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月夜綺譚


目が覚めると、大半の夢は覚えてない事が多い。幸せな夢だったのにとか、覚えておかなきゃとか、怖い夢見たなとか。残しておきたくない夢もあるけど、覚えておきたい夢もあって、そういう大切な夢の事をノートに書き残すか、何て考えて朝起きて見ても、結局は覚えておけず、ペンを片手に固まって。そんな日々が当たり前だったのに。

「はは…リアルだなぁ…」

ぽたり。頬を伝い、溢れた滴は布団に吸い込まれて痕をつけた。

「世界とか軍とか侵略とか…傍に魔王様がいるのに…」

リアルだなと驚いた。それと同時に、あれは確かにどこか遠くにある世界だと受け入れる自分に笑ってしまった。

「悲しい訳じゃない。あの物語の結末はハッピーエンドだった。それなのに何で、」

こんなにも涙が溢れるのだろうか。…何て、理由は分かってる。あの世界の゛俺゛は呑気に笑ってたけど、本当はきっと、辛かったんだ。怖かったんだ。
突然の一斉攻撃。始さんが異世界から来た、存在しなかった『始まり』のいない世界。全員がバラバラになり、生死が問われたあの数時間。守ると誓い、守らなければと奮い立たせて前線で戦う時も不安で怖くて。きっと救われる、救ってくれると信じていても、その後の事を考えると辛くて切なくて、きっと本当は泣きたかったんだと思うんだ。

「だから代わりに、俺が泣くよ。…その代わり、そっちの゛俺゛は笑っていてよ」

大切な人達の傍で、いつまでも俺らしく、終わりのその時まで。それが、この記憶を所持したこの世界に生きる俺の願い。

「新ー?」

起きてる?コンコンッと軽く扉を叩いて確認をとる葵に起きてるぞー。と軽く返事をすれば、朝食出来たよ。共有ルームで待ってるね。と言って足音が遠退く。

「…始さんでも隼さんでもない俺が何でって感じたけど。そうだな…あの2人風に言うなれば、」

゛『想い』の強さが、形となって具現化する。゛そう言った始さんと隼さんが目を細めて笑っていたのを思い出し、確かにと頷いた。

「…俺の想いはな、」

布団から起き上がり、天に向かって腕を上げてんんーっと伸びる。開け放ったカーテンから差し込む日差しはとても暖かくて、自然と笑みが溢れた。


月光サンダーソニア
(変わらず笑顔で俺らしく)
(始さん達を守ってあげて)
(遠い彼方の、何処かの世界の俺へ)

20190331

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新は、考えてない様に見えて色々と考えていて、おばかさんに見えて頭の回転は速い人だと私は思っています。『俺の第六感が~』と常々言っている彼ですが、その言葉の中には彼なりに考えた思想が含まれているのではと。
それから、今回の舞台を観て新は始さんまではいかないけれど、それなりに力を持っているんじゃないかなって。2幕の時もそうですけど、違う世界の彼は大体物語の中心にいるなってずっと思っていて。違うかもしれないけれど、そういう見方をするとまた違った観劇の仕方が出来て、結構楽しかったです。そういう思いが伝わればと(笑
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