イノセント・フラッグ
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「ヘイヘイヘイヘイ何て座り心地の良い冷蔵庫だよ!」
「……」
朝6時の市営多古場海浜公園。海流物や不法投棄のゴミが山となり、ここ数年で浜辺と言う役割を全うできず、地元の人間は寄り付かなくなった場所。そんな場所に、オールマイトはいずっくんのトレーニングには持ってこいと笑った。
「私考案!!゛目指せ合格アメリカンドリームプラン゛!!!」
ぶっちゃけね、超ハードこれ。ついてこれるかな!?いずっくんの肩を叩いて言ったオールマイトに汗を流しながらいずっくんは他の人より何倍も頑張らないと僕はダメなんだ……!!と決意したのを私、澄音結希は他人事の様に眺めていた。
いやね、他人事なんですよ。何なら名シーンだわ何てテンション上がってたりしますよ、ええ。でもそれよりも、昨日の相澤先生との会話を思い出し、そして手の中で転がしている結晶を眺めて小さく溜息を吐いた。
「ーーわ、たしの…両親が、」
死んでる…?震える声をそのままに言葉を吐き出せば、そうだ。と頷いて資料を差し出された。それを奪い取る様な形で受け取り、穴が開く程隅々まで目を凝らす。
「…その資料によるとお前が生まれて数ヵ月後、家に入った空き巣狙いの敵に出会し、お前を守って死んでいたと報告がある」
「……」
「…そして、通報があり家へ向かった刑事が目にしたのは、」
「……赤ん坊の私が、゛母゛の個性を使っていた……」
そうだ。静かに頷いた相澤先生はだが、それ以来お前は個性を発動せず、検査をしてみても無個性と診断されたんだ。と言葉を続ける。
「……いやいやいや、嘘ですよこれ。だって、私の両親は、」
そこまで言って相澤先生とリカバリーガールを見れば、リカバリーガールは眉を下げて目を伏せ、相澤先生は何とも言えない表情で頭を優しく撫でた。その優しさが辛くて苦しくて。頬を伝う何かに気づかぬフリも出来ずに制服の袖でそれを拭った。
「…本当は…何となく、気付いてました…だって、書いた手紙、戻ってきたんですもん…」
嗚咽混じりに途切れ途切れ喋る。1度だけ、両親に手紙を出した事があった。今思えば住所もわからず、両親の名前と自分の名前、そして切手を貼っただけの手紙が届かないのは当たり前だが。あの時は何で?と良くわからず、そして考えない様に記憶の片隅に蓋をしたんだ。だから、本当はわかってた、知っていた。私の両親が、この世界にいない事を。
「…でも、そしたら、毎月振り込まれる生活費は?母から受け継いだって言うこの個性の意味は?両親じゃないなら、誰、ですか…?」
ポンポンと今だに優しく頭を撫でる相澤先生に問い質す。涙目でぐちゃぐちゃであろう顔を上げて相澤先生を見れば、今度は相澤先生が目を伏せた。
「……その事に関しては、何も分からない」
「そう、ですか…」
「ちょっと良いかい?」
すまない。と謝る相澤先生に、いえ、謝らないで下さい。と伝えていれば、今まで口を結んでいたリカバリーガールが口を開いた。
「婆さんどうした?」
「結希、」
「あ、はい」
「あんたの両親の話をし始めてからあんたの頭上、」
「頭上?」
指差された頭上を疑問符を浮かべながら見れば、何やらキラキラした何かがふわふわと舞っていて。なんだろう、と少し沸いた興味に両手を伸ばした。
「おい、危ないものだったらどうするんだ」
「あ、つい…」
「危機感がなってないねぇ」
「あはは…」
パシッと掴んだ何かが手の中で質量を変えたのに驚く。そんな私をみて、どうした!?と焦る相澤先生に手を向ける。
「……結晶?」
両手を開いて中を見れば、先程まで私の頭上でキラキラと舞っていた何かは、1cmにも満たない菱形をしているものが2つ。どちらも透き通っており、1つは奥まで見え、もう1つは結晶の中で何かがパチパチと弾けていた。
「何だね?それ」
首を傾げるリカバリーガールと相澤先生は、これ…と発した私の言葉の続きを待っている。私、これ知ってる。否、知ってるも何も、これがーー
「私の、゛個性゛…」
カチャリ。と結晶の重なる音を聞きながら呟く。ぶっちゃけ、私が考えた魔法、なのだか。考えたのは私だけど、結晶になる、何て設定は作らなかったからなぁ。はぁあ…。と何度目かの溜息を吐いていればオールマイトが此方を向いた。
「澄音少女、」
呼ばれた自分の名前に今まで結晶を眺めていた顔を上げる。先程までマッスルフォームでいずっくんと喋っていたオールマイトは、私の元へ来る途中にトゥルーフォームに戻ったらしく、ひょろひょろの骨々しい姿で優しく笑った。
「すまないね、君は一切関係ないのに…」
「いえ…私が空気も読めずに顔を出してしまったのが原因ですし…」
両手を顔の前で合わせて申し訳なさそうに眉を下げたオールマイトに頭を下げれば、頭をあげてくれないかい?と慌てられた。
「いや…もう本当…聞いちゃいけない話をしてらっしゃったのに…まさか…私が聞いてしまうなんて…!」
「こらこらこら!自分を責めないでくれ!」
元々はあんな場所で喋った私の責任さ!HAHAHA!と笑うオールマイトにもう一度、すみません…と謝るとニコリと優しく笑い、頭をそっと撫でられた。
「寧ろ、本当に謝らなくちゃいけないのは私の方さ。…無関係な君が、私達の話を聞いてしまった。それは即ち、」
命を狙われるかもしれない…。そう言ったオールマイトが悲しそうに笑ったのにどうしたら良いのかわからない。私が聞いた話、それはオールマイトの個性、ワン・フォー・オールは代々受け継がれてきた力の結晶と言う事と、いずっくんが後継にぴったりだ、という事。それだけなら命を狙われる事はないと信じたいけれど、多分、オールマイトは私がこの話を聞いてしまったから巨悪、オール・フォー・ワンの話をしようと決意しているのかもしれない。でも、オール・フォー・ワンの話はいずっくんだって後程知るんだ。だったら私だって、まだ聞くはずがない。……なら、
「何言ってるんですかオールマイト!…確かに、聞いちゃいけない話を聞いたのは私です。でも、゛継承されてきた個性゛、゛No.1ヒーローが後継者を探していた゛だけで命を狙われる心配はないと思いますよ!!」
それに私、個性強いんですよ!ニコッと笑って元気に答える。今私が言える、オールマイトを安心させられる言葉はこれぐらいしか思い付かない。グッと思わず握った拳を気づかれない様に体の後ろに隠す。口に出したら正直怖くなった。だって、今まで個性のない世界にいて、記憶が戻ったと思ったら(私が作ったのだけれど、)強個性所持者で。発現してからまだ2日。いずっくんと同様個性を扱えていない。そんな私が、今命を狙われたとして、自衛が出来る…?
「…気を使わせてしまったね」
「そんな事…」
ポンポンッとまた頭を優しく撫でられた。私よりも一回りも二回りも大きい手。その手に優しく撫でられると、相澤先生とは違う、安心感があって泣きそうになった。そんな最中に鳴り出したアラームに肩を思いっきり跳ねさせる。
「おっと、もうこんな時間か」
オールマイトがポケットから出したアラームの鳴った携帯を取りだし、アラームを止め、時間を確認していずっくんを呼ぶ。
「緑谷少年!今日は終了だ!!」
学校に遅れてしまうよ!そう言ったオールマイトの声が聞こえ、先程まで一ミリも動かない冷蔵庫を引っ張っていたいずっくんの集中力が切れたのかへにゃへにゃ…とその場に倒れた。
「あ、あの!これ…」
パタパタパタ…!といずっくんに駆け寄り、スッと持ってきていたタオルとスポーツドリンクを鞄から出して渡す。お疲れ様です!と声をかければ、ひ、ひゃいっ!と顔を赤くしたいずっくんに可愛いなぁ…!と思わず顔が緩んだ。
05
(いずっくんとオールマイトと別れて)
(゛強くなりたい゛と考えて立ち止まる)
(もしかして私、)
(外堀から埋められた……?)
20190709