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ちょうどピークの昼時を過ぎた頃だが、店内は学生から主婦まで様々な客層で賑わっている。ファミレスに来るなんていつぶりだろう?と考えながら出迎えてくれた店員に後から友人が来ると告げ、二人がけではなく余裕のある四人がけのテーブル席に案内してもらった。
「ご注文お決まりになりましたらお呼びくださ〜い!」
「あ…はい。。」
頼むものはアイスティーと決めていたので案内してくれた店員にそのまま注文をしようと思っていたのに、店員はお決まりの台詞を言いそそくさと去っていってしまった。なかなか忙しいらしい。まぁ遅刻の常習犯である友人はまだ来ないことは分かっているから、急がずゆっくりしようと何気なくテーブルの隅に置かれていたメニュー表を開いた。
「へぇ~…やるじゃん。」
あまり期待してなかったが、ファミレスらしからぬ豊富なデザートメニュー。期間限定の季節モノから、定番のものまで。デザートにはちょっとうるさい方なのでメニュー表を隅から隅まで興味津々に眺める。
アイスティーだけ頼もうと思っていたがこれは前言撤回。左手首の内側の時計をチラリと見る。
時刻は約束の時間3分前。
(頼もっと。)
決めたのとタイミングよく通りかかった店員に声をかけたのは同時。どうせあのルーズな眼鏡の友人はあと30分は来ない、限りある時間は自分にとって有意義に使わせてもらうとしよう。わかっているのにいつもクソ真面目に5分前行動を取ってしまう自分が時々恨めしくなる。
メニュー表を指さしながら注文し終え、他のメニューはどんなものかともう一つのメニュー表に手を伸ばし捲りだしたその時だった。
「オイオイ、こんな時間からがっつり食うつもりかよ」
「え?」
突然声をかけられて、バッと顔をあげると目の前に目つきの悪い小柄な男が立っていた。
「あいつはまだ来てねぇのか?ったく言い出した奴が遅刻しやがって…」
「…?」
「あんた昼飯食ってねぇのか?こんな時間にハンバーグなんぞ食ったら晩飯食えなくなるぞ。それともあれか、痩せてんのにやたら食えるとかいう類の人間か」
「あの、、どちら様です?」
「あ?」
当然のように目の前の椅子に腰掛けて、店員が持ってきたおしぼりで神経質そうに指一本一本を拭きながら一人で勝手にペラペラ喋っている男に全力でツッコミをいれた。自分はハンジという時間にルーズな女友達と待ち合わせしてしている訳で、こんな無礼な男と待ち合わせてなんかしていない。
「ハンジから何も聞いてねぇのか?」
「聞いてませんけど…」
「チッ、面倒くせぇな…」
なんかあからさまに不機嫌に舌打ちされるとイラッとくる。別にこっちは友人を待っていただけでお前なんて待っていない。そもそも悪いことなんてひとつもしてない。この男は人を苛つかせるプロなのだろうか。
「リヴァイだ。リヴァイ・アッカーマン。ハンジとは職場の同僚で、あんたと会えば先月あいつが行った旅行先で買った入手困難の希少な茶葉をやると言われたからここに来た。ただそれだけだ」
「誰だお前」という心の叫びが伝わったのか、男はめんどくさそうに簡単に自己紹介をした。
要約するに、この男は物につられてやってきたらしい。背もたれにふんぞり返り、腕を脚を組みながら偉そうに喋る内容では決してないと思うが。なんて返せばいいかわからず黙っていたら「人の名前言わせといて自分はだんまりかよ」とつべこべい言い出したので仕方なくこちらも名前を名乗った。
「ルリです。ハンジとは幼馴染みの腐れ縁です。よくかりましたね、私がハンジの友達って。」
「普段からあいつに聞いてた容姿と一致してたし店内で一人だけぼっちだったからすぐに分かった」
「そうですか…(ぼっち言うな)」
よく見ると彼の容姿もそれとなくハンジから聞いていた人物に似ている。たぶんこのリヴァイという男がしきりに自分に紹介したがっていた人物だ。
黒髪で、色白で、目つきと口が悪くて、紅茶と掃除が好きな結構喋る奴。
2年前に彼氏と別れ、今は自由気ままにフリーを謳歌しているので別に紹介しなくていいって何度も断っていたのにハンジから「お願い会うだけでも!」と何度も言われたからよく覚えている。
これは…なんだかはめられた気がするぞ?
まさかと思ってLINEを確認すると、「15 分くらいしたらそっち行くね!きっと彼の事気にいると思う!二人の時間楽しんで!」とメッセージが届いていた。
「はぁ〜…」
「どうした?」
無言でリヴァイの顔の前に自分のスマホ画面を掲げてみせる。リヴァイも自分と同じ事を思ったようで「クッソ頭の悪い事をしやがる」と悪態をついた。
「帰りますか。」
「あ?」
「だってここに居たって意味無いですもん。」
ハンジには悪いがこの面倒くさい遊びには到底付き合っていられない。初対面の人と当たり障りなく会話するのは仕事だけで結構。このリヴァイとかいう態度のでかい男とは一ミリも気が合うことはないだろう。
「待て」
「?」
立ち上がったところで突然手首を掴まれた。細い手首に見た目にはそぐわない節のある大きな手がくるりとブレスレットみたいに巻き付いている。解こうにも、鍛えているのか全然びくともしない。
「ちょっと、離してください。」
「茶葉をもらう為にはあんたと15分話さなきゃならねぇ。ここまで来たら付き合え」
「はぁ?なにそれ、あなたの都合なんて知らないし!」
「馬鹿、声がでけぇ」
何事かと前と後のファミリー席、それから隣の二人席の客達がこちらを見ている。男が女の手を引っ張っている構図。周りは別れ話のもつれなんて思ってるかもしれない。
「馬鹿とはなんですか馬鹿とは。はぁっ、もうヤダ。折角の休みなのになんであなたみたいな人と話さなきゃならないの」
「おい、落ち着け。お前結構短気って言われるだろ。もちろんただとは言わねぇ、茶葉を貰ったら礼にお前にも一杯淹れてやる」
「はぁ?そんなん要らないし。あなたさっきから茶葉茶葉っていい加減に…」
「おまたせいたしました〜!『季節限定恋する苺パフェ』でございまぁ〜す!」
失礼な紅茶男との会話に普段温厚だけど流石に堪忍袋の緒が切れそうになりかけた時、にこやかな店員の女の子が注文したことをすっかり忘れていたパフェを持ってきた。そして仕事が次々に入っているようで、立っているルリに見向きもせず「ごゆっくりどうぞ〜!」とテーブルの真ん中にパフェを置いてレシートを透明な斜筒にスポッと挿し込み、先程のようにそそくさと去っていった。
「あ…」
「頼んでたのか?これはまた中々のボリュームだな」
「写真で見るより大きいんだけど…全部食べれるかな」
とりあえず椅子に座り直してまじまじとパフェを見る。リヴァイもルリがこんな大きなパフェを頼むのが意外だったようでちょっとだけ驚いていた。
写真で見た時はこんなにも立派だと思わなかったのだ。見事な苺のタワーを今しがた会った男と両側から挟み、可愛くおめかしされた苺達を困惑した表情でしばし眺める。
「…あの、一緒に食べませんか?」
「あ?」
「流石にこれだけ大きいと一人じゃ食べれないなって…残すのは作ってくれた人に申し訳ないから。ただ、あなたがよければの話ですけど。」
ここで一人で見栄を張っても残すのは目に見えている。15分待てばハンジは来るがそれまでにアイスは溶けてしまうし、不本意だが目の前の男に協力を依頼するしか他ない。
淹れてやるだなんて上から目線の態度のでかい奴に頼むのが癪にさわって、一番てっぺんの尖った苺を口を尖らせてムスッと見ていたら「ふっ」っと鼻で笑ったような気配がした。
「いいぜ。ちょうど時間も潰れるしな」
「…ありがとう(笑った…)」
リヴァイは静かに手を挙げると、近づいてきた店員にスプーンをもう一つ追加で持ってくるよう依頼した。
「先食べろよ。ここ溶けてるぞ」
「わっ、溶けるの早い!いただきます!」
リヴァイに指摘された部分のバニラアイスを急いでスプーンで掬い、その上にたっぷりの生クリームと大きな苺をサンタクロースの三角帽子のようにちょこんとのせる。
(うわぁ…)
もちろん食べたくて頼んだ訳なので、ここにきて思いっきり期待値が上がってきた。そして宝物を扱うように、ゆっくりと口の中に入れた。
「ん〜!」
ほっぺが落ちるとはこのことか。
濃厚な生クリームと、バニラアイスの冷たさと、苺の爽やかな酸味がベストマッチしている。どこぞの高級パーラーのパフェに負けてない、想像以上に美味しい!
「うまいか?」
「うん、おいひ〜!」
「うまそうに食うな、お前」
「え?」
パフェ越しのリヴァイは頬杖を付きながらこちらが食べている様子をまんざらもなく見ている。今気づいたが、よく見ると男前の部類に入りそうな整った顔つきをしていた。
「おい、次はこっちが崩れてきてる」
「うそ!まだ口の中入ってる!」
さっき思いっきりアイスと苺を掬ってしまったからか今度はリヴァイ側の苺がアイスの上を滑り落ちそうに危うくなっていた。
「早く取れ、落ちてきてる」
「ん…そんな事、言われても…」
口元に手を当て全力で咀嚼するが口の中が拷問並に冷たいし、昔から食べるのは亀みたいに遅い。それよりもこのパフェ溶けるの早すぎないか?きっとキッチンが戦場になっててバイトの子が冷凍庫にアイスを戻さずに急いで作ったに違いない。飲食店のバイト経験があるからなんとなく事情が分かる。もっとゆっくりと味わいたいのに…
でもクルリとパフェを回転させたのが悪かった。その拍子に半分に切られた苺がとろりとアイスの上を滑っていく。
「わ、落ちるっ!ねぇ食べて!」
「は?まだスプーンが…」
「いいから早く!」
「おいっ…」
間一髪ガラスの器から落ちるところギリギリでスプーンにキャッチした苺やらアイスやらを腕を伸ばしてリヴァイの口の前にズイッと差し出す。
リヴァイがなにか言いたげな視線を送ってきたが、スプーンとさっさと食べろというルリの圧力に負けたのか控えめだが口を開いてくれた。
「どう?結構美味しいよね?あ、ごめん入れすぎちゃった?」
「………」
モゴモゴと閉じた口を動かしながらリスみたいに頬を動かし続けているリヴァイに感想を聞いてみるが、喋らないのか喋られないのか、彼は神妙な顔つきで咀嚼を繰り返す。その様子を見て必死に小さめの口を動かしている彼が小動物みたいに見えてちょっとおかしくなってしまった。いや、これは失礼だから流石に言わないが。
「お前…こういうの平気なんだな…」
「え?何が?」
リヴァイがやっと食べ終えて、一瞬こちらを見たがすぐに視線は外れてしまった。
「だから……スプーンまでシェアすんの」
「あ」
リヴァイが喋りながらおしぼりで口の端を神経質そうに拭っている。それを見てはじめて自分がやらかした失態に気がつき、口の中は冷たいままなのに頬だけ熱が上がった。リヴァイもルリの様子を見て口もとに手を持ってきて頬杖をつくとメニュー表の方にそっぽを向いてしまった。
気まずい沈黙
そのタイミングでさっきの店員の女の子がやってきて、「ごゆっくりどうぞ〜」とリヴァイの前にペーパーナプキンの上にセットしたスプーンを置いていった。
「ご、ごめん…嫌だったよね…」
今日初めて出会った得体のしれない女の使用済スプーンを口に突っ込まれればそれは不快極まりないだろう。やってしまった。早く苺を救済しなければという一心でとんでもなくデリカシーのない事をしてしまった。
冷や汗が流れる。
早く15分経ってほしい。
元凶を作ったハンジはまだか。
「…ったく、口開けろよ」
「え?」
いたたまれない空気になったが、リヴァイがため息を付き、目の前に用意されたスプーンを手にとる。そして何も言わずルリの口の前に一番てっぺんにあった大きな苺をズイッと差し出してきた。しかもアイスと生クリームを添えて口に入るか入らないかの超特大サイズで。
「お前がこれ食ったらチャラだ。早くしろ苺女」
「え、え〜…」
今度はリヴァイがスプーンを無遠慮にズイッと差し出してくる。異性に食べさせてもらうなんて経験無いから顔から火が出そうに恥ずかしい。そっか、彼もきっとこんな羞恥心に苛まれたんだな。
仕返しとばかりに迫ってくるスプーンとリヴァイ。そんなに見つめないで欲しい。なんだかすごく恥ずかしい。
でもその鋭い眼光から逃れる事は出来なくて、とうとうぱかっと口を開けリヴァイからの「はいあーん」を受け入れた。
「どうだ?」
「ん…おいひぃ…(あれ?)」
なんだか、さっきよりも甘く感じる?
「ほんと美味そうに食うよな、お前」
頬杖を付きながら仕返しに満足したのか楽しそうに目を細めた男が目の前に座っていることが、なんだか急に気恥ずかしくなって落ち着かない。心臓がドクドク言っている。いくら冷たいアイスを食べてもこの胸の火照りだけは取れない気がする。
「どうした?」
「べ、別にっ」
居ても立っても居られず、テーブルの端のスタンドに立ててあったメニュー表に視線を逸らすと、でかでかと書いてあった。
(うそ…)
『
「…なぁ」
「な、なに?!」
「名前、ルリだったか」
「そ、そうだけど…」
呼び掛けられてリヴァイの方を見ると、彼もまたメニュー表から視線を外したところだった。
「俺ら、付き合ってみるか」
自分の心臓から発せられるドクドクという熱波にやられてしまったのか、またもや苺が溶けかけのアイスの上を転がりだした。
早くしなきゃ、全部溶けちゃう。
早く言わなきゃ、苺が転がりだしたから。
「一つ言っていい?」
「なんだ」
「私も…今同じこと思ってた。」
「はっ、」
目の前に座るさっき知り合ったばかりの男が「ハンジが言ってたとおりだな」とニヤリと笑う。憎たらしいくらいに気になる。自分の事をどう思っているのか。
「…ねぇ、ハンジから私のことなんて聞いてたの?もしかして聞いてよさそうだったから会おうって思ったの?」
「教えねぇ」
「なにそれ、感じわる」
「気が向いたらな」と優しさを含んだいたずらっぽい顔。あぁ…なんかもう止められない気がする。
でもやっぱり上手な感じが悔しくて、またアイスを滑ってきた苺を器用にスプーンてキャッチして苺みたいに頬を真っ赤にさせながらリヴァイの口の中に苺を放り込んでやった。
数分後
「ふたりともお待たせ〜!で、どうだった?!連絡先ぐらいは…」
「「付き合う事になった」」
驚ハンジの眼鏡はきれいに放物線を画いて落ちていった。