いぬのキモチ
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『はははかたたたた』
残業をしていたら、リヴァイさんから変なメッセージが届いた。
「ははは、かたた…?」
オフィスのデスクで、ルリはさっき買ったコーヒーを飲みながら難解なナゾナゾを解く様に必死に頭をフル回転させる。
「うーん…だめだ。考えてもわかんないや、、」
考えてはみたが長時間労働で疲弊した頭はそれらしい答えを導き出すことは出来なかった。
打ち間違い?お酒の飲み過ぎ?まさか先日自分が紅茶と間違えて買ってきたコーヒーを飲んでしまったとか…?
(一人の時に飲もうと思って棚の奥の方に隠しておいたんだけど…)
彼は無類の紅茶好き。しかもコーヒーを飲むと鬱並に気分が落ち込む体質だから飲む時は配慮して外で済ませている。間違えた物は彼が居ない時にこっそり飲むつもりだったのだが…
「ハイスペックイケメンの旦那様からぁ〜?」
「わっ?!」
耳元でした声に驚いて振り返ると、反対の島のデスクからぐい〜っと背伸びをしてきたペトラが肩をコキコキ鳴らしながら何か面白いネタはないかとこちらを見ていた。
繁忙期の残業ほど気乗りしないものはない。ビルの一階に入っているコンビニのおにぎりを仕事の片手間に腹に入れていたが、流石に周りの同僚たちも集中力が切れてきたみたいだった。
「新婚なのに残業続きなんて最悪よね〜。私なら旦那がアルファな時点でこんなクッッソみたいな会社辞めるけどな〜。」
「あはは、、まぁ一年中残業って訳じゃないしボーナスも少しだけど貰えるから…」
「全然割に合ってないでしょ、ルリは社畜脳ね〜。」
「ク」と「ソ」の間に感情の全てをぶち撒けたペトラはグビグビとコンビニで買ってきたエナジードリンクを飲んでいる。きっと一気飲みしたからアドレナリンが急激に分泌されて感情が昂っているのかもしれない。
「まぁ私はベータだからルリみたいに運命的な出会いは無いけどさ、ドラマみたいで憧れるわよね〜。私も早く稼ぎの良いイケメンゲットしなきゃ。」
「ハハ…」
ある日突然、道端ですれ違った人がたまたま運命の人だった。嘘のような本当の話で、知らない男性から突然手を握られてその場で熱烈にプロポーズを受けた。一瞬何が起こったかわからなかったけれど、繋がれた手は引力で引かれ合ってるみたいに離れなかった。
「あ、あの、何かの冗談ですか?初対面なんですけど…」
「これが冗談にみえるか。自分でこんなことしといて俺も信じられねぇんだが…俺と番になってくれ。必ず護り、幸せにすると誓う」
「は、はいっ!」
バースタイプに疎いルリでさえも、上品で端整な顔立ちの容姿からすぐに彼が血筋の良いアルファだとわかった。そして彼の静かに燃える青い瞳を見ていたら心拍数がどんどん膨れ上がっていって、ピンク色の火花がパシパシと眼前を舞った。
あぁ、本当にこの人が運命の人なのだと。
こんなにも広い世の中でたまたま横断歩道を歩いていただけなのに、出逢ってしまったのだと…そして高鳴る鼓動そのままに、彼の手を握り返したのだった――
この世は男と女、さらにバースタイプと呼ばれる第三の性が存在する。その中でルリはオメガという珍しい種で生まれた。幸い優しい両親や理解ある友人に囲まれて、これまでそんなに自分のバースタイプを気にしたことはなかったけれど、リヴァイと名乗った運命のアルファと出逢い人生はがらりと変わってしまった。
「はぁ、早く帰りたいな…」
「でましたノロケ発言!」
「そ、そんなんじゃないよ!残業も続いてるし、流石に疲れたから!」
ペトラに指摘され顔の体温が上昇する。
でも自然と本音が口から出てしまったのは仕方がないかもしれない。最近は残業が続くせいですれ違い気味。最初の頃はリヴァイが夕食を作って待っていてくれたけど、流石にそれは申し訳なくて適当に済ませてくるので食べてもらって構わないと伝えた。
彼は外資系の企業に勤めるエリートサラリーマン。社風的に残業は悪みたいなところがあるかもしれないけど、彼の方が何倍も忙しいにも関わらず業務時間内に仕事をこなしてほぼ定時で帰ってくるリヴァイに比べ、ルリは要領が悪くて残業しがち…彼に迷惑かけないようにもっと頑張らなければと思う日々だ。
「でもルリが早く帰りたいなんてよっぽどね、あなた小動物みたいな顔してるのに男に依存しない一匹狼タイプだから。パートナーを見つけて彼に染まるなんて素敵じゃな〜い。このこのっ!からの〜、よ〜しよしよし…」
ペトラがからかうように脇を小突いて、そしてさも当然のようにナデナデと頭を撫でてくる。この一連までが最近のペトラからのちょっかいルーティンになっている。
「…ねぇねぇ、前から思ってたんだけど何で頭撫でてくるの?」
「だって寂しくなりすぎて職場でポメ化したら大変でしょ〜?旦那様も心配するだろうし、だからよ。」
「あ〜そういう事ね。安心して、私ストレスに強いらしくて今までに一度もポメ化したことないから。それにポメ化してないのに頭撫でられても…あ゛ぁぁあああぁ!」
「な、何?!急に大きな声だして…」
「ごめん帰るね!仕事は明日に回すわ!さっき一区切り付いた所だから多分大丈夫!」
「はぁ?!ちょ、ちょっとどうしたの?!」
「謎が解けたの!」
ルリは急いでパソコンの電源を切りバッグに荷物を詰めていく。リヴァイからのメッセージの謎が解けたのだ。
フロアを出て、丁度降りてきたエレベーターに乗り込む。その間に急いでスマホを操作すると、何コールか目で「何か」が出た。
「もしもしリヴァイさん?!もしもし?!今家ですか?外に出てないですよね?!危ないから絶対にでちゃダメですよ!すぐに帰りますから待っててください!じゃあ!」
一緒に乗り合った他のフロアの社員がまるで耳の遠いお年寄りに喋るように大声で喋るルリに注目していたが、そんな視線を無視し荒々しい呼吸音に返事をし家路を急いだ。
この世は男と女、そしてバースタイプという第三の性がある摩訶不思議な世界。何が起こっても、不思議ではない平和な世界なのである――
(やっちまった…)
ルリが猛ダッシュで家路を急いでいる頃、リヴァイはリビングのラグの上を右往左往していた。毛足の長いラグの繊維が素足の指の隙間に入って擽ったい。時折ソファーに座ってみたり、玄関の方まで行ってみたり…
それでも落ち着かずまたラグの上に無造作に置かれている自分のスマホの近くまで戻ってきた。先程ルリから電話がかかってきて、必死に送ったメッセージの内容で彼女も事態を察したらしく急いで帰ると言ってものの数秒で通話は終了してしまった。しんと静まり返った室内。それが余計にリヴァイの不安を煽る。
(ちゃんと帰って来れるだろうか…?)
リヴァイはブラックアウトしたスマホの画面に顔を近づけてふと思う。彼女は年齢の割にはスマホを触らないのでリヴァイへ向けてのメッセージも普段からそれ程多くない。
おまけに結構ドライな性格というか…最近の彼女は帰ってきて自分との会話もそこそこに風呂に入りすぐに「おやすみなさい」と言って寝室に消えていく。帰ってくるのを待っていた身としてはなかなかの塩対応に最初は戸惑ったが疲れているだろうし、彼女は自立した女性だからと思う事にした。
オメガだからといって、誰しもがアルファに依存する訳ではない。第三の性が育った環境や生まれ持った性格とマッチしてその性質がよく現れた人間も見た事はあるが、少なくともルリはそうではない。
自立した女性故にか、今日は流石に電話があったが普段は今から帰るとか、駅に着いたとか、百歩譲って愛を紡ぐ言葉とかなんてものは…殆どない。最後のは欲しくないと言えば嘘になるが、せめて最低限の連絡はしてくれないと心配になる。だがその要望がルリにとって引くほど細かい注文になるのかと思うと、情けない話中々言えずじまいでいる。過去に仕事や交友関係でこんなにも優柔不断になった事は無いが、彼女にどう思われるかが気になって仕方がない。そんなちょっとしたモヤモヤが、積もり積もって不安にすり替わる今日この頃。
(最近帰りも遅ぇからな…)
ちなみに今一緒に住んでいるマンションは駅まで徒歩5分以内の駅近物件。
彼女の勤務先と自分の勤務先が同じ沿線上であった事も幸いして、駅からかなり遠いアパートに住んでいた彼女がリヴァイのマンションに引っ越してきたのだ。ルリは通勤が楽になったと大喜びしていたが、それでもリヴァイには心配の種が色々とある。
(駅近といっても夜道を歩くのには変わりねぇからな。大通り一本入れば街灯が少ない裏道、あいつは小柄で小動物みてぇに可愛い顔してやがるから目つけられて車に押し込まれたりでもしたら…オイオイオイオイ、洒落になんねぇぞ。それに近くの公園から変態野郎が出てきやがったら…っ)
想像力豊かにルリを心配するあまり、頭の先から足の先までブルリと身体全身が震えた。アルファは元々選んだオメガを側に置いきたいという習性がある。リヴァイはルリという最愛のオメガを伴侶に選んだ結果、元々世話焼きという性格も相まってかその気質が強く出るようになっていた。
(駄目だ、待つのは性に合わねぇ…)
待ったり追われるよりも、探したり目的に向かって追いかける方が性に合っている。
仕事だってそうだ、ノッてくると周りがドン引きする位止まらなくなる。そういう時は一旦立ち止まって部下の能力に合わせて指示を出すようにしている。そのほうが円滑に物事が進むし部下が成長していく姿は見ていて悪くない。そういう状態の自分の判断には一寸の狂いもなく、アルファにしかない不思議な感覚だ。
旧友のエルヴィンは研ぎ澄まされているあまり会社で変人扱いされて孤立しているらしい。それはお前の個性的な性格故だろうと思ったが、言うのは辞めておいた。
だから彼女と出会ったとき、横断歩道が青になって一歩足を踏み出したときだ。向こう側から歩いてくる大勢の人の中に「居る」事はすぐに分かった。その時の直感は一生忘れられない。彼女が驚いてそしてはにかんだ愛らしい笑顔を見た瞬間、全身全霊で彼女を護り幸せにしようと心から誓った。だからこんなところで「待て」と言われて待てる訳ないのだ。
リヴァイはスマホを暫く眺めていたが、玄関の方を振り返る。迷いはない。彼女に何かあったらと思うとストレスマックスでもう限界なのだ。
スタスタと玄関の方に向かう。玄関の少し前からはもう早足になっていた。そして勢いそのままドアノブに手をかけたところ、重たい金属の感触が次に来るかと思いきや自分の力ではない誰かの力で扉はスローモーションのようにゆっくりと開いていく。
そして着地したのは通路の冷たいタイルではなく、ニット越しの柔らかなふくらみ2つのちょうど谷間。触れたところから彼女の甘い香りと愛用のお洒落着洗いのフレグランスが香って、一瞬春うららかな花畑に着地したのかと思った。
それと同時にリヴァイは思った。
ここは天国かと。
「ただいまっ!きゃあ!?わー!やっぱりリヴァイさんポメ化してるー!」
扉を開けた瞬間勢い良く胸元に飛んできた黒い毛むくじゃらの物体。あまりに突然の事で驚いたが、落ちる既の所でナイスキャッチして大切そうにギュッと抱きしめると、腕の中のその温かな物体も待ってましたとばかりにルリの手の甲に濡れた鼻先をグイグイ押し付けてきた。
予想は的中した。何かの冗談ではない、この小さな毛むくじゃらの犬こそが今の夫の姿なのだ。
「リヴァイさんまたこんな立派なポメラニアンになって!」
「ハッハッハッハッ」
「え?夜道が心配で…って、夜道っていってもまだ21時前ですよ?それにここ駅から徒歩2分じゃないですか。大通り歩いてくるし大丈夫ですよ、もう心配性なんだから…」
ルリは当たり前のように犬に話かけ、言葉を理解し、少し困った様子で顔の前に抱き上げる。
犬種で言うとスピッツ属スピッツ科
小型犬種「ポメラニアン」
たてがみの様に長くふわふわとした被毛と愛らしいつぶらな瞳を持つ、愛玩犬として不動の人気を誇る小型犬だ。
そんなポメラニアンになってしまった夫の様子はというと、この犬種の中では鼻筋が通っており、涼しげで切れ長な瞳を併せ持つクールなポメに早変わりしていた。例え小型犬になろうとも、アルファの夫はどこまでもイケメンなのだ。
「ふふ、リヴァイさんポメになってもイケメンですね。」
ルリは突如目の前に現れたもふもふを微笑ましく眺める。イケメンなポメであっても可愛らしさが全面に溢れていて、思わず「かわいい…」と呟いてチュッと鼻先にキスをするとリヴァイ(ポメ化中)は普段消極的なルリの大胆な行動に毛を逆立てて一瞬固まり、そして目のやり場に困って顔を背けながらもはち切れんばかりに左右に尻尾を振った。
そんな照れながら尻尾を振るリヴァイの様子がまた可愛くて、残業の疲れが嘘のように飛んでいく。
ルリはリヴァイとの一連のただいまの挨拶を終えると、「リヴァイさんふわふわだね〜」と頬ずりしながらパンプスを脱ぎリビングに向かう。普段リヴァイにはこんな大胆に甘えられないが、ポメ化していたら目の前にいるのは当たり前だが「犬」なので恥ずかしさなんて気にならず全力で愛情表現できる。
ルリはリヴァイと戯れながらリビングに入ると、彼がポメ化した時に落としたであろうスマホをラグから拾い上げ「早く帰ってこいって打ったんですよね?最近帰りが遅くてごめんなさい。」と話かけながらローテーブルに置き、ソファーに腰掛けた。
さぁ、これからリヴァイを人に戻すための大切なスキンシップタイムの始まりだ。
「リヴァイさんさっき扉を開けようとしてました?ダメですよそんな事しちゃ、外は車や自転車で小型犬が歩くには危険がいっぱいですから。というかポメの状態で何でオートロックの扉開けれちゃうかな〜。」
「ハッハッハッハッ」
「え?自分は最強のポメだから大丈夫だって?何言ってるんですか!私が引っ越して来てすぐに、スマホ置いたまま全然帰ってこないからってポメ化して本物の希少な黒いポメラニアンだと思われて白金のマダムに連れていかれそうになってたじゃないですか!」
「ワンッ!」
「それはジャーキー持ったババアだったから油断した?可愛い顔してババアなんて吠えちゃダメですよ、ポメになっても口が悪いのはそのままなんだから。。」
ルリは膝の上にリヴァイを乗せてよしよしと撫でる。パートナーを探すために脱走するのは当然のことだと言わんばかりに目の前のポメは鼻を鳴らしてふんぞり返っていた。
この世は男と女、そしてバースタイプと呼ばれる第三の性が存在する摩訶不思議な世界。バースタイプと呼ばれる第三の性、それにはある特性がある。それは…
―寂しさ、疲労等一定のストレスがかかるとアルファとオメガは「ポメラニアン」になり、人に戻るには全力で愛情表現を受けなければならない―
「ルリ、お前今まで生きてきてポメ化したことあるか?」
「それが有り難いことに無いんですよ〜。昔から能天気でそんなにストレスとか感じないんです。」
「いい事じゃねぇか。両親に大切に育てられたんだな」
「でもリヴァイさんと暮らしたら少し離れただけでポメ化しちゃうかも…ほら、パートナーのアルファが近くに居ないとオメガって不安定になるらしいじゃないですか。」
「なるべく不安にさせねぇようにする。疲れたりしたらすぐに言えよ。だがお前のポメ姿も見てみてぇな…きっと毛色が真っ白で愛くるしいんだろうな」
「も〜やだ恥ずかし〜!リヴァイさんったら〜!」
―――
――
「っていう会話最初してましたよね〜!普通はオメガがポメになるそうですけどまさかアルファのリヴァイさんの方が適性があるなんてその時は思わなかったですもんね〜!」
「ウ゛ゥ…」
「あはは!そんなしょげないで下さいよ~!もう可愛いんだから〜!」
リヴァイを膝の上で対面になる様に仰向けにしてお腹や耳の後ろ、真っ黒でプニプニの肉球を優しく撫でたり揉んだりしてマッサージしていく。ルリを心配するあまりリヴァイは何度かポメ化した事があるが、このスキンシップが彼にとって一番落ち着くようで目の前のポメラニアンは気持ちよさげに目を細めてルリの細い指を受け入れている。
「ふふ、リヴァイさん気持ちいいんですね?脚がピンと伸びちゃってる。」
「クゥン…」
「なにその鳴き方かわいい〜!それにワンちゃんなのに清潔感たっぷりのこの匂い一体何なんですか〜!もうリヴァイさん大大大好き!わぁっ?!」
「嗅ぎすぎだ」
もう全てが愛おしくてリヴァイを抱き上げて首元に顔を埋めながらどちらが犬が分からない位クンクン匂いを嗅いでいたら突然ボフンと音がして、次の瞬間にはソファーに押し倒されていた。
「あ?あれ?リヴァイさん戻ったんですね!」
「みてぇだな」
ルリをソファーに押し倒していたのはポメ…ではなく、黒髪のいかにもアルファらしい端整な顔立ちをした成人男性。一応彼の名誉の為に言うがちゃんと服は着ている。
彼がルリのパートナーであり顔に似合わず最近やたらポメ化する珍しいアルファだ。
「おかえり。ちゃんと無事に帰ってきたな」
「はい、ただいまリヴァイさん。」
「はぁ…またなっちまった…」
リヴァイはお帰りのキスをルリのまん丸な額にすると、安堵とポメ化して気疲れしたのか脱力し立てていた膝を緩め体重をかけてきた。ジムでトレーニングするのが日課だけあって彼の身体は男性では小柄な方なのに筋肉質でずっしりと重い。
「お、重い…」
「気持ちも重くて悪いな」
「え?」
見上げると、少しバツが悪そうな顔をしているリヴァイが居た。
「お前の事になるとどうにもな…」
「リヴァイさん…」
薄々勘付いていたが、ポメ化の原因はやはり自分だった。リヴァイもこれまでポメ化した事は一度もなかったという。どんなに疲れていても、イライラしても、なった事は一度もないと。それなら、ルリが変わらなければいつまで経ってもリヴァイは自分の意に反してポメ化してしまう。
かわいいけれど、それはストレスを感じているという事。やっぱりよくない。
「リヴァイさん…あの…」
「?」
「私がポメ化しないのは、きっとリヴァイさんが絶対に側に居てくれるっていう安心感があるからなんだと思います。私、もっと早く帰ってこれるように頑張るのでリヴァイさんも安心してください。」
「ルリ…」
「あ、あと…」
こう見えて一匹狼タイプだから、甘え下手で面と向かって言うのは恥ずかしいけれど…
「リ、リヴァイさん私のパートナーになってくれてありがとう。言葉に出して言わないけれどいつも心の中で思ってるよ。これからはちゃんと言葉にして言うね。だ、大好き。」
真っ赤な顔をしてポメの鼻にではなく、愛する人の鼻にさっきした事と同じ事をする。愛情表現は苦手だけど大切な事だと頭ではよくわかってる。
ちょっと間があって、さっきより重さが増したリヴァイが体にのしかかって来た。
「つ、潰れるっ!」
「俺からも一ついいか?」
戯れの重みが無くなり、優しい手つきで前髪をかきあげてくるリヴァイも何か言いたげな顔をしている。
「なんですか?」
「せめて帰りが遅くなる日は連絡が欲しい。夜道は心配だし、あまりにも遅いなら迎えに行く」
「リヴァイさん…ありがとうございます。すみません連絡する習慣なくて。まさかずっと思ってました?」
「…まぁな」
言うタイミングが掴めなかったとリヴァイは少しバツが悪そうに呟いた。不器用ながらもリヴァイは出会った時の誓いを守ってくれていた。ポメ化常習者のヘビー級なキモチ。
「ふふ」
「なんだよ」
「なんでもないです。リヴァイさんの事もっと好きになっただけです。」
意表を突かれたリヴァイの後ろにポメの時みたいに思いっきり左右に揺れるしっぽが見えた気がした。ポメの彼もかわいいけれど、やっぱり人のままの彼がいい。
人と人となら互いに滑らかな肌を触れ合わせて、愛を囁きあえる。
それに適正な重みと温もりを感じながら寄り添い合えることは、きっと世界で一番素晴らしくて幸せな時間だから。