サニーデイ・ソング
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「それじゃあ、練習だー!」
雲一つない晴空の下でその声は遠く、どこまでも響いた。その声に鼓舞されたかの様に続く、おおー!という声を聞きながら、照らされる太陽の日射しに目を細めて暑い…。と呟く。どうしてこうなった。はあ、と溜息を吐くのと同時にさあ先輩!こっちですよ!と腕を引かれ流されるまま。
事の発端は30分程遡る。帰りのHRも終わり、ここ最近の日常通り鞄を持って家に帰ろうと下駄箱に向かえば、ばったり出会ったのはサッカー部マネージャーの木野さんで。余り関わりもないのに突然あ、風隠さんだ。と声をかけられ、部活頑張ってー!と声を返したらその後ろにいたらしい音無さんに腕を捕まれた。驚いて音無さんを見れば目を輝かしていて。あ、これ、何かヤバイヤツだ…。と危機感を覚えた時には既に遅く。先輩暇ですよね!手伝って下さい!行きましょう!と嬉々とした言葉と強引な行動に気がつけばサッカー部の部室まで引きずられた。助っ人の登場です!と扉を思いっきり開けた音無さんはニコニコと笑いながら第一声にそう言い、中にいる部員達はどうした?と首を傾げたのが見えて無性に帰りたかったが、腕は捕まれてるし目の前には木野さんが道を阻んでいるしでもうどうにでもなれ!と半ばやけくそになりながら、どーもー!助っ人でーす!と音無さんに続いて部室に入ったのがここ30分程の出来事だ。
「先輩、ドリンク作るの上手ですね!」
「まあ、陸上でも作ってたからね」
部員の皆がグラウンドで練習している間、木野さん達についていってマネージャーの仕事を手伝う。と言ってもタオルの替えを用意したりだとか位だけど。今は水道で皆のドリンクを音無さんと木野さんと作っている途中だ。二人とも手際がよくて、寧ろ私必要?なんて思っているのだが、音無さんと木野さんとお喋りが案外楽しくてその言葉を飲み込んでお手伝いをしている。
「そういえば先輩、私、ずっと聞きたい事があるんです!」
突然手を止めた音無さんは、迫り来る勢いで私にそう言ったのに動揺しながらな、何を?と聞けば下駄箱で出会った時の様なキラキラとした瞳を向けられた。
「先輩って、お兄ちゃんと風丸さん、どちらと付き合っているですか!?」
「……え?」
ドリンクを作る手を思わず止めてしまった。溢れだす水とその言葉に動揺が隠せず軽くパニックを起こす私に木野さんが慌てて水道を止めてくれた。ありがとう。と伝えればいえいえ。と返ってきた後に私も実は気になってて。と眉を下げて笑った。
「お兄ちゃんって、鬼道くんだよね?」
「はい!」
「と、風丸」
「はい!どっちですか!」
ニコニコと楽しそうな音無さんに顔をしかめる。お兄ちゃんと言われて誰の事か分からなかったけど、鬼道くんと初めて出会った時の事を思い出して納得。そうか、二人は兄妹なのか。と心の中で話を脱線させていればどうなんですか!と一歩迫ってきた音無さんに後退る。
「……いやいや。まず何でそのどちらかと付き合ってると思う訳?」
そう聞けば二人は顔を見合わせて、ちょっとしてから私の方を向いた。
「風丸くんとは同じ部活だったし、仲も良かったよね?」
「うん」
「お兄ちゃんとは最近よく一緒にいますよね!」
「あー、うんそうだね」
「それに、この間風隠さんの事で口論になってたし」
「そうです!そうですよ!」
「待って待って!ちょっとストーップ!」
二人だけで盛り上がる話を止めに入る。そうすればまた私の方へ注がれる熱い視線に女の子って本当、こういう話好きだよなぁと思わず苦笑い。
「その話、豪炎寺くんからも聞いたんだけど、なんで?」
何がどうしてそうなった。そういう意味を込めて聞けば、木野さんが風隠さんの部活がどうとか…。と呟いたのと同時に後ろから声をかけられ、咄嗟に振り向けばそこにいたのは風丸で。眉間に皺を寄せて口を開きかけて閉じる行為を何度もする風丸に色んな意味で内心ドキドキしながらどうしたの?と平然を装って声をかける。
「…」
「…風丸?」
「…部活、やめたって本当か」
「……あー」
真剣な表情でそう聞かれ、思わず曖昧な返事が口から出た。そのままの流れで頭を掻きながらあはは、うん、そう。と笑って言えば何でだよ!と叫ぶ風丸に驚く。
「何で、といわれても…」
「お前、一生懸命にやってただろ!なのに何でだよ!」
飛べないからって!そう続けられた言葉にカチンときた。今まで手に持っていたボトルを木野さんに渡せばお、落ち着いて。と声をかけられたのにとても良い笑顔を返せば口を閉じた。
「…風丸、」
「何だよ」
「一生懸命やってたから何?飛べないからって何?私にどうしろと?」
「部活辞める必要なんてないだろ」
また飛べる様に練習すれば。その言葉がどれだけ無神経なものか、風丸は分かっていない。突き刺さったその言葉に思わず拳を強く握った。
「…練習すればまた飛べる?何それ……ああ、そっか。風丸には分からないよね。この気持ち。だって、」
部活辞めても走る場所があるもんね!口から溢れた言葉と一緒に、平手打ちを喰らわす。最後に風丸のバカ!と言葉を吐き捨てて逃げる様にその場を立ち去った。
夏霧マリーゴールド
(涙を拭いながら走っていれば)
(急に腕を捕まれ、)
(振り返れば鬼道くんがいた)
20180724