イノセント・フラッグ
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「…雄英高校、ヒーロー科志望か」
「やっぱり、無謀、ですかね……」
んー…と腕を組んで言葉を選んでいる担任の目の前で私は背筋を伸ばして困った様に笑う。今の今まで無個性だった奴が、突然名門を受けると言い出したんだ。そりゃあ、誰だって渋い顔をするだろう。
「澄音の学力からして、筆記は問題ないだろう。……あるとすれば、」
「実技、ですね…」
何て思って身構えていた私は口を開いた担任の言葉に息を吐いた。落ち着いて挑めば合格ラインを越えるだろうと難なく言う担任に緊張していた私は拍子抜けだ。ただ、問題は実技。相澤先生の下で個性のコントロール、オールマイトの下でいずっくんと一緒に体力改造(主に一緒にランニングしたり程度だけど)を春に始めて気が付けば今はもう秋。半年前に比べれば個性のコントロールも体力にも自信がついた。けれども、対人相手にはまだ使った事がないし、結晶の同時使用上限が中々伸びず、不安が山積みだ。
「…悪いな澄音。推薦を取ってやれなくて」
相澤先生に相談してトレーニングメニューを考え直そうか…。そんな事を考えていれば担任が頭を下げた。それに慌てて首を振る。
「いえ!推薦は元々考えてなかったので!寧ろ前向きな言葉を頂けて安心しましたから!」
やめてください先生!そう言えば担任は困った様に眉を下げて笑ったのに一緒になって笑う。
「……しかし、まさかこの学校から雄英志望の生徒が現れるなんてなぁ」
感慨深そうに顎に手を添えた担任が少し嬉しそうに言葉を発した。その言葉を私は、黙ってただ聞いていた。
「ーー失礼いたしました」
ガラッと音を立てて扉を開き、担任にお辞儀をして教室を出る。廊下に控えていた次のクラスメイトにどうぞー、とバトンタッチして昇降口へ向かった。
「……あ、そう言えば今日、卵が安かった気がする…」
下駄箱から靴を出して履き替え、上履きを下駄箱に戻し、校舎を出て校門を潜る。帰路へと続く住宅街を歩いている時ふと思い出した、今朝受け取った朝刊に挟まっていた近所のスーパーのお買得商品が掲載されたチラシ。お一人様2つまでと個数制限されていた卵が安いと見て、久々にオムライスが食べたいと朝から考えたっけ。
「…オムライス…」
思い出したら夕飯の献立がオムライス一択にしかならなくて。因みに、進路調査の面談があると相澤先生に話したらオフをもらった為、今日は相澤先生とのトレーニングはナシだ。
「思い立ったが吉日…!!」
オムライス…!そう呟きながら方向転換をしたら真後ろに誰かいたらしくぶつかってしまった。
「わっ……!」
勢い良くぶつかってしまったらしく、反動で後ろによろける。怪我だけは免れたい…!と受け身を取ろうとした瞬間、ぶつかってしまった相手の方が私の腕を掴んで支えてくれたお陰で転ばずには済んだ。
「ご、ごめんなさい!」
「いや…」
「!!」
俺こそ悪い…。バツの悪そうに目線を下げた、目の前の人物に驚いて固まる。え……?待って……?そんな事ある……?
固まった私に疑問を持ったのか、目の前の人物はこてん、と首を傾げた。その拍子にサラサラな髪が揺れる。
「おい、大丈夫か」
「!だ、大丈夫!です!」
うわぁあああ…!やっぱりイケメンだよ…!格好良いよ…!目の前に…!推しが…!いる…!うわぁあああ…!!何て突然のエンカウントにより、心の中で荒ぶるも表には出さずに。落ち着け…落ち着け…と自分に言い聞かせながら静かに深く息を吐いた。
「…君は、どこも怪我してない?」
「ああ」
「それは良かった!ごめんね!思いっきりぶつかって!」
両手を合わせて謝れば、目の前の人物は平気だから謝んな。と言った言葉に安心する。
「そっか!…それじゃあ、私急いでるのでここで!」
推しが目の前にいて、まだもう少し一緒にいたいけど、スーパーのお買得卵は待ってはくれない。口はもうオムライスの気分なんだ。ここで卵が買えなかったら泣いちゃう。そんな気持ちが私を急かす。早口でそう言ってその場を離れようとしたら突然腕を掴まれた。
「うぇっ……!?」
後ろに引っ張られ元の位置に戻される。えーっと…と首を傾げれば視線を地面に落としていた彼が静かに口を開いた。
07
(スーパーが分からない)
(そう言った彼が可愛くて)
(思わず笑みが溢れた)
20190727