Etude Dance*
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「リヴァイ、君のパートナーが見つかったよ」
昼時を過ぎたオフィスに突然かかってきた一本の電話。それはバンクのコーディネーターであるエルヴィンからだった。彼の心地よいテノールを聞いていると、もし彼に子守歌を歌わせたら子供が一瞬で眠りに就くんじゃないかと思ったりしてしまう。
「検査の結果、適合率は九割を超えている。かなりの高い確率で……いや、これはもうソウルメイトといっても過言はないのだろうね。すごいよ、こんな適合率は初めて見る」
リヴァイが全く関係ない事を考えているとはつゆ知らず、電話の向こう側でエルヴィンが感情を抑えられず早口で話している。いつも冷静な彼が奇跡だ、信じられない、なんて浮ついた言葉を次々に口にするものだから段々と当事者であるリヴァイの方が首筋がむず痒く、恥ずかしいような気分になった。「どうした? 流石のお前ももっと感情を表に出すかと思ったんだが」
「お前が俺の分まで出しすぎるからだ」
「ははっ、悪い」
この声は本当に彼が悪いと思っていない時のトーンだ。やはり彼に子守歌は似合わないと思った。彼自身が大きな子供のようだからだ。彼との付き合いもかれこれ十年以上、顔を見ていなくても彼の表情は。
「こんなにも早く見つかるとは思っていなかった」
「俺もだよ。この瞬間に立ち会えた事、とても嬉しく思うよ」
担当コーディネーターとしても、友人としてもねと言いながら、エルヴィンが受話器の向こう側で穏やかに微笑んでいることはリヴァイも勿論分かっている。
適合率とは、簡単に言えば遺伝子上の相性のようなものだ。
現時点のバース研究では適合率が八割を越えれば運命的な結びつきと言われているが、せいぜい良くて六割。まだバンクに登録して半年も経っていないのに、完璧な適合者が現れたことに長くコーディネーターを続けてきたエルヴィンも驚きを隠せないようだった。
「で、その相手とはいつ会えるんだ?」
「見つかったことは幸運だったが、悪いがまだ話の続きがある」
「……先にそれを言え。そういう話の仕方は昔から好きじゃねぇ」
「悪い。純粋にまずは君に喜んで欲しかったんだ」
多少の苛立ちを感じながらも、エルヴィンの含みを持たせた言い方が優しさの裏返しということは当然分かっている。この流れでいくと、きっとバッドニュースなのだろう。
「単刀直入に伝えるが、相手は君と会うことを拒絶している」
「は? 待て待て……一体どういうことだ? 自分からバンクに登録したんだろう」「俺もこの仕事を長くやってきたが適合してから拒絶なんて事初めてだよ。前代未聞だ。前無例がいから本当にどうすればいいのか……全く心臓が幾つあっても足りない」
電話口の向こう側でいつも明快なエルヴィンが困ったように溜息をついている。それを聞いて、リヴァイももう何も言えず黙り込んでしまった。
高適合での不可解な拒絶。
単純に考えて、相手は「変化」を恐れたのだろう。その気持ちは分からなくもない。人は変化に弱く脆い。それがバースと呼ばれる生きていく上では絶対に逃れることの出来ない事象が関係しているとなれば尚更だ。
「お相手はきっと戸惑っているんだろうね。あまり言いたくないがオメガ性の方が後の影響力が大きい……少し、怖くなってしまったのかもしれない」
「だろうな」
「気長に待ってもらえると助かるよ。相手の気持ちも尊重させたい。それに対話を重ねていけば、きっと変化はあるはずだ。最善を尽くすよ」
先ほど溜息をついていたエルヴィンが別人のように話す。彼は困難になればなるほど光り輝く才能を持っている。彼のアルファ性としての能力が遺憾なく発揮されることを願うばかりだ。
「まぁとにかく、一度会おう。お互い仕事で忙しくて最近会ってなかったし。もう少し詳しく話したい」
「わかった」
リヴァイはエルヴィンと会う日を調整し電話を切る。実感は何もない。だが運命は気づかぬ内にゆっくりと動き始めた。