中のようにぐにぐにと尻を揉んで耳たぶを囓る。周りからはただの耳打ちしている大人同士という体をしっかり装って。
「あ、も、ダメですっ」
「ったく、昼間っからエロい顔しやがって何してんだ。ここは公共の場だぞ」
「ふぇ…ごめんなさい。」
耳元でその不敵な笑みと無駄に色気のある低音ボイスで言われてしまえばもはや何も言えない。ルリの進撃は一瞬で終わったのだった。
*
「軽く腹に入れるか?」
「そういえばお腹空きましたね。」
「お前はここで休憩してろ。適当に何か買ってくる」
「すみません、ありがとうございます。」
スライダーなど施設のほとんどを遊び終え時刻は既に14時を回っていた。ずっと遊びっぱなしだったため普段園児相手に体力には自信があったルリだがさすがに少し疲れた。
パラソルが並ぶ休憩スペースのビーチチェアに腰掛け両膝を抱え頬杖を付く。休憩スペースは少し階段を登ったところにあるため施設内の様子がよく見えた。
フードスペースに歩いていくリヴァイの背中を眺める。小柄だが身体の作りが本当にバランスがいい。気づかなかったが背中も筋肉が複雑についており見事としか言いようがない。リヴァイのような完璧な人が自分の彼氏とたまに信じられなくなる。
(まぁたまにSっ気が出るけど。)
ふふっとルリは思い出し笑いをしていると、
「ん?」
ある事に気がついた。
リヴァイの前を開けるように人々が割れていく…気がする。しかも女性からの熱い視線もあれば男性陣からの羨望の眼差しも混ざっている…気がする。
いつも隣に居るときは気づかなかったが、こうして俯瞰して見るとリヴァイはとても目立っていた。
「あ」
若い二人組の女性がリヴァイに話しかけている。遠目から見てもスタイルもよく綺麗な女性がリヴァイの腕に自分の腕を絡ませボディタッチをしているではないか。
リヴァイと少し会話した後、女性達は離れて行ったが何だか嬉しそうだ。きっとリヴァイのことだ、スマートに断ったのだろう。
(…なにあれ、、)
ルリの中でチリッと嫉妬の炎が燃え上がる。
もともと裏表のない真っ直ぐな性格だがこんなに妬みの感情に支配されるのは初めてだ。
「っ!?」
女性達が去っていったかと思うと今度は男性から声をかけられている。
男同士で一緒に遊ぼう…と言うのとなのだろうか、、
リヴァイは腕組みしてなにか警戒しているようだ。
(豚野郎に狙われているのはあなたですよ!リヴァイさん!)
いてもたってもいられずルリは勢いよく立ち上がるとリヴァイの元へかけていった。
「リヴァイさんっ!」
「ルリ?待ってろって言っただ…
「これ着てください!」
リヴァイが言い終わる前にバサッとリヴァイに被せたのは午前中にリヴァイがルリに貸した深緑のラッシュガードであった。
「おい!脱ぐんじゃねぇ、また豚野郎にちょっかいかけられるぞ」
「何言ってるんですか!痴女と豚野郎に狙われているのはリヴァイさんですよ!?」
「は?痴女なんて言葉何処で覚えてきやがった、、」
「とにかく危険です!今すぐ着てください!」
「却下だ」
リヴァイからすれば危険なのは100%ルリなのだ。何故ならばラッシュガードで隠しきれない美脚や桃尻を振り返ってまでイヤらしく見てくる豚共を、今日は数え切れないぐらいに牽制してきたのだから。
お互い絶対に負けられない戦いがあるといわんばかりにリヴァイとルリは睨み合う。突如始まったカップルの痴話喧嘩に野次馬も興味津々だ。
「ったく馬鹿馬鹿しい。ほらさっさと…」
「えーいっ!」
ルリが先手必勝でリヴァイからラッシュガードを引ったくると再度リヴァイの肩に無理やり着せようとする。
「ってめ!人の話聞けっ!」
「却下ですっ!」
ルリとリヴァイはラッシュガードを挟んだまま両手を掴み合い膠着状態を続ける。いつものルリならばリヴァイの言葉に素直に従っていたかもしれないが、今日のルリは嫉妬心とリヴァイを豚共から護らねばという使命感に燃えていた。
「ふんっ!」
ルリの方が身長は数センチ高いと言えど、男に力でかなうはずないことは分かっている。なんとかリヴァイの体勢を崩そうと女子とは思えぬ掛け声でリヴァイに足ばらいを仕掛ける。
が、そんな子供騙しのようなローキックもどきが鋼の肉体を持つリヴァイに効くはずもなく、
ペチッ
「いったぁーい!リヴァイさん鍛えすぎでしょっ!」
硬いコンクリートにこんにゃくが当たったような何とも言えない間抜けな音とルリの脚が悲鳴を上げた。
「はぁ…ったくルリよ、もう気が済んだか?」
「まだまだ!っわぁ!」
リヴァイがルリを横抱きにし、ルリが一方的に始めた痴話喧嘩は強制終了となった。
喧嘩の発端となってしまったラッシュガードを肩にかけたリヴァイはすたすたと流れるプールの方へ歩いていく。
「ちょっ!リヴァイさんどこ行くんですか?!恥ずかしいから下ろしてください!」
「もう十分に注目を浴びちまったんだ。今更だ」
沢山の人だかりの間を抜けていく。リヴァイの言うように周りからはバカップルとして白い目で見られているようだった。恥ずかしさのあまりリヴァイが肩に掛けているラッシュガードに顔を埋める。
「とりあえず、一回頭冷やすぞ」
「えっ?」
リヴァイの言葉を聞いたのと同時に身体が浮遊感に包まれる。そして、
プールサイドに大きく響き渡る音と、水飛沫の放物線。
リヴァイがルリを抱きかかえたまま足から流れるプールに飛び込んだのだ。
二人とも水の中に深く深く、沈む。
高音の耳鳴りのようなものや、コポコポと水が揺れる音が微かに聞こえる。さっきとは比べ物にならないくらいの静けさと心地よい浮力が二人を包む。
(あ、)
辺り一面鮮やかな水色の世界でリヴァイがこちらを見ていた。水中でぼやけてしまっているがルリを見つめて穏やかに笑っている。普段表情筋が乏しい彼からは想像できない。
そんな彼に目を丸くして驚いているとリヴァイの顔が近付いてきて、触れるだけ。
水で冷たくて、体温で温かい。不思議な触感の唇がルリの唇に一瞬触れた。
「っぷは!えっ?!リヴァイさんっ、今っ、」
水面に顔を出したルリは突然のことに驚きのあまりリヴァイを見るが、リヴァイはそのまま何もなかったかのようにルリをお姫さま抱っこしながら流れに身を任せて歩き出した。
リヴァイは水に飛び込んだ勢いで普段下ろされている髪が無操作にオールバックになっている。いつもあまり見えない額や刈り上げた部分が露になり、肌を伝う水が纏う色気を更に増幅させていた。水も滴るいい男という表現はまさにリヴァイのためにあるようなものだ。
混乱するルリは、次第に心がモヤモヤしてリヴァイを見ていられなくなり顔を伏せた。
スマートな彼は何もかも余裕で周りを翻弄する。肌は触れ合ってはいるがなんとなくリヴァイが遠い人のように感じた。
「ルリ」
「はいっ!!」
ふいに名前を呼ばれ顔を上げた。
「妬いたんだろ」
「っ!」
青灰色の瞳に至近距離から見つめられる。自分のこの黒い感情をストレートに言葉にされキュウッと胸が締め付けられた。嫉妬心と何もかも自分より上手な彼にへそを曲げた事を知られたくない。
でもこの瞳に射抜かれて嘘を突き通せる自信もない。
「…やき、…ました。…だって綺麗な人とか…みんなリヴァイさんのことジロジロ見て話かけるんですもん。リヴァイさんは…私と付き合ってるのに。それにリヴァイさん色々とズルい…水の中で急にあんなこと…」
「はっ、わりぃ、ついついな。驚いかせちまったか」
水中で目を真ん丸にしていた彼女があまりにも可愛かったからしれっと唇だけ奪ったが、結果的に彼女の機嫌を損ねてしまったようだ。
口を尖らせたルリはリヴァイの脇腹から腕を背中に回しギュッとリヴァイを抱きしめる。
伏せられた睫毛が揺れている。それに厚い胸板に押し付けられた頬の上の部分が少し赤いのはきっと日焼けしただけではない。普段恥じらいの塊のような彼女がこんなことをするなんて驚きだ。
「…ルリ」
「俺はいつもそうだ。お前と出会ってから嫉妬ばかりしている。自分がこれ程欲深いとは知らなかった」
「えっ」
リヴァイの言葉にルリが驚いて顔を上げる。
穏やかなリヴァイの顔がそこにはあった。いつも冷静で寛容な彼に嫉妬という感情は無縁だと思っていた。
ルリの中で黒い感情が波が引いていくように消えていく。リヴァイはありのままのルリを包み込んでくれた。
「ついでに、怒りの感情も俺にはある」
「怒り、ですか?」
「あぁ、お前をいやらしい目で見ている豚野郎はわんさか居るからな。本当に胸糞悪い。今日は尚更だ、上から下まで舐め回すように見るクソ野郎共が…」
「すんごい表現ですね。」
ふふっとルリが笑った。リヴァイの口の悪さは今日も絶好調だ。
「世の中クソ女とクソ野郎ばっかりですね。」
「女がそんな汚ねぇ言葉使うんじゃねぇよ」
ルリを注意しているがリヴァイも面白ろそうだ。
女の独占欲ほど厄介なものはない。リヴァイにも思い出したくない苦い経験は幾つもあるが、彼女が初めて露骨に出した独占欲はリヴァイにとっては何とも可愛らしく心地よく感じてしまうものだった。
プール内を歩いているとトンネルのようなところに入る。
「…ルリ」
「はい。」
リヴァイの胸に頬を寄せていたルリが顔を上げるとリヴァイの欲情する熱い視線と目が合った。そのまま綺麗な顔を近づけられる。
「駄目です。」
いつの間にかリヴァイを抱きしめていた細い指がリヴァイの口の前でバツを作っていた。
「…おい、今そういう流れだっただろ」
「何言ってるんですか!公共の場ですよ!」
そう言うとルリは素早くリヴァイの腕から降りると、いつものお固いルリに戻ってしまった。
「誰にも見られてなかったからいいだろ。それにさっきもしたじゃねぇか」
「そういう問題じゃありません!さっきのは事故です!不意打ちは駄目ですっ!」
「じゃあさっきエロい脚絡ませて誘ってきたのも不意打ちじゃねぇか」
「ちょ、言い方!誘ってません!!あ、そういえば結局お昼食べ損ねちゃいましたね。」
「露骨に話を逸らすんじゃねぇ。お前、帰りの車の中覚悟しとけよ」
「う゛っ…」
リヴァイは仕返しとばかりにキスを思い出して真っ赤なルリの耳に唇を寄せながら囁いた。
互いの気持ちを再確認した二人の熱い夏はまだまだ終わらない。
シガンシナ保育園でも待ちに待ったプールが始まり子供たちの水遊びではしゃぐ声が響く。その声は自然と隣のシガンシナ消防署にも届いていた。
「くちく!くちく!」
「っつめてぇ!おい、ガキ共顔にかけんじゃねぇ!目に入っただ…ガリッ!」
「あ、したかんだ。」
「こら!二人ともやめなさい!!」
保育園と消防署を隔てるフェンス越しにエレンとジャンがオルオに向かって水をかけていた。ジャンは水鉄砲のためあまり威力はないが、よく見るとエレンはホースのストレート機能を使っている。しかも中々コントロールがいい。あれで顔面にかけれたらかなり痛いだろう。
「エレン!ホース勝手に使っちゃダメでしょ!?それに二人とも顔に向けるのもダメだって!す、すみません大丈夫でしたか?」
「お、おぅ。あんた、俺の女房気取るには気が早ぇよ。それに俺にはぺトラという女が…」
「えっ?女房?」
「ちょっとオルオ!気持ち悪いこと言ってんじゃないわよヘタレのくせに!」
「ぐふぅ!」
「いけ~!ペトラ先生!くちくしちまえ~!」
「ペトラ!?」
ペトラがバズーカ砲のような大型の水鉄砲でオルオの顔面めがけて水を放つ。集まってきた園児達は大はしゃぎで収集不能だ。そりゃ保育士がやってれば真似するよなとルリが悟り始めたところで聞き慣れた声がした。
「オルオ、てめぇはいつから火消しの的になったんだ」
防火服に身を包んだリヴァイが脱いだヘルメットを脇に持ち立っていた。訓練後なのだろう酸素ボンベを背負い、防毒マスクを首元に下げて珍しく汗だくである。髪からも汗が滴り、少し開いた防火服の隙間から首から胸元へ流れ伝う汗が光る。
なんだこのセクシー消防士は…
対照的にモジモジくんのように全身黒のラッシュガードで覆う己の色気のなさが際立っている。
「「リヴァイさん!!」」
リヴァイを見つけた園児たちは嬉しそうにしている。オルオには塩対応なので子供でも上下関係というものがわかるのだなと変に感心してしまう。
ふと気がつくとリヴァイと目が合った。
「お水かけましょうか、顔に。」
「ルリ、お前も俺に言うようになったな」
「ふふっ、暑いのに訓練大変ですね。」
「大したことねぇよ、暑さにはもう身体が慣れた。お前もガキ共も熱中症には気をつけろよ」
「はい。」
リヴァイは口元を少し緩めるとオルオに次の訓練の指示をしながら去っていった。このフェンスがなければいつものように頭をポンポンと撫でてくれたのかななどと考えてルリも口元が緩む。
「ルリの彼氏ってリヴァイさんでしょ。」
「はえっ?!」
突然ペトラから特大のバズーカ砲が降ってきた。
彼女には彼氏欲しいと建前でも言っていたため、リヴァイと付き合うことになって少し経った頃彼氏ができたと一応報告していた。隣の職場のリヴァイが相手とは流石に恥ずかしいため言えなかったのだがバレバレだったみたいだ。
「よくわかったね。」
「そりゃわかるわよ、今の親密な感じを見ればさ。女王様の予言は当たったわね〜。」
ペトラが面白そうに言う。七夕の頃からクリスタには何かとリヴァイの事を聞かれていた。4歳児に見抜かれるとは何だか情けない。
「夏はどこか遊びに行くの?」
「あ~、まだなにも決めてないかな…」
「ホテルのナイトプールは?この前友達と行ったけど雰囲気良かったしカップルも結構多かったよ〜」
写真撮ってる人ばっかだったけどねとペトラは続けた。
(オルオさんとは行かなかったんだな)
ペトラからオルオの話題は毎日のように上がるため少し気になったが、聞かない方が良さそうな気がしてやめておいた。
忙しい日々にかまけて何も考えていなかった。
リヴァイと初めて過ごす夏。何かいい思い出をつくりたい。
*
「エルド、お前この夏彼女とどっか行ったか?」
「そうですね…先週ナイトプール行きましたよ(主任、彼女出来たんだな…)」
「ほぅ」
「彼女が行きたい行きたいってうるさくて。映えスポットってやつですね。プールに入ってるだけでやる事ないっすけど、まぁ雰囲気も出て結構良かったですよ。」
「…ナイトプールか」
訓練後の更衣室。
珍しく部下のプライベートを聞いてくる上司にエルドはピンときたが、なにやら真剣に考えているリヴァイの顔を見てそれ以上聞くのはまたにしようと着替えを続けた。
隣のシガンシナ保育園でもプール開きをしたようで水着姿のルリをたまに見かけるようになった。
水着と言っても全身ラッシュガードに覆われており当たり前だが肌の露出はない。
肌が見えないのもまた奥ゆかしくて妄想を掻き立てられるところはあるが、欲を言えば「こけし」に代わってしまった水着を見たい。
「しかも大体のカップルはいちゃついてましたからね。」
エルドが笑いながら続ける。
「そりゃ結構なことじゃねぇか」
リヴァイはナイトプールでいちゃつく自分とルリを想像してみる。
(…あいつは絶対しねぇだろうな)
休日が合わないリヴァイとルリ。だが、季節感のある思い出を作りたいものだ。
夏の風物詩と言えば最初に思い付いたのは花火大会だったが、万が一何かあったときのために花火大会の日は必ず出勤日とされている。今まで特に気にしていなかったが、今回ばかりはこの仕事を恨めしいと思った。
その点夜から出かけられるナイトプールは好都合だ。
(誘ってみるか…)
*
「すげぇ人だなおい。」
「まぁ、夏のレジャーなんてみんな考えることは一緒ですよね!」
若干引き気味のリヴァイとは対照的にルリはどこか楽しそうだ。
結局リヴァイとルリはナイトプールではなく大勢の人が賑わうレジャープールへ来ていた。
なぜかというと、リヴァイが誘うよりも先にルリからプールへの誘いがあったから。ナイトプールと二人で迷ったが、太陽の下で遊ばないと夏を感じられないというルリの主張でレジャープールとなったのだ。
「じゃあ着替え終わったらここで集合でもいいですか?」
「わかった。お前もう水着着てんのか?」
「はい!なのでそんなに時間かかりませんよ。」
着替えて来るのは基本中の基本です!とルリは笑顔で続ける。
シフォン素材のミモレ丈ワンピースの下には下着ではなく水着を着ている…想像するだけで期待値がグングン上がる
*
「遅えじゃねぇか」
先ほどルリと別れた場所で腕組みをしながらぼそりと呟く。全くこの場に馴染んでいないリヴァイの声は、行き交う家族連れやカップル達の楽しそうな会話に掻き消されていく。
かなり待っている訳でもないが、着替えてきていると言う割には遅い。
更衣室が混雑しているのか…
何かあったのか…
痺れを切らしてリヴァイがスマホを手にとろうとした時、更衣室とは逆方向に見慣れたポニーテールを見つけた。
「ねぇ、君ひとり?」
「私?」
「ほら言っただろ?顔も結構可愛いって!」
「?」
「君すっごいスタイルいいね!もしかしてモデルとかやってる?俺等と一緒に遊ぼうよ!」
声をかけられた方へ顔を向けると同い年位の男二人が立っていた。
「(ナンパ…)あ~すみません、私今日彼氏と来てるので…。」
「でもさっきから見てたけど一人で彼氏っぽい人なんて居ないじゃん。ホントは女友達と来てるんでしょ?その子も一緒に遊ぼうよ。」
「いや、あの…」
ルリはナンパされていた。しかも彼氏と来ていると事実を言っているのに信じてもらえない面倒なパターンのやつである。
体型をほめるだけあって男達から頭の先から爪先まで舐めるようにジロジロと視られる。しかも最初の会話からして後ろ姿から品定めされていたらしく気分が悪い。
(やだな…)
人を見た目であれこれ判断する人は苦手だ。早くリヴァイと待ち合わせした場所に戻りたい。
「あの、じゃあ彼をまたせてるので…」
「待って待って!ほんとに男なの?俺らも途中まで一緒に行っていい?」
「え?ちょっ…」
「おい、糞ガキ共。てめぇら誰の女に声かけてんだ」
「リヴァイさん!」
「うわっ!す、すみません!」
ナンパ男達は腕組みした物凄い形相のリヴァイを見ると逃げるように去っていった。
「…どこ行ってたんだ」
「リヴァイさんまだだったんで先に浮き輪に空気入れに行ってまし、た、、」
リヴァイの迫力でルリの声が尻すぼみに小さくなる。
深緑のラッシュガードを着ているが、開け放たれている前部分から見事な腹筋と胸筋が覗く。
おまけに眉間に深く刻まれた皺と鬼のような形相から「ラッシュガードで入れ墨を隠してお忍びで来たヤ◯ザ」という設定がしっくりきてしまう。
ルリはリヴァイを見てナンパ男達が一目散に逃げていく理由がわかった。
「リヴァイさんそんなに怒らないでくださいよ!」
「あ?怒ってねぇ。空気入れに行くぐらい俺がやる。ったくお前は自覚がねぇくせにちょこちょこ動き回りやがって…ほら行くぞ」
リヴァイはそう言うとルリが持っていた浮き輪を肩に担ぐと反対の手でルリの手をとり歩き出した。絡めるように繋いだ手にきゅっと力を込められる。
さりげない優しさにこの人のギャップには敵わないなぁと頬が桜色に染まった。
「リヴァイさん、今日はいっぱい楽しみましょうね。」
「当たり前だ。休日必死に合わせたんだからな」
*
とりあえず中央にある流れるプールに入りに行く。
二人で歩いているとすれ違う男達の視線がルリに注がれていることに嫌でも気付く。着いた頃にはリヴァイは再度眉間にシワを寄せていた。
「チッ」
「どうかしました?」
立ち止まりリヴァイはルリに向き直る。
ルリはシンプルな黒のバンドゥビキニ。
肩ヒモがないため美しいデコルテが惜しげもなく晒されており、乳白色の肌に引き締まったくびれと胸の下からへその上まで薄っすらと浮かび上がる腹筋の線を思わず指で撫で上げたくなる。
ベッドの上では電気を消せといつもうるさい為、服の下の肌をはっきりと見るのはリヴァイも初めだ。
(オイオイ、完全にグラビアじゃねぇか…)
「…?水着似合ってなかったです?」
「いや、悪くねぇ。だがもう十分だ」
「?」
今年は大人っぽく黒にしました〜と笑顔のルリにリヴァイはバサッと自分が着ていたラッシュガードをかけた。
「着ておけ。日焼けするぞ」
「大丈夫ですよ。日焼け止めバッチリ塗りましたし。」
「とにかく今は着ろ」
「は、はい。」
有無を言わさぬリヴァイの圧に負けてルリはそそくさとラッシュガードを着た。
「じゃあ、入りますか!」
「あぁ」
二人とも人が少ないところを探してプールサイドに近づく。
「わっ、結構冷たいですよ!」
「おい、かけんな。先に入れ」
「はーい」
既にはしゃいでいるルリが先に入り、続いてリヴァイも腰辺りまで水位がある蛇行するプールに入った。
ちゃぷちゃぷと音を立てて波立つ水は、太陽の光に反射して「冷たくてきもちいですね」と嬉しそうに浮き輪に掴まっているルリの胸元にマーブルの光の輪を幾重にも作る。彼女の白く健康的な肌にとても映えていた。
「リヴァイさんも一緒に入りましょ〜」
「あ?もう入っただろ」
少し水の流れに乗って漂った後、ルリが唐突にリヴァイを誘った。
「浮き輪ですよ〜!これ二人用なんで余裕ですよ?」
「オイオイ待て待て、、俺にこれ入れってのか?」
「はい!水の中歩いてると疲れません?」
ルリが持ってきていた浮き輪はド派手なピンク色のフラミンゴを模したものである。大きいと思ったがてっきりルリ一人で使うと思っていた。
「馬鹿野郎。おっさんがこんなん入ってたら気持ち悪いだろうが」
「リヴァイさん全然おじさんじゃないじゃないですか!入りましょうよ〜プカプカ浮いて気持ちいいですよ?」
「…(そういやぁこいつ俺の歳知らなかったな…)」
困惑するリヴァイとは対照的にルリは日の光を浴びてプールで開放的になったのかいつもより大胆だ。
「えい!」
「っ!?おい!」
「ふふっ、じゃあ私がリヴァイさんの浮き輪になりますよ。」
浮き輪に捕まったままのルリがリヴァイの腰を両脚を使ってホールドしてきた。普段園児相手に走り回っているだけあって、カモシカのような美脚は見かけによらず筋肉質で力強い。
今日は完全にルリのペースだ。
「てめぇ、調子乗りやがって」
「いいじゃないですか〜水の中で見えないですもん。」
いたずらっぽく目を細めて笑うルリ。水で濡れた後れ毛や肌が太陽の光を集めて彼女の魅力を倍増させている。リヴァイはまた一つ彼女の魅力に気付きナイトプールではなく明るいプールに来てよかったと心底思った…
が、おそらく彼女は今、普段やられっぱなしのため驚くリヴァイを見て面白ろがっている。彼女も見かけによらず随分と負けず嫌いだ。
そしてリヴァイ自身もやられっぱなしは性に合わない。
「いい加減にしろよ」
「っ?!きゃあ!」
リヴァイが突然ルリの尻を鷲掴み、そのまま強めにもみしだく。
「ちょっ!やだっ、リヴァイさん、こんなとこでやめてください!」
「あ?水ん中で見えねぇなら何したっていいんだろ?」
「何してもいいなんて言ってないですよ!」
慌てるルリがリヴァイの腰から脚を離すも今度はリヴァイがルリの腰を器用に腕でホールドし身動きがとれない。更にエスカレートしそのまま両手を水着の中に入れ直に尻を揉んでくる。
「リ、リヴァイさんっ!やり過ぎですってば!」
「先にはしたねぇ脚で仕掛けてきたのはお前だろ?やるならちゃんとやれよ」
リヴァイの報復は止まらない。
耳元で囁きながら、ベッドの中のようにぐにぐにと尻を揉んで耳たぶを囓る。周りからはただの耳打ちしている大人同士という体をしっかり装って。
「あ、も、ダメですっ」
「ったく、昼間っからエロい顔しやがって何してんだ。ここは公共の場だぞ」
「ふぇ…ごめんなさい。」
耳元でその不敵な笑みと無駄に色気のある低音ボイスで言われてしまえばもはや何も言えない。ルリの進撃は一瞬で終わったのだった。
*
「軽く腹に入れるか?」
「そういえばお腹空きましたね。」
「お前はここで休憩してろ。適当に何か買ってくる」
「すみません、ありがとうございます。」
スライダーなど施設のほとんどを遊び終え時刻は既に14時を回っていた。ずっと遊びっぱなしだったため普段園児相手に体力には自信があったルリだがさすがに少し疲れた。
パラソルが並ぶ休憩スペースのビーチチェアに腰掛け両膝を抱え頬杖を付く。休憩スペースは少し階段を登ったところにあるため施設内の様子がよく見えた。
フードスペースに歩いていくリヴァイの背中を眺める。小柄だが身体の作りが本当にバランスがいい。気づかなかったが背中も筋肉が複雑についており見事としか言いようがない。リヴァイのような完璧な人が自分の彼氏とたまに信じられなくなる。
(まぁたまにSっ気が出るけど。)
ふふっとルリは思い出し笑いをしていると、
「ん?」
ある事に気がついた。
リヴァイの前を開けるように人々が割れていく…気がする。しかも女性からの熱い視線もあれば男性陣からの羨望の眼差しも混ざっている…気がする。
いつも隣に居るときは気づかなかったが、こうして俯瞰して見るとリヴァイはとても目立っていた。
「あ」
若い二人組の女性がリヴァイに話しかけている。遠目から見てもスタイルもよく綺麗な女性がリヴァイの腕に自分の腕を絡ませボディタッチをしているではないか。
リヴァイと少し会話した後、女性達は離れて行ったが何だか嬉しそうだ。きっとリヴァイのことだ、スマートに断ったのだろう。
(…なにあれ、、)
ルリの中でチリッと嫉妬の炎が燃え上がる。
もともと裏表のない真っ直ぐな性格だがこんなに妬みの感情に支配されるのは初めてだ。
「っ!?」
女性達が去っていったかと思うと今度は男性から声をかけられている。
男同士で一緒に遊ぼう…と言うのとなのだろうか、、
リヴァイは腕組みしてなにか警戒しているようだ。
(豚野郎に狙われているのはあなたですよ!リヴァイさん!)
いてもたってもいられずルリは勢いよく立ち上がるとリヴァイの元へかけていった。
「リヴァイさんっ!」
「ルリ?待ってろって言っただ…
「これ着てください!」
リヴァイが言い終わる前にバサッとリヴァイに被せたのは午前中にリヴァイがルリに貸した深緑のラッシュガードであった。
「おい!脱ぐんじゃねぇ、また豚野郎にちょっかいかけられるぞ」
「何言ってるんですか!痴女と豚野郎に狙われているのはリヴァイさんですよ!?」
「は?痴女なんて言葉何処で覚えてきやがった、、」
「とにかく危険です!今すぐ着てください!」
「却下だ」
リヴァイからすれば危険なのは100%ルリなのだ。何故ならばラッシュガードで隠しきれない美脚や桃尻を振り返ってまでイヤらしく見てくる豚共を、今日は数え切れないぐらいに牽制してきたのだから。
お互い絶対に負けられない戦いがあるといわんばかりにリヴァイとルリは睨み合う。突如始まったカップルの痴話喧嘩に野次馬も興味津々だ。
「ったく馬鹿馬鹿しい。ほらさっさと…」
「えーいっ!」
ルリが先手必勝でリヴァイからラッシュガードを引ったくると再度リヴァイの肩に無理やり着せようとする。
「ってめ!人の話聞けっ!」
「却下ですっ!」
ルリとリヴァイはラッシュガードを挟んだまま両手を掴み合い膠着状態を続ける。いつものルリならばリヴァイの言葉に素直に従っていたかもしれないが、今日のルリは嫉妬心とリヴァイを豚共から護らねばという使命感に燃えていた。
「ふんっ!」
ルリの方が身長は数センチ高いと言えど、男に力でかなうはずないことは分かっている。なんとかリヴァイの体勢を崩そうと女子とは思えぬ掛け声でリヴァイに足ばらいを仕掛ける。
が、そんな子供騙しのようなローキックもどきが鋼の肉体を持つリヴァイに効くはずもなく、
ペチッ
「いったぁーい!リヴァイさん鍛えすぎでしょっ!」
硬いコンクリートにこんにゃくが当たったような何とも言えない間抜けな音とルリの脚が悲鳴を上げた。
「はぁ…ったくルリよ、もう気が済んだか?」
「まだまだ!っわぁ!」
リヴァイがルリを横抱きにし、ルリが一方的に始めた痴話喧嘩は強制終了となった。
喧嘩の発端となってしまったラッシュガードを肩にかけたリヴァイはすたすたと流れるプールの方へ歩いていく。
「ちょっ!リヴァイさんどこ行くんですか?!恥ずかしいから下ろしてください!」
「もう十分に注目を浴びちまったんだ。今更だ」
沢山の人だかりの間を抜けていく。リヴァイの言うように周りからはバカップルとして白い目で見られているようだった。恥ずかしさのあまりリヴァイが肩に掛けているラッシュガードに顔を埋める。
「とりあえず、一回頭冷やすぞ」
「えっ?」
リヴァイの言葉を聞いたのと同時に身体が浮遊感に包まれる。そして、
プールサイドに大きく響き渡る音と、水飛沫の放物線。
リヴァイがルリを抱きかかえたまま足から流れるプールに飛び込んだのだ。
二人とも水の中に深く深く、沈む。
高音の耳鳴りのようなものや、コポコポと水が揺れる音が微かに聞こえる。さっきとは比べ物にならないくらいの静けさと心地よい浮力が二人を包む。
(あ、)
辺り一面鮮やかな水色の世界でリヴァイがこちらを見ていた。水中でぼやけてしまっているがルリを見つめて穏やかに笑っている。普段表情筋が乏しい彼からは想像できない。
そんな彼に目を丸くして驚いているとリヴァイの顔が近付いてきて、触れるだけ。
水で冷たくて、体温で温かい。不思議な触感の唇がルリの唇に一瞬触れた。
「っぷは!えっ?!リヴァイさんっ、今っ、」
水面に顔を出したルリは突然のことに驚きのあまりリヴァイを見るが、リヴァイはそのまま何もなかったかのようにルリをお姫さま抱っこしながら流れに身を任せて歩き出した。
リヴァイは水に飛び込んだ勢いで普段下ろされている髪が無操作にオールバックになっている。いつもあまり見えない額や刈り上げた部分が露になり、肌を伝う水が纏う色気を更に増幅させていた。水も滴るいい男という表現はまさにリヴァイのためにあるようなものだ。
混乱するルリは、次第に心がモヤモヤしてリヴァイを見ていられなくなり顔を伏せた。
スマートな彼は何もかも余裕で周りを翻弄する。肌は触れ合ってはいるがなんとなくリヴァイが遠い人のように感じた。
「ルリ」
「はいっ!!」
ふいに名前を呼ばれ顔を上げた。
「妬いたんだろ」
「っ!」
青灰色の瞳に至近距離から見つめられる。自分のこの黒い感情をストレートに言葉にされキュウッと胸が締め付けられた。嫉妬心と何もかも自分より上手な彼にへそを曲げた事を知られたくない。
でもこの瞳に射抜かれて嘘を突き通せる自信もない。
「…やき、…ました。…だって綺麗な人とか…みんなリヴァイさんのことジロジロ見て話かけるんですもん。リヴァイさんは…私と付き合ってるのに。それにリヴァイさん色々とズルい…水の中で急にあんなこと…」
「はっ、わりぃ、ついついな。驚いかせちまったか」
水中で目を真ん丸にしていた彼女があまりにも可愛かったからしれっと唇だけ奪ったが、結果的に彼女の機嫌を損ねてしまったようだ。
口を尖らせたルリはリヴァイの脇腹から腕を背中に回しギュッとリヴァイを抱きしめる。
伏せられた睫毛が揺れている。それに厚い胸板に押し付けられた頬の上の部分が少し赤いのはきっと日焼けしただけではない。普段恥じらいの塊のような彼女がこんなことをするなんて驚きだ。
「…ルリ」
「俺はいつもそうだ。お前と出会ってから嫉妬ばかりしている。自分がこれ程欲深いとは知らなかった」
「えっ」
リヴァイの言葉にルリが驚いて顔を上げる。
穏やかなリヴァイの顔がそこにはあった。いつも冷静で寛容な彼に嫉妬という感情は無縁だと思っていた。
ルリの中で黒い感情が波が引いていくように消えていく。リヴァイはありのままのルリを包み込んでくれた。
「ついでに、怒りの感情も俺にはある」
「怒り、ですか?」
「あぁ、お前をいやらしい目で見ている豚野郎はわんさか居るからな。本当に胸糞悪い。今日は尚更だ、上から下まで舐め回すように見るクソ野郎共が…」
「すんごい表現ですね。」
ふふっとルリが笑った。リヴァイの口の悪さは今日も絶好調だ。
「世の中クソ女とクソ野郎ばっかりですね。」
「女がそんな汚ねぇ言葉使うんじゃねぇよ」
ルリを注意しているがリヴァイも面白ろそうだ。
女の独占欲ほど厄介なものはない。リヴァイにも思い出したくない苦い経験は幾つもあるが、彼女が初めて露骨に出した独占欲はリヴァイにとっては何とも可愛らしく心地よく感じてしまうものだった。
プール内を歩いているとトンネルのようなところに入る。
「…ルリ」
「はい。」
リヴァイの胸に頬を寄せていたルリが顔を上げるとリヴァイの欲情する熱い視線と目が合った。そのまま綺麗な顔を近づけられる。
「駄目です。」
いつの間にかリヴァイを抱きしめていた細い指がリヴァイの口の前でバツを作っていた。
「…おい、今そういう流れだっただろ」
「何言ってるんですか!公共の場ですよ!」
そう言うとルリは素早くリヴァイの腕から降りると、いつものお固いルリに戻ってしまった。
「誰にも見られてなかったからいいだろ。それにさっきもしたじゃねぇか」
「そういう問題じゃありません!さっきのは事故です!不意打ちは駄目ですっ!」
「じゃあさっきエロい脚絡ませて誘ってきたのも不意打ちじゃねぇか」
「ちょ、言い方!誘ってません!!あ、そういえば結局お昼食べ損ねちゃいましたね。」
「露骨に話を逸らすんじゃねぇ。お前、帰りの車の中覚悟しとけよ」
「う゛っ…」
リヴァイは仕返しとばかりにキスを思い出して真っ赤なルリの耳に唇を寄せながら囁いた。
互いの気持ちを再確認した二人の熱い夏はまだまだ終わらない。