イノセント・フラッグ
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「お前、体調悪いだろ」
「え」
向けられた視線に戸惑っていればハア、と溜息1つ溢された。
今朝、いずっくんの痛みを受け取ってから動かす度に悲鳴をあげる自身の体に気付かないフリをして迎えた放課後。何時も通り雄英へと赴き、相澤先生に指南してもらう。何もかもが何時も通りだった筈。その筈なのに、私の目の前にいる子供に興味の無さそうな彼は意図も容易く見破った。
「えっと…」
「……」
この場をどう乗り越えようか、何て視線をさ迷わせていれば少しずつ近づいてくる先生に思わず後ずさる。私よりも約30㎝程も高い大人に上から見下ろされれば怖くなるのも当然だ。あたふたと身ぶり手振りをしながら後ずされば背中に当たる無機物の冷たさに血の気が引いた。後ろへの逃げ場がなくなり、必然的に相澤先生を見上げれば交わる視線。ヒクッと口がひきつるのが分かる。だって、すっごく怒ってる気がするんですよね!怖いんですよね!泣きそうなんですよね!
「…全く、」
「っ!」
ヌッと私の方へ手が伸びたのに怖くなってギュッと目を瞑る。怒られる!何て身構えていればポンポンと優しく頭を撫でられたのに驚いて閉じた目を開く。
「試験まで時間がなくて焦るのも分かる。…だが、もう少し自分を大切にしろ。本番に力を発揮できなければ元も子もないんだぞ」
分かったか?そう言って優しく微笑む相澤先生に胸の鼓動が激しい。やめてくれ。そう言う事に免疫がないんだ。
カァアッ!と全身が熱くなる。あ、とかう、とか言葉にならない言葉を発しながら顔を見られない様に下げれば、どうした?とそんな意図を汲んでくれない相澤先生は私の顔を覗き込んだ。
「……結希、」
「!」
「おーい!イレイザー!」
覗き込んだ相澤先生はとても優しい声で私の名前を呼ぶ。何で名前を呼ぶの…!何時も名字じゃないか…!名前を呼ばれて体が固まる私に伸びてくる手。そのまま、どうにかなってしまいそうな時、突然現れた第3者の声が演習場に木霊したのに慌てて二人して距離を取る。バクバクと脈打つ鼓動によろよろ、と座り込む私とそっぽを向いた相澤先生を交互に見て、声を発した人物はお前らどうした?と首を傾げた。
「何でもない、デス…」
「…何の用だ」
「扱いが酷い!」
こいつはヘビーだな!何てケラケラ笑うその人はズボンのポケットに両手を突っ込んで此方へ歩いてくる。
「校長から呼び出しだぜ、イレイザー」
「…そうか」
「なあ、本当にどうした?」
こっち向けよ。煩い。そんな会話を続ける二人を他所に、未だに鳴り止まない鼓動を必死に落ち着かせようと深く息を吸って吐く。そうやって深呼吸を何度かしていれば、突然静かになった演習場に不思議に思って後ろを振り返る。
「?……うわぁ!?」
「おっと悪いな!」
振り返った矢先、あと少しで額がぶつかるくらいの距離に人の顔があって思わず肩を揺らす。そんな私を見て、もう一度ケラケラと笑う目の前の人物。
「…マイク、やめてやれ」
「いや悪い!反応が面白くってな!」
「……っ酷い!」
折角落ち着かせた鼓動がまた激しく脈打つ。今度は先程ととは違うドキドキが押し寄せていて。思わず涙目になりながら今だにケラケラと笑う人物、プレゼント・マイクに笑いすぎです!と叫ぶ。
「マイク」
「悪い悪い!」
気を悪くしないでくれな!相澤先生に低く名前を呼ばれて本当に悪いと思ったのか、笑うのをやめて困った様に眉を下げて頭を撫でてくれるプレゼント・マイクに悪気がないのわかったので大丈夫です。と笑いかける。
「…澄音」
「あ、はい!」
そんなこんなでプレゼント・マイクに頭を撫でられ続けていれば私を呼ぶ声に反応する。名字へと呼び方が戻ってしまった事にほんの少しだけ残念だなとガッカリしていたのは内緒だ。
「俺はこれから校長と話してくる。お前は今日は婆さん所に寄って帰れ」
体調悪いんだろ。そう言いながら此方まで歩いてきて同じ目線になる様にしゃがむ相澤先生に…仰る通りです…。と苦虫を噛み潰した様な表情して視線を床に落とせばポンッと頭に乗る手の温もり。先程まであった手よりも優しく、壊れ物を触るかの様な撫で方に収まった筈の熱が込み上げる。
「…無茶はするなよ」
その言葉に思わず顔をあげたのがいけなかった。名残惜しそうに離れた手を自身のポケットに突っ込んだ相澤先生は、プレゼント・マイクに後は頼んだ。と一言声をかけて出口へと足を運ぶ。
「…嬢ちゃん、大丈夫か?」
「無、理……」
ガラガラッと音を立てて閉まる扉と同時にへなへな…と床に倒れ込む。指先まで熱を帯びた体は当分落ち着いてはくれなさそうだ。
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(今まで見た中で一番優しい顔をして)
(笑った先生に)
(心が持ちそうにありません…!)
20191014
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