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月夜綺譚


ーー終わりたくないな…。

そんな声が聞こえた気がした。前を歩く春達を遠目に立ち止まり、振り返る。そして辺りを見渡す。しかし、声の主は何処にもおらず。

「始?」

どうしたの?俺の元まで駆け寄ってきた春がこてんと首を傾げて問い掛けた。その言葉に目を伏せ、いや、何でもない。と返して歩き出す。

「そう?なら良いんだ」
「…なあ、」

春。そう言葉を続けようとすれば、前方から始さーん!と俺を呼ぶ恋の声が聞こえてきて。

「始さん!早くしないと駆さんがお腹すいて泣いてますよ!」
「ううっ……始さん、お腹す……ぴやぁああああ!!」
「こらこら駆。始さんを困らせないの」
「そうだぞ駆。俺だってお腹すいて動きたくないんだから」
「新、そこは動こうよ…」

わちゃわちゃと騒がしい面々に思わず笑みが溢れた。それを見逃さなかった春が小さく平和だね。と呟く。

「…そうだな」
「ねえ、始」
「何だ?」

皆の元へと歩き出した俺よりも半歩前を歩いていた春がそっと背中を叩いた。

「俺が後ろにいるから。だから始、いってらっしゃい」
「春…」
「俺だけじゃないよ。ここには、始の周りには、恋や駆、新に葵くん、そしてプロセラの皆がいる。だから、大丈夫」

ね?ニコリと笑った春は前を向き、そして歩き出す。その動作を目で追えば、少し先で俺の名前を呼んで、笑う面々がいて。

「……そうだな」

だから俺は、前を向ける。ふっと溢れた笑みを浮かべ、歩き出す。

「俺はそっちに行けないが、想う事はできる」

だから願おう。そっちの世界を救ってやってくれ、と。そうして、優しく吹き抜ける風が俺の気持ちを乗せて高く遠く舞い上がった。




ーーあの日、僕の前に君は突然現れた。その出逢いはこの世界を救って。『終わり』を待つだけのこの世界で、君は色んな可能性の『始まり』を携えて、この世界を希望で満たしてくれた。希望に満ちたこの世界は、これから先どうなるんだろうか。゛彼ら゛と上手くやれるだろうか。世界は良い方向に向かうだろうか。僕の愛したこの世界の住民は、また笑ってくれるだろうか。…何て、沢山の不安がある。けれど、それだけじゃないんだ。だって、

「おーい!」

隼ー!隼さーん!僕の名前を呼んで駆け寄ってくる大切で愛しい子達が笑ってる。その後ろでのんびりこちらに向かってくる子達は僕の隣にいる人物を見て笑った。それが。それだけで、僕もやっぱり笑えるんだ。

「……ねえ始、」
「……何だ」

僕ね。皆の事が、大好きなんだ。そう言って笑えば、知ってる。と一緒になって笑ってくれた。


朧月エンパイア
(あの日、世界の中心で叫んだ心は)
(遠い彼方の違う世界にいる君に届き)
(そして、世界は形を変える)

20190331
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