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ふと風と一緒に漂ってきた優しい甘い香りに、あの小さな橙色の花を思い浮かべた。キキィッと音を出して止まった自転車から片足を降ろして辺りを見渡す。それらしい木々は近くにない。もう少し向こうかな。と降ろしていた足をペダルに掛けて、もう一度力一杯ペダルを回す。
「…あった」
あの花が好きな理由は何でだっけ。辺りをキョロキョロと見渡しながら自分に問いかけるも、答えは曖昧で不明瞭で。改めてもう一度、何でだっけ。と考えた頃にその花を見つけた。
「……うん」
深く吸った息をゆっくり静かに吐く。五分咲きのそれは、まだそんなに開花していないにも関わらず好きな匂いだった。その匂いだけで季節が変わった様な気がしたのは、本当に何となく、気がするだけ。気温が下がったとか、夕陽が沈むのが早いだとか、そういう簡単な理由で片付けられるようなことではなく、本当に何となく。
「あれ、」
風丸?目を瞑って花の香りを満喫していれば、突然呼ばれた名前に目を開ける。呼んだ本人を見れば目を丸くして驚いていたが、少ししてからへらりと笑った。
「風隠」
「こんな所でどうしたの?」
そう言って首を傾げたタイミングでふわりと風が頬を撫でる。それと同時に漂ってきた香りにあ、金木犀だ。と香りのした方へ顔を向けた。
「良い匂いだな」
「だねー」
秋だなぁ。ふふっと肩を揺らして笑う風隠にどうした?と聞いた。
「ううん。特に何もないの。ただ、」
好きだなぁって。俺の方を向いてふわりと笑う風隠にドキリと鼓動が早くなった。俺の事を言った訳ではないのに。
「風丸?」
「あ、いや、何でもない」
言葉をつまらせながらも返事を返せば、変な風丸。とまた笑った風隠はでも、と言葉を続けた。
「何か、嬉しいよ」
「何が?」
「風丸も、金木犀好きなんだね」
一緒だね。ふにゃりと頬を緩ませた顔でそう言った風隠は、もう一度金木犀へと視線を向けてうん、良い匂い。と小さく呟いた。
「……ああ、そっか」
何でこの花が好きなのか、やっとわかった。この気持ちにも。
一人で納得して風隠と同じ様に金木犀を見る。ゆっくり息を吸えば香ってくる匂いに自然と頬が緩んだ。
「風隠」
「ん?」
「俺も、好きだよ」
そう言って笑えば、風隠は少し照れた様に笑った。
秋風オスマントス
(君が好きだと言ったものを)
(俺も好きでいたいんだ)
20181004
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